Sweet Dream Day!<午後>




やがてその日はやってきた。
――バレンタインデー。

色んな可能性が秘められた1日。
この日はきっと、世界中の人たちがそわそわしてるに違いない(私談)。
かくいう私もそう。
和ちゃんを始めとして、仲良いクラスのコたちや麻雀部のみんなに
友チョコを渡すというワケで、朝から顔がほころんでいる。
プレゼントをあげるみたいでなんだか楽しい。

あれ?今思ったけど、先輩にもあげるのに「友チョコ」って言うのかな?
「先輩チョコ」?…まっ、いっか!
感謝している気持ちにはなんの変わりもないもんね。


ひとりで勝手に納得しながら玄関へと向かう。
右手には通学カバン。
左肩には忘れちゃいけない、この日のためのチョコがたくさん詰まった紙袋をかける。
念のためにもう一度中身を確認…うん、大丈夫。ちゃんと入ってる。

最下層の小箱が潰れてしまわないようになるべく均等にしまわれてあるチョコたちの、その1番上。
和ちゃんのためだけの、“特別”な一箱である。
もちろん、あの幸せの四ツ葉のクローバー入りだ!
非科学めいたことにはめっぽう否定的な彼女が、果たして四ツ葉のクローバーを見つけると
いいことがあるというジンクスを信じてくれるかどうかは、とりあえず置いておくことにする。

「行ってきます!」

見上げた空は薄く灰色がかり、吹き抜ける風はとても冷たいけれど、
雪が降ると言われていた時間帯にはもうきっと帰り道だろうから傘は必要ない。

さあ、1日の始まりだ!



『私たちの日常~Sweet Dream Day!(午後)~』



とことこと通い慣れた道を歩きながら、時折紙袋の中を覗き込む。
今日はホントに寒いけど、チョコのことを考えるとこれはこれでよかったのかもしれない。
…ってまたチョコの話ですか、私。
朝起きてから、いや昨日の夜から…否、クローバーを見つけたあの日から、ずっとこんな調子な気がする。
ヘンなの。

あ、そうそう。そのクローバーなんだけど、自分でも驚くぐらい綺麗に押し花にすることができたんだ。
水分を吸収するための新聞紙もこまめにチェックして、なんとなく日なたに置いてたりしたらね。
幸いウチにはおもしの本ならいっぱいあったし!
驚くかなあ和ちゃん?や、きっと驚くだろうな!
だってこんな寒い時期にクローバーだなんて…!
…あれ、いつのまにかチョコの話から和ちゃんの話になってる。
なんでだろ?

……そういえば、和ちゃんは今日どうするのかな。


――ずきっ――


(えっ!?)


どういうことだろう。
なぜかはわからないが、今、胸の奥のどこかが痛んだ。
理由はわからない。
けれど、確かに嫌な感覚が通り抜けて行った。

「……??」

クエスチョンマークで頭の中がいっぱいになる。
こんな日くらいは何か自分の好きなことを考えていたいが、
今、胸の中でぐるぐるに動き回っている『?』を捕まえなければ
どうにもすっきりしないのも確かだ。
和ちゃんに会うまでにきちんと解決しておかないと、
もやもやした気持ちのままあいさつを交わすことになってしまう。それは避けたい。

んん~…。
「バレンタイン」、「チョコ」、「和ちゃん」?
おかしいな、どれも私の好きなものだ。
頭を悩ませるようなことじゃない気がするんだけど。


ぐるぐる。


でもなあ…さっきイヤなカンジがしたのって、確か和ちゃんと今日のことを考えた時だったんだよね。
今日といったらバレンタインか…――バレンタイン?


ぐるぐる。


あ…!そういえば今日ってホントは好きな人にチョコをあげる日なんだよね…?
私は友チョコだけだけど…、和ちゃんは…誰か、好きな人とか……


――ずきっ!――


(…っ!?)


まただ。
また、この痛み。
今回はそれに加えて得体の知れない不安感にも包まれている。

「な、なんで…?」

空いてる方の手で胸を押さえてみると、
緊張しているときとはまた違う、不規則な脈が手のひらに伝わってきた。


なんで?どうして?
和ちゃんに好きな人がいるかもしれないことに、どうして私がこんなに混乱しているの?
別に、なんらおかしいことじゃないのに。
だ、だって私たちは高校生なんだし、そりゃあ恋のひとつやふたつだって…

あ…あははっ…なんで私、今ちょっと震えてるんだろう?寒いから?怖いから?
わからない。わからないよ。


わからない…――わからない?いや、違う。それは違う。
“わからない”のではなく、わからない“ふり”をしているんだ。

言い換えれば、“認めたくなかった”のかもしれない。
脳裏によぎったあるひとつの可能性を。


――私…和ちゃんのこと、好きなの?


……い、いやいや。
それはないでしょ私。確かに和ちゃんのことは好きだけど、その、『好き』の意味が…
意味が、違うじゃないか。
今はここが1番…重要じゃないか。

(そうだよ!好きは好きでもきっと、友達として大好きってことで・・・・・)


――どくん!――


その時、なぜか(もしかしたら無意識に「大好き」という単語に反応してしまったのかもしれない)
不意に今までたびたび思い浮かんできた疑問すべてに合点がいってしまった。

一緒にお昼を食べた日なんかに、和ちゃんのことをいい友達だと思うつど感じるあの違和感も、

自転車の件を始めとして、他の人が知らない和ちゃんを知れた時のあの嬉しさも、

何かあったらすぐに和ちゃんに教えたい、伝えたいと考えてしまうのも、

その、そのすべては―――。


(本当の意味での、『好き』…だから?)


――どくん!――

胸の鼓動が増してゆく。
いや、でも、まさか。
私の思考は続く。

確かに、一般的に言うのならこの感情はきっと『恋』というものだ。
15年間生きてきて、今回が初めてというわけではない私は
この感情に対してそこまでの戸惑いを抱くことはなかった。…けれど。


(だって私たち、女の子同士なのに……!)


そう、そこなのだ。問題は。
どうしても気にかかってしまう、私たちの性別という壁。
一般常識的にはありえないだろう、同性同士なんて。
世間の目が厳しいことは私だって知っている。

それでも、だ。

今まで私がくじけそうになった時や間違った方向へ進みそうになった時に、
必ずと言っていいほど最初に手を差し伸べてくれたのは、他でもない彼女なわけで。

彼女のためならなんだってがんばれる、そんな気すらしてくるのもまた確かで。

そんな彼女に日々強く魅かれているのも…まごうことなき事実で…

ああ、そうだ。きっともう間違いない。
私は――和ちゃんのことが―――


「! …っ!」

結論に至りそうになったまさにその瞬間、私はあることに気付き思い切り首を振った。
今の今まで考えていたことを、無理矢理頭の中から打ち消す。
そのことに、気付いてはいけないような気がしたから。

私自身はそういう同性愛?などに対して偏見は持っていないけど、それはあくまで私の話。
世間は、世界はそうではない。―もちろん、和ちゃんも。
私がこの気持ちに気付いてしまうことで私だけが苦しむんだったら、まだいい。
けど、これはそういうわけにもいかない。
いつか和ちゃんのことも傷つけてしまうかもしれないことを考えると、どうしても足がすくむ。

―傷つけるって、何に?
…心に。名誉に。この絆に。

…なんだ。結局私が1番怖いんじゃないか。
私と和ちゃんの今の関係が壊れることを、私が恐れているんじゃないか。
彼女のためとは言いつつ、最終的には自分のため・・・?

でも、それならそれで構わない。
今のままでいい。
今のままでいいんだ。

私は、がんばれるから。


2月14日、バレンタインデー。
私はこの日、彼女に向けて抱いたこの感情に『恋』と名付けることを禁じた。



*



「おはよー和ちゃん!」

「お、おはようございます」


思ったとおり、今日は和ちゃんの方が早く待ち合わせ場所に着いていた。
無理もない。だってあんなに悩みながら歩いてたら、そりゃ誰だって歩くのゆっくりになっちゃうよ。
…って私が言うなって話だけど。

待たせていることに気付いて、少し小走りで走り寄ったら
「手を後ろに組んだまま走るのは危ないですよ?」と注意されてしまった。
でも、驚かせてあげたかったんだもん。このチョコ。
それに…

「はいこれ、バレンタインのチョコ!和ちゃんに1番に渡したかったんだあ!」

紙袋から取り出したとっておきの一箱を渡す。
和ちゃんはアタフタしながらそれを受け取ってくれた。
私はひとまず安心する。
本人はどう思っているか知らないけど、彼女は絶対にモテるから(もらうチョコの数的な意味で)
きっとすぐ両手いっぱいにチョコの山を抱えることになってしまうだろう。
それに埋もれてしまうのはなんとなくイヤだったし、
「和ちゃんと1番仲がいいのは私なんだ!」という何の根拠のない意地を貫きたかったから。

ほら、1番最初に渡せるってことは1番最初に会ってるってことでもあるんだし。
これって結構“特別”なことなんじゃない?…なんてね。

『1番』…これは私の最初で最後のわがままと言ってもよかったかもしれない。
これくらいは許して欲しい、と。
そんな自分の未練がましさに内心うんざりしながら、半ば開き直るようにして笑う。
一瞬、私と違って勘の鋭い和ちゃんにそれを見透かされてしまうのではないかと焦ったけれど、
何やら彼女は彼女で落ち着かない様子だったので、その不安は杞憂に終わった。
…あ、そうだ!危ない危ない、言い忘れるとこだった。


「おうちに帰ってから食べてね!
 (和ちゃんは学校で食べたりしないだろうけど)」

「はいっ!本当にありがとうございます!」

「どういたしまして♪」


さて、私のバレンタインはこれでおしまい!の、はずだったけど…


「あ、咲さん!実は私も咲さんにチョコがありまして…!」
「えっ…ホントに!?」
「はい!…こ、これです!」
「うわぁ…!ありがとー!すっごく嬉しいよ!」
「そ、そうですか?喜んでもらえて…光栄です」
「えっへへー」


……あぅ、どうしよう。本当に、思いのほか嬉しい。
てことはたぶん、私が和ちゃんから1番最初にチョコをもらったことになるんだよね…?
『1番』にこだわっていたことがまさかここで裏目に出るなんて。いや、嬉しいんだけどっ。すごくね。

そんなちょっぴりフクザツな気分のまま、笑いあった。
このまま時間が止まっちゃえばいいのに、なんて、わがままもいいとこかな。



――


時は移り、放課後。
ひとりぼんやりと部室に向かって歩き出す。
今日はなんだかボーっとした1日だった。
心ここに在らず、とでもいうのか。
ふと気を抜くと、毎回といっていいほど和ちゃんのことが頭によぎって
イコール今朝うやむやにしたばっかりのあの気持ちの隠された名前を呼んでしまいそうで、とにかく大変だった。

あえて意識しないことがこんなにも苦しいだなんて。
いっそのこと認めてしまえば楽になれるかもしれないのにね。
だけど、臆病な私には到底できっこない。


「…はぁ」


友達に心配されてもなおつき続けたため息は、いったいこれで何度目になるのやら。
『ため息をつくと幸せが逃げる』というアレがもし本当なら、今頃きっと私は不幸なんだろうな。はぁ。


(…あ~もうまたついてる!しっかりしてよ私っ!)


両手で頬をぱしっと叩き、気休め程度の気合を入れ直す。
もう部室はすぐそこだ。
みんなに会いさえすれば、こんな沈んだ気持ちなんてどこかへ飛んでいってしまうに違いない。
そんな期待を込めて、麻雀部の扉を開けた。


「こんにちは~」


こ、こんにちは。いらっしゃい。おう。ウワサをすればなんとやらだじぇ。

ふふ、あいさつにも色々あるものだ。思わず笑みがこぼれる。
その時、左肩の辺りからガサッと小包が揺れる音が聞こえて、チョコの存在を思い出した。
優希ちゃん…は今和ちゃんとお話中だし、京ちゃんから渡そう。
(ちなみに教室で渡さなかった理由は、周りにからかわれるとはずかしいからです。)


「はい、京ちゃんこれ!」

「おっ、毎年毎年サンキューな咲!」

「どーいたしまして!」

「あ、そうだ。中身を当ててやろう」

「え?なんで?」

「ん~…今年は生チョコだろ!」

「(ぎくっ!) な…!」

「ははっ!その顔じゃ正解だな?
 まあただ言ってみただけなんだけど、これも長年の付き合いのおかげってヤツか」


えぇ…!?ちょ、ちょっと待ってよ!さすがにこの展開は予想してなかった!
じゃあ最初っから当てずっぽうで言っただけってこと!?
っていうかこんなに大きい声で話してたら…!
和ちゃんに他とは違う中身だってことバレちゃうよー…っ!


「ウソ!?てかそんなんじゃ…!その前に京ちゃんちょっと、し、静かに…!」

「んぁ?なんで?」

「いいからシィー…!」

「??」


焦りやはずかしさのせいですっかりほてってしまった口元に人差し指を添えながら、
ちらりと横目で和ちゃんをうかがってみる。
……あぁ、よかった。
部長たちと一緒にお茶飲んでるよ。この分じゃ聞かれてなさそうだ。
セーフ…と、私は胸を撫で下ろした。


「なんだ?どうかしたか?」

「あ、ううん。なんでもないよ」

「…そ?ならいいけど。…あ、それよりお前さあ!今日の古典の時なにがあったんだよ?」

「あ、アレ?ふふっ、アレはね、私が――」

「――はははっ!なんだそりゃ!」

「だってあの順番だったら絶対次私だって思わないっ?」

「んー?まあそうかもな。ははっ」

「なんだなんだ!?私も混ぜろーー!」

「あ、優希ちゃん!あのね、聞いてよ?――」


…なんだ、ほら。笑えるじゃない。
大丈夫、大丈夫。
ため息なんかついたって、幸せは逃げたりしない。



*



「…でね?順番的に次は私が当たりそうだったから――」

「…ふふ、それは意外でしたね」

「でしょー?先生ったらさあ」


2人っきりで歩くいつもの帰り道。
この話をするのは今日で3回目。
だけど貴女が微笑んでくれさえするのなら、これからだって何回でも、どんな話でもしよう。
貴女の笑顔のためならば、この胸のわだかまりなんて安いものなんだから。

そんなことを頭の片隅で考えていると、突然和ちゃんがフッと笑った。
あれ、私今なにかしたかな?

「ん?何笑ってるの?」

「え?あ…その、楽しくて」


(…そっか)


楽しんでくれてるんだ、和ちゃんは。私と2人でいることを。
驚いたのもあり、嬉しかったのもありで、照れ笑いながら「私も楽しいよ!」と素直な気持ちを返した。

途端、なぜか和ちゃんは「そ…そうですかっ」と言ったきり前を向いてしまったけれど、
別に怒っているわけではないことはわかっているので、気にせず隣に居続けた。
空は、穏やかな静寂に包まれている。
む~、それにしても今日はホントに寒い。
やっぱりあのクローバー、摘んできて正解だったかも。
もし私がクローバーだったら絶対にしおれてる自信あり。

「…咲さん?」

「あ、いや。今日は寒いなあって思って」

「そうですね…昨日まではあんなに暖かかったのに」

「もう少しで3月なのにねー。…ぅぐ」

「? どうしました?」

「んー…なんかくしゃみが出そうで」

「え、大丈夫ですか?」

「うん、風邪とかじゃないと思、ぅ……ふぇ、―――」



――


「――っくしゅん!、えっ!?うひゃあっ」

どんがらがっしゃーん!
ベッドから転げ落ちたことに気付くまで、わずか数秒。
あまりにもリアルな夢のせいで一瞬ここがどこだかわからなかった。


(そ、そっか…私、和ちゃんに貸す本を探してる途中で寝ちゃったのか)


我ながらよく寝ると思うよ。むしろもう、ちょっと情けないよ。
まだ覚醒しきっていない目と、落ちた拍子にぶつけてしまった背中をこすりながら、そう思った。


その時、例のしおりを手にしていないことに気付き、かなりの冷や汗を流すも
ベッドの上に何事もなかったかのように置かれるのを見つけ、安堵の息をつく。
見たところ、寝返りなどで傷つけてもいないようだ。
それをもう一度手にとってベッドに腰掛ける。
青々とした四ツ葉のクローバーは、何度見ても飽きることはなかった。

たぶん、寝る前にこれを眺めてたからあの日の夢を見たんだろうな。
私自身印象が残る1日だったし。
うんうん、とひとり頷きながらさっき見た夢の続きを思い浮かべていると、
がちゃりと玄関が開く音と共に「ただいまー」という声が耳に入ってきた。


「えっお父さん!?お、おかえり!」


うそっ!お父さん?も、もうそんな時間なのっ?
眠気を振り切って掛け時計を見上げてみると――、20時をとうに過ぎていた。
なんと・・・あれから1時間以上も寝てたのか…!
すごいよ、なんかもう逆にすごいよ私!


「おーい、咲ぃー?」

「あっはーい!」


なんて、バカなことを考えてる場合じゃない。
なんせ今まで熟睡していたせいで、ごはんの支度も何にもできていないんだから!
あわわ、ゴメンねお父さん!

「今行くー!」と声を掛けながら部屋のドアを開け…る前に、手のひらの宝物をそっと机に置いた。


『ため息をつくと幸せが逃げる』――。
もし、もしそれが本当のことであるならば。


「……私から逃げた分の幸せ、全部、和ちゃんに届きますように。」


そう、祈りながら。



~FIN~



―おまけ。その後の2人―



―たったったった……


「…ん?」
「―さん!咲さーん!」

「ふぇっ!?どうしたの和ちゃん??」
「こ、これ…!はぁ、はぁ…これ!どういうことですか!?」

「ど、どういうことって…私があげたチョコがどうかしたの?
 あ、もしかしてそのクローバーのこと?それねー私もびっくりしたんだけd」
「ち、違いますっ!そうじゃなくて、いえそれもですけどそうではなくて!
 …な、生チョコだけじゃなかったんですか…?」

「――!?な、なんでそれを…あ、まさか…」
「…はい。先ほど、須賀くんと話していましたよね?」

「…あちゃー、聞かれてたんだ」
「…ごめんなさい」

「ううん!和ちゃんが謝ることじゃないよ!
 むしろ私のほうこそゴメン、困らせるようなことしちゃって…」
「いえ、咲さんだって謝る必要はありません!それに私は別に困ってなんか…」

「…ないの?」
「な、ないです!私はただこのクッキーとクローバーの意味が知りたい、それだけです!」

「い、意味…!?えっと、意味はその…なんというか、
 和ちゃんには普段ホントにお世話になってるから、そのお礼も含めてみました、という…」
「…お礼…だけ、ですか?」

「――う、うん…余計だったかな?」
「っ!そんなこと…そんなことありません。
 とても嬉しいです。―――ただ、少しうぬぼれていました」

「え?何?」
「いえ、何でも。とにかく、本当にありがとうございます、咲さん」

「う、うん。。…あ、でもそのクッキーとクローバーは和ちゃんにだけの“特別”だからね?」
「えっ…!?そ、それはどういう…?え、本当ですか?」

「うん!お父さんにもちょっと焦げたとこくらいしかあげてないし♪」
「――!す、須賀くんや部長には渡してないんですか!」

「なんでそこで京ちゃん?まあいいけど、和ちゃんにだ・け!だよ?」
「~~~…ッ!
 そ、そうですか・・・!お礼って言うからてっきり麻雀部の皆さん全員にだと…っ!」

「あは、それだとさすがに私のお財布がもたないかな~と思っt」
「咲さんっ!」

「!? はっはい!?」
「生チョコもクッキーもクローバーも、本当にありがとうございます!
 どれも全部、おいしくいただきますから!」
「う、うん!?よろしくどうぞ!(?)」


相変わらず、その手のことにはめっぽううとい少女Sは
突然テンションが高くなった少女Nの真意に気付くことはなく、

一方その少女Nは、最後に発した言葉ではまるで
クローバーまで食べてしまうかのような意味であることに気が付かなかった。

だけどまあ、いいじゃないか。
なんだか2人とも、幸せそうに見えるのだから。



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最終更新:2011年04月27日 10:45
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