初恋のおにごっこ




10月も半ばを過ぎ、そろそろ衣替えに本腰を入れる頃ではないかと思う平日の昼過ぎ。

今でこそ、弾んだ足取りで「一緒に部室に行きませんか」と、咲を教室まで向かえに行く和であったが、
実は彼女は最近まで、とある心配事に悩まされていた。
厳密に言えばそれは和自身に起きたことではないのだけれど、
彼女にしてみればむしろ、自分以上に重大なことだったのだ。

“だった”…そう、過去形である。
ということで、もうなんやかんやで解決していたりして。


「あっ!今サッカー部の誰か転んじゃったよ!痛そう…!」
「え?あ…!大丈夫なんでしょうか…」
「運動部の人たちって大変だよね…ケガするかもしれないんだし」
「えぇ…」


驚く咲に続き、和も窓から校庭を覗き込んだ。

(麻雀部の私たちにケガは無縁ですものね)

私たちも体育で運動することはあるけれど、
ケガをするまで全力でやっているかと聞かれれば…
自信を持ってYESとはうなずけない。

先生に指導されたことをできるだけ実行し、
授業と言えど楽しみながら、
しかし試合になればそこは絶対に勝つつもりで……


「…サッカーと言えばさ」
「はい?」
「こないだの…ククッ、和ちゃんのミラクルシュート…あははっ!」
「ま、またその話ですか!?」
「あはははっ!だ、だってー!ホントにビックリしたんだもん!」
「だからアレはただの偶然だって、何回も言ってるじゃないですか!」
「それをミラクルっていうんだよ~!さすが…フフッ、和ちゃん!」
「も、もう…!咲さんなんて知りませんっ」
「あ!ご、ごめんっ!でも1回笑い出したら、アハ、止まらなくなっちゃって…!」
「笑いながら謝っても意味ありませんから!」


…とは言うものの、本当は和だって全然怒ってなんかいない。
『あの事件』のことをこんな風に笑い話にしている咲に、心の底から安心しているのだ。

(芯が、強いんですね)

何せ他でもない咲があんな大変なことに巻き込まれてしまったのだから、
友達として、好意を抱く側として、心配しない方がおかしい。ね、そうでしょう?
だけどその心配事も、ここ2~3日ですっかり和らいだ。
その全貌はこうだ。



――


忌々しい事件が起きた10/3。あれから数日が経った。
今、咲さんは何を考えて過ごしているのだろう?

…時間は、副作用のない薬だと聞いたことがある。

だからなるべくあの日のことに触れないよう、
ふとした瞬間に思い出させてしまわないよう、
細心の注意を払って接してきた。
例の犯人らが翌日には捕まったという朗報でさえも黙っていた…というのに。


『優希ちゃん聞いてよ!スゴかったんだからっ、あの時の和ちゃん!』


これである。
今からだいたい3日ほど前のことだった。

がっくり。
正直言って、拍子抜け。
まさか彼女自身からその話題に触れてくるとは夢にも思っていなかったのだから。


(考えすぎだったんでしょうか…?)


──いや、待てよ?
無理して笑っている可能性も…充分にある!
まだ日は浅いんだ。薬とは言っても、いくらなんでもすぐに効きすぎだろう。
それにあんなこと、簡単に忘れられるはずもない…
そう思った和は、早速その日の帰りに咲に問い掛けてみることにした。


「あの…さっきの話のことなんですが…」
「さっき?」
「優希と話していた…」
「あぁ!音楽のテストの」
「い、いえそれではなくて!」
「え?違うの?」
「…あの日のことです」
「あの日って……あぁ」

ここまで遠慮がちに聞かれれば、咲も気が付かないわけにはいかない。
記憶がリフレインしたのか、一瞬目を伏せた咲を見て和の疑問がより確信めいたモノに近づいた。

──無理をしないでください。

トラウマになっていて当然なのだから…
そう思い口を開きかけるが、それよりも少しだけ早く咲が笑った。


「無理してるんじゃないかって思ってるでしょ」
「え…」

図星。

「やっぱりね」
「……違うんですか」
「んー…半分正解ってトコかな」
「半分?」
「今はもう大丈夫!ってこと」
「……」

…本当なのだろうか?

「あ、信じてないでしょー!」
「うっ…」

またもや図星。

「…だ、大丈夫と言われましても」
「だってホントのことなんだよ?」
「ホントに」
「ホント!」
「……」
「…まだ信じられない?」
「そういうワケでは…」

信じるか信じないかで聞かれれば、答えはもちろん「信じる」一択。
ただ、やっぱり他の誰でもない彼女のことだから、どうしようもなく心配になってしまうのだ。

その辺のこと、いつまで経ってもうまく伝えられない自分がもどかしい。


「もう…そんな顔しないで?」
「えっ?」
「今の和ちゃん、私よりも無理してるように見えるのわかってる?」
「…!」
「ほら、やっぱりわかってなかった」

あっけに取られている私を尻目に、咲さんはケラケラと笑う。
わ、私がそんな顔をしていただなんて…

「そう、だったんですか…?」
「うん。私にとっては、そっちの方がツライ」
「あっ…!え、えっと、その」
「でも、心配してくれてるのはわかってるよ。ありがとう。すごく嬉しい」
「え…!あ、いえそれは当然のことですから…!?」
「あははっ」

…い、いつのまにかすっかり咲さんのペースじゃないか。
このままじゃことの真相にたどり着く前にはぐらかされて…
あれ?でも咲さんはもう大丈夫だって…え?ん?
つまり…どういうことなんですか?
私が次に聞きたかったのは……―


「――そう!咲さんは本当にもう大丈夫なんですか?」
「本当だってば!和ちゃんは疑り深いなあ」
「嘘では、ないんですね?」
「和ちゃんに嘘なんかつかないよ」
「そっ…ぅですか」


私を見つめるその瞳が、あまりにもまっすぐだったものだから。
私に向けたその信頼が、あまりにもあっけらかんと伝えられたものだから。
つい、一瞬だけ押し黙ってしまった。

でもそれまではしっかりと真剣な目付きで問い掛けたつもりだ。
彼女を思い、想う気持ちには何の偽りもない。

それをこんなふうにあっさりと返されたのだから…恐らく本当に“本当”なのだろう。
(加えて、私が言うのも変な話だけど咲さんは嘘がヘタだ)


「大丈夫だよ。何かあったらすぐに言うから」
「…約束ですよ?」
「うん、約束」


交わされる2人の小指。
和と咲の、始まりの瞬間。

傍から見ればそれは「ふつうの指切り」の他ないけれど、
この2人にとっては、何よりも特別なものに感じられるものだった。


……ところで。
皆さんは『赤い糸の伝説』なるものをご存知だろうか?
運命の人とは左手の小指にある見えない赤い糸で繋がっている、というアレだ。
一度は聞いたことがあると思う。

(あ……)

その事が、和の脳裏にもたった今思い出された。


──この指に、繋がっていたらいいな…咲さんと……


なんてことをふと考えて、


(な!何をバカなことを!)

と勝手に顔を赤くして俯く。
頭からは今にも湯気が出てきそうだった。


「ど、どーしたの?」
「…なんでもありません……」


――


そして、今。
まるで何事もなかったかのようにはしゃいでいる咲に、つられて和も笑いだした。
いつのまにか2人だけになっていた教室内に、明るい笑い声が響く。

そうして笑い疲れた息がとぎれとぎれになったとき、咲が切り出した。


「…ねぇ、今度の日曜日、空いてる?」



      • 風に舞い散る花びらを… 追いかけて追いかけて…---






これはデート、なのだろうか。

いや違う。たぶん違う。
デートとはそれすなわち、「日付。日時を約束し異性と会うこと」らしいから。
適当に手に取った辞書にはそんなことが書いてあった。

私たちは、異性じゃない。
恋人でもない。…残念ながら。
あ、いや「残念ながら」って!

じゃあ、……まだ。
いやいや「まだ」の方が問題アリ…!?


と、ご覧のように先ほどから悶々とし続けている和。
時刻は夜の11時を回った辺り。
翌日には、約束の日曜日が控えている。

(ああ…もうこんな時間!早く寝ないと)

そう思って寝付けたら苦労はしないのだけど。
実はさっきから同じことを繰り返しているのだけど。

とにかく、眠れない。
まるで遠足前日の小学生のように。
明日への期待が高まりすぎて、
2人で会うという事実に胸が高鳴りすぎて。

ああ、なんて楽しみなんだろう!

(遊ぶのなんてこれが初めてじゃないのに、私ったら…
 ――あ、明日何を着ていきましょう…?)


こうしてまた、恋する乙女の睡眠時間は減っていくのであった。


 ~ ~ ~


それでいて、早くに目が覚める。

「はぁ…」

自分の気持ちに正直すぎるのも考え物だ。
こんな子どもっぽいところ、咲さんには見せられません。
私は、なんていうか…そう、大人っぽくて頼られる存在でありたいのだから。

――あ、でも。

無邪気な子どものように「素直な気持ちで向き合う」というのは、とてもいいことだと思う。
思えば私はいつも、咲さんに対してツンっとした態度を取ってきたような気がする。
それも、肝心なときに限って――だ。
こういうの、何て言うんでしたっけ…確か、「熱帯雨林」のような言葉だったような。
…とまあ、それは一旦置いといて。

話を戻します。

せっかくそれまではふつうに会話ができていたとしても、
ちょっと気恥ずかしくなった途端に口下手になってしまう。。
優希相手ならこんなことはないのに、なぜでしょう?
いや、理由はなんとなくわかってはいますけど…

「…決めました」

『素直』を目標に、今日1日を過ごしましょう!
少しずつでもいいから、素直に気持ちを伝えさえすれば…きっと。きっと…!

……その時、和を応援するかのように、朝の日差しに反射した『希望』がキラリと輝いた。



――


集合場所は最寄の駅。
映画館付きのショッピングモールへ赴くために、ちょっとだけ遠出。

『観たい映画があるんだ!』

咲さんが言うそれは少女漫画が原作となった話題作。
小説版にもなっていて、これは以前咲さんから借りて読んだことがあるが、
とても心に沁みるいい作品だと思った。
それの実写化映画を観ることが、今日1番のメイン。

がたん…ごとん…

静かに揺れる電車のリズムが、妙に心地いい。


「ちょうどいい時間に間に合えばいいんだけど」
「大丈夫ですよ、確認してきましたから」
「確認って、始まる時間のこと?」
「ええ。今はネットで調べることができるんです」
「へー!すごいね、ありがとう!」
「っ!い、いえ、ヒマな時間を持て余してもと思って…」


(…っていけない!これじゃあいつもと変わらない私のままじゃないですか!)

もはや一種のクセのようについ顔をそらしてしまった和だが、
このままじゃダメだと思い、頬を赤くさせたまま咲に向き直った。


「あ…あの私、本当は咲さんのために―――」
「あっ!見て見て和ちゃん!キレイなコスモス畑っ!」
「え!?あ、あぁ…そうですね…」


―――くっ…もう終わった話扱いだったとは……


せっかく入れ直した気合も早々にくじかれ、早くも心が折れそうになってしまった和。
がしかし、まだ1日は始まったばかり!

(次こそは絶対素直に…!)

と、決意を新たに密かに燃えている少女・Nのとなりで

(和ちゃんとおんなじ色だ…)

と、こちらも密かに微笑んでいる少女・Sなのであった。




「ポップコーン…見本を見るに、レギュラーサイズでもたくさんありそうですね」
「うん…私そんなに食べられないからスモールでいいかな。和ちゃんは?」
「私もスモールで」
「あ、じゃあ2人でレギュラー買って、一緒に食べない?」
「なるほど、そうしましょう!」


そういったわけで2人の席の間に置かれるおいしそうなキャラメルポップコーン。
休日だけあって、混み具合もなかなかだ。
咲と和以外にもキャラメル味のポップコーンを頼んだお客は多いらしく、
館内には甘く優しい匂いが立ち込めていた。

上映開始まで、あと少し。

携帯電話の電源を切りましょうとか、上映中のお話はご遠慮くださいとか、
そんな注意を促す定番のムービーを眺めていると、ふいに照明が落とされた。
言われたとおりケータイの電源を切っているので時間の確認はできませんが、
暗くなったということはいよいよ始まるのでしょう。

…と思ったら。

(あ、予告…)

そうそう、忘れてた。映画館にはこれがあったんだった。
始まる前の、他映画の宣伝と予告。

本編を早く観たい人にとっては必要ないと思うかもしれませんが、
普段見ないジャンルのものを知ることができるので、どちらかといえば私は好きです。


でもホラーだけはありえませんから。

1ジャンルとしての意味がわかりませんから。

怖いとか怖くないとかそういう問題じゃありませんから。

第一存在しませんから。


(…だ、だから…早く次行ってください…!!)
(あわわ、大丈夫かな和ちゃん……)


そんな和の強い祈りが通じたのか、パッとスクリーンが切り替わった。
同時に安堵のため息をつく2人。各々の意味は違うけれども。

そして始まったのは、…今度はラブストーリー。
冬公開らしい。一瞬「それらしい季節だな」と思ったが、ふと改める。

――恋愛に季節なんて関係ない。

恋に落ちたらその時が“その時”だ。
現に私の場合は、春。
そう思うと「1番それらしい季節は春」だなんて、そんなおかしなことも思ったりする。

(…ふふ、私ったら)

心の中で小さく嘲笑しながら改めてスクリーンに目をやると…


ラブストーリー映画お馴染み、キスシーンの真っ最中だった。


「……ッ!?」


思わず目を見開いてしまう。
そして硬直。
次に赤面。こちらもお馴染みのパターン。

でも、そうなってしまってもしかたがなかった。
ご家庭でもたまに味わうことができる何とも言えないこの空気…
それに思いっきりあてられて平然としていられるほど、和は落ち着き払ってはいなかったのだから。
ましてや、今自分のとなりには……!

比較的濃い内容ではあったが、
時間的にはたったの数秒しかなかったそれはもうとっくに過ぎ去っていったけど、
一度生まれた空気はそう簡単にはなくならない。
となりにいる咲に動揺を悟られないよう、誤魔化しの意も含めてポップコーンに手を伸ばした。
…しかし、その手にふれたのは──…

「…?あ…!ごめんなさいっ」
「う、ううん…!」

なんと、咲の手。
同じタイミングで伸ばされていた手に気付かず、図らずも想い人の手を取ってしまったのだった。
しかも、こーんな空気の中で。

ホラー映画の予告を見ていた時とは全然違うドキドキが、胸の中を埋め尽くしていく。


(左手が……熱い…。でも、できることならずっと今のままで…)


館内に広がるキャラメルが、さっきよりも甘くなっているような気がした。



      • そっと手にしたひとひらに… あふれだすこのキモチ…---






無事、映画も観終わり(果たして和が前半部分を覚えているかどうかは謎だが)
せっかくこんな所まで来たのだからとショッピングモール内を探索していた和と咲。

たまに気になるお店に立ち寄ったり、
おいしそうな匂いにつられてクレープを購入するなどして
とても満足いく休日を過ごすことができた。
だが残念ながら、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので…


「うわあ、もうこんなに暗いんだ…」
「すっかり秋なんですね…」


今までずっと建物の中にいたから気が付かなかったけれど、
まだ6時だというのに空一面がすべて濃い灰色に染まっていた。
この前までは7時を過ぎてもまだ明るかったというのに。

なんだか少し物寂しい。


「肌寒いね」
「そうですね…さ、行きましょうか」
「うん」


駅まで徒歩10分足らず。歩けば少しは暖まるでしょう。
そう思い、ふと左を見ると

「ハァー…」

咲が息を吹きかけながら手の平を擦り合わせているところだった。

「……」


――もしかしてこれは、チャンス…?


今なら自然に手を取ることができるはず…恐らく。
ただ、肝心なのは勇気がそれに追いついてくれるかどうか。

…ゴクリ。

無意識に息を飲む。

素直に…そう、自分の気持ちにまっすぐに……―――。



ぎゅっ、と。



「わ、和ちゃん?」
「…え、っと」


右往左往としていた視線が、彼女のそれと交じり合ったところでやっと落ち着いた。
目が合うだけでこんなに緊張するなんてこと、この春までは全く知らなかった。
でも、今ならわかる。

この人の前でなら、自在に弱くも強くもなれる自分自身を。


そして込み上げてくるは、「すき」。

例えるものが何もなくて、
超えられるものも何一つない。

ただ、すき。

もうどうしたらいいかわからないくらい、すき。


「もしあなたに風邪を引かれでもしたら、困ります」
「でもこのくらい平気だよ?」
「それだけでは…ありません」
「な、なぁに?」
「私が、こうしたかったんです」
「っ!」

全身から「すき」があふれて止まらない。
こうしている今この時この瞬間にも「すき」が育っていくのを、心の底で感じていられるくらい。

「──私は」

いったん咲から目を離し、想いが零れ落ちてしまわないよう
右手を胸に添えて、ゆっくりとまぶたを降ろした。


「あなたとこうしていると、自分が自分じゃなくなったようになるんです。
 でも、それもれっきとした“私”。
 きっと私はあなたと過ごしているだけで、
 どんどん知らない自分に出逢っていっていると思うんです。

 最初はもちろん戸惑いました。
 こんなこと、今まで想像したことも経験したこともありませんでしたから」


手にふれた『希望』を軽く握り締めて、続ける。
あれ、私、今ちょっと震えてる。


「けど、今ではそれがないとものすごく寂しいんです。
 咲さんと共に過ごすこの日常が、他のどれを差し置いても必要なくらい大切で。
 …とにかく、すごくすごく楽しくて。

 ……咲さん。私は、あなたのことが――――え?」


最後の言葉くらい、きちんと目を見て言いたかったから振り返ったのだけれど。
つい、あっけに取られてしまった。

――和の視線の先にあるものとは?


「…ッ…、の、のどかちゃん……!」


頬全体をこれでもかと真っ赤に染めた、初めて見る咲のしどろもどろな姿だった。
驚きと困惑を足して、もみじの紅で割ったような、そんな表情。
無垢な瞳も今やあっちこっちへ泳いでばかりいる。

けど、決して嫌がってはいない。
それだけは和にも理解できた。


「咲さん?」
「あ…ぅ。ううん違うの…!その、ちょっと意外だったっていうか」
「な、何がですか?」
「和ちゃんが…そーゆうこと、言うの」
「…ま、まあ…」

その通りである。

「だ、だからビックリしちゃって!あは、あははは…」

と言いながら空いている左手で頭をかく咲。
その時和は、さっきまでひんやりとしていた咲の右手が熱を持ってきているのに気が付いた。
と同時に、そんな咲の姿になんとなく覚えがあるように思い、少し思考を凝らす。

(これは…いつもの私?)

…そうだ、きっとそう。
ということは、ふだんの私たちの立場が入れ替わっている、ということになるのだろうか?


――それ、おもしろいですね。


「ビックリ、ですか?」
「う、うんそう!それだけっ」
「でも、顔が赤いですよ?」
「え!?っと、これは…さ、寒くて…!」
「なら、もっと暖まらないといけませんね」
「えぇぇ…ッ!?」


調子に乗って、もう片方の手でもぎゅっと握りしめてみた。
案の定すぐさま固まる咲さんの体。
私の目の前でうろたえている彼女を見るのは、なぜだかニヤけが出てきそうで少し焦った。

ですが咲さん、私はいつもこんな気持ちでいるんですよ?
たまにはいいと思いませんか、こういう立場でお話しするというのも。


「あぅ、の、和ちゃん…」
「ふふっ」
「え、どうしたの?」
「いえ、別に!」


      • 風に舞い散る花びらを… 追いかけて追いかけて…---


「ただ――」
「? ただ……?」


      • そっと手にしたひとひらに… あふれだすこのキモチ…---



「やっとつかまえられた――と思っただけ、です♪」



      • 遠い・おさない・想い。初恋の『おにごっこ』---





最終更新:2011年04月27日 10:48
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