2-297 「無題」



彼女は突然に言った。

「原村さん、指相撲しようよ」

なぜいきなり指相撲なのかわからなかった。

「え…指相撲ですか?」

「うん…今日、京ちゃんに負けたんだ。原村さんは強いのかなって」

理由はわかりました。
私でよければ、いつだって相手をいたしますよ。あまり強くはないですが…。

「いいですよ…はい♪」

「ありがとう」

「あ…!」

そうか…指相撲って、手を繋ぐのか…。
顔が熱くなるのがわかった。

彼女は私の指を、彼女のそれで強すぎず弱すぎず…握る。


「…宮永さんって…須賀君と仲がいいんですね。指相撲、するなんて…」

ふと湧いた疑念。

「うん、仲良い方だよ」

…それは。
手を繋ぐくらい、仲がいいんじゃないのですか…?

「…手、…」

「…?」

「手を繋ぐのにですか!?」

思わず言ってしまった。

「え…」

宮永さんは沈思黙考。
なぜ、とでも言いたげな様子。

「…ごめんなさ…」

謝ろうと思った。
何かが違ったから。
こんなんじゃ駄目だと思ったから。

「違うよ?原村さん」

…それは遮られた。

「確かに京ちゃんとは仲がいいけど…本当に、それだけだよ…」

…それは…。

「不安にさせて、ごめんね…」

何を馬鹿な勘違いをしたのだろう。
だって…私たちは…。

「…私こそ…ごめんなさい。勝手に勘違い、しちゃいました…」

しばらく、手を繋いだままだった。

「…原村さんとしか、そういうのはしないようにするよ」

手を繋いだまま、彼女は言う。

「…それは…違います」

「?」

「私は…あなたを拘束したくて…あんなことを言ったのではありません」

そう。別にあなたを束縛したいのではない。あなたが、もしかして…下らない疑心暗鬼だったけど、須賀君とそういう仲だったら怖かった。

ただそれだけだったから。

「だから…今まで通り、須賀君とも接してあげてください」

せっかく仲がいいのだから。

「…原村さんは優しいね」

…そんなことは。

「そんなこと、ないです…」

現に、さっき疑った。

「ううん。優しいよ。ありがとう…」

彼女はまた微笑む。
私はまた、あなたに…浚われてゆく。





「1、2、3、4、5…!」

「あぅ~!また負けた…!原村さん強いよぉ…」

「そ、そんなことは…」

「勝負ごとだと厳しいね…原村さん」

「…お互い、手加減しちゃ…いけないと思いますから。あなたが麻雀、手加減しないのと同じです」

「…!そうだね…。うん!もう一回!」



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最終更新:2010年04月22日 12:54
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