2-412 「無題」



「雨、降りそうだね…」

いきなり天気は下り坂。
夕立の季節はもうすぐ終わるのに、今日はどうしてなのか、曇りだしたのはついさっきで。

「いきなりですね…」

「室内部だから雨なんて関係ないじぇ!」

「…雨だけならいいのですが…」

雨だけにしてください。頼みますから。

「のどちゃん雷を恐れて」

「いません」

いません。い、い…いないんだから。

そんなこんなしているうちに部長がやってきた。

「みんな揃ってるわね。雨、降り出したわ」

「あ、部長」

「雷も来そうだじぇ♪」

なぜ優希はそんなに雷にこだわるのですか!
あまりみっともない姿は見せたくない。
特に…隣で、私と話してくれていた、愛らしい彼女には。

「雷はやだよね…」

「宮永さんは雷、嫌いですか?」

「うん。小さいころからずーっとだよ…原村さんは?」

「わ…私は…」

さっきまで意地でも嫌いとは言いたくなかったのに、彼女の前では本音になってしまうのは…なぜなのだろうか。

「き…嫌いです」


ゴロゴロゴロゴロ


……。ついに空は、嫌な音を発し始めた。

「あ、停電になったりしてね~」

「……!!!」

部長の言った一言は私を追い詰める。

「…いやぁ…」

思わず震えだしてしまう。

怖い。
たまらなく、怖い…。


ふと気がつくと。

隣には、私の手を握った彼女がいた。

「、み、宮永さ…」

「大丈夫。大丈夫だよ」

大丈夫…大丈夫なんだ。
なぜか納得してしまう私がいた。


そして…顔が赤くなるのに気付く。
今彼女が私の手を握っているという事実に恥ずかしさと、また安心を感じた。

宮永さんがいると、安心だった。

たったそれだけなのに、安心だった。



(傍観者側)

「あーら…」

「邪魔しちゃ悪いのぅ」

「でも部活が始まらないわよ?」

「…犬、ブレーカー落として来い!」

「落としてどうする気だ」

「…怖がらせるんだじぇ!」

「そんな。可哀想だろ」

手をつないで、俯いた2人が、いた。

そこまでの距離は、どうしようもなく遠かった。
だから…なんだというんだじぇ。

中学までの仲良しさんがなんだか遠くにいるようで。

「ほらー、イチャイチャしてないで部活始めるわよ」

「「あ…」」

赤面する2人。
そんな2人を見て、また私はタコスを食べるのだった。

少し、寂しかった。

…なんて。私らしくないじぇ。



イチャイチャ…かぁ。恥ずかしいな。
でも…原村さんとなら、別にいいかな、なんて。
馬鹿みたいだね。

「…宮永さん」

「…?なぁに?」

「…まだ、手…離さないでくれませんか?」

え…?

「…か、か…雷が…まだ…くるかも…しれないからぁ…あの…」

…可愛いなぁ、原村さんは。

「うん、いいよ。ずっと握ってるよ」

雷が止んでも…離したくない。

「…ありがとうございます」

「…ありがとう、原村さん」

「み、宮永さんがなんでお礼を…」

だって…原村さんと手を繋いでると、幸せなんだ。

だから…お礼。




「あのさ、部活始めたいんだけど?…あんたたち、個人戦勝てなかったらお仕置きよ?」

あ…。

「…ごめんなさい」

「…ごめんなさい…」


部長に怒られてしまった。本気ではなく、ニヤニヤしながら部長は言った。


「…へへ♪」

「…ふふ♪」


私たちは目があって、どうしてか笑ってしまった。



最終更新:2010年04月22日 12:59
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