秋の夜は長かった。
虫の音が響く中、今年もそろそろ扇風機をしまうときが来たな、だなんて思ったりした。
秋は何故だかもの寂しい。
この季節は、何故だかそういう気持ちになってしまう。
賑やかな夏の終わりは、なんだか寂しい。
少しだけ切なかった。
だからか、秋は少しだけ、人恋しい。
そんな時、つい、携帯電話に手が伸びる。
つい、この間。あれば便利だから買った。
…ほとんどあなたと話すためにだけど。
さっきまで、学校で一緒だったでしょう。それなのにまた、話すの?
…とでも言いたげな携帯。
いいじゃない、別に。話したいのは仕方ないことだもの。うん。
少しでも、繋がっていたかった。
秋は人恋しい季節なんだ。
だから、ね…。
「もしもし…」
『…もしもし』
「ごめんね…また、電話しちゃった」
『いえ…待っていました』
あなたの声が聞こえると、何故だか無性に安心するんだ。安心するんだけど、ドキドキしちゃうんだ。
また話せた。
また繋がった…。
何回しても変わらないこの感覚。
『…宮永さん、覚えていますか』
「…何を?」
『…初めて電話した時のこと…』
初めて電話した時のこと。
それはまだほど遠くない昔。
あれは確か、初夏の頃…。
痛いほど覚えているよ。
ただ、声が聞きたくて。
震える指は、なかなかあなたに繋いでくれない。
たったボタンを数回押すだけなのに、どうしようもなく時間がかかった。
「…覚えてるよ。うんと緊張したよ」
『…かかってきた時、ドキドキしたんですよ』
「…私もドキドキだったよ」
『…でも嬉しかった』
「…私だって…」
他愛のない、取り留めの会話が続く。
さっきまで学校で、あなたと同じような会話をしていたのに。
そんな会話をしていると、気付くことがあるよ。
会話って、私には内容なんてどうでもいいのかもしれない。
勿論、どうでもいいわけじゃないのも確かだけれど。
話すことそのものが、私には感じるところがあった。
「…もう、1時間たっちゃったね…」
『…あっと言う間ですね…あまり電話していると怒られちゃいます』
「あ…そうだったね。ごめんね…」
『いえ…!気にしないで…また、電話して下さい。…私からもしたいし…』
「ありがとう…じゃあ、また…明日」
『はい…また明日…おやすみなさい』
声は途切れた。
電話がまた無機質なただの物になるのを確認して、私は窓を眺めた。
同じ夜空があなたと繋がっている、そう思えただけで幸せな私。
夢見がちなのかな、私って。
そうしていたら…もう、話したくなっちゃった。
我ながら苦笑して、こんな秋は悪くないなだなんて思った。
少しだけ和らいだ切なさとともに。
最終更新:2010年04月22日 13:04