最近宮永さんがパソコンを買った。
それで最近は、夜は専らネット麻雀にはまっているとのこと。
合宿で部長にリアルの麻雀でこそ強さを発揮する、と言われていたけど最近はネット麻雀で負けたという話を聞かなくなりリアルでもバーチャルでも最強になりつつあります。
その夜、私は早めにお風呂を済ませパソコンを起動した。
いきつけのオンライン麻雀ゲームのページを開き、のどっちとHNを入力しログインする。
のどっちはネット界では有名な方らしく、ちょっと待つだけでわさわさと対局申し込みがくる。
たくさんあるHNから、ある名前が目に留まった…
[咲-Saki-]
このHN、宮永さんかな…
いや、でもそんなことあるはずない。
これは全国の何万人ものが参加する巨大オンラインサイト。似ている名前の人など沢山いる。
それに第一オンラインサイト自体も、この麻雀全盛時代山のようにある。
宮永さんが同じサイトを利用する確率だって非現実的だ。
そんなオカルト、有り得ない。
と、思いつつも、私はその名前をクリックするのだった。
その頃宮永家では―――
「今日も勝つぞー…あれ、のどっちってなんか原村さんみたい。
対局申し込みしようかなあ…
あ、受けてくれた!」
原村家
(…やっぱり宮永さんじゃないですね、この咲って人は)
2位に大差をつけ迎えたオーラス。
私は前局と同じように最初少し考えそれからはノータイム切りを続けていた。
「よし、これでテンパイです…」
そう言って切った牌を…
[咲-Saki-]:カン
[咲-Saki-]:カン
[咲-Saki-]:カン
[咲-Saki-]:ツモ チンイツ トイトイ サンアンコ サンカンツ ドラ3 リンシャンカイホウ
「…え」
もしかして…これ…宮永さん…?
だってこんな打ち方をする人、日本にそうそういない。
私はめったに使わないチャット機能を使い聞いてみた。
[のどっち]:おいくつでしょうか?
一応、巨大サイトなので宮永さんですか?とは聞かなかった。
宮永家
「すごいよ!強い人がいっぱい!
ん?のどっちさんが話しかけてきた…
って私チャットの仕方わからないよ…どうしよう…」
失礼とは思ったが待たせるのも悪いのでさっさとログアウトした。
原村家
「あ…いってしまいました…」
明日、宮永さんに聞いてみましょうか…
翌日、いつもの通学路を歩いているといつもの元気な声が。
「原村さーん!おはよう」
「宮永さん!おはようございます」
「昨日ね、また勝ったよ!でもかなり手ごわかったなぁ。」
「な、なんていう方ですか…?」
「あ、のどっちさんってゆうんだけど原村さんに似てるよね」
やっぱり…あれは宮永さんだったんですね
「もしかして、のどっちって原村さん?」
「い、いえ!私は昨日宿題をしていましたから…」
とっさに、嘘をついてしまった
「そうなんだぁ。原村さんみたいにすっごく強かったよ!」
「よかったですね…」
そして昼休み。私は宮永さんに聞いてみた。
「宮永さんは麻雀以外パソコンで何かしますか?」
なぜチャットを拒否したのか知りたかった
「ううん…麻雀以外できなくて」
あぁ、やり方がわからなかったのかな
「…教えましょうか?」
「え、いいの?!原村さん!」
「もちろんです。では今日の放課後、部室のパソコンを使わせてもらいましょう」
「ありがとう、原村さん!これでのどっちとお話できるよ~」
「…!」
嬉しくて、死にそうです
「これで…こうして…こう…簡単でしょう?」
「うん!ありがとう原村さん!」
今朝嘘をついてしまった私にはもったいないくらいの笑顔をもらった
「またのどっちさんと対局できるかなあ」
ワクワクした様子の宮永さんを見て、私は今日もネット麻雀をやることを決めた
夜、昨日と同じ時間にログインしてみた
「…あ、ありました」
今日は私から対局申し込みをした。
面子はすぐにそろった。
今日の勝負は私が勝った。
相手があの宮永さんなので早あがりに徹したのだ。
[咲-Saki-]:キノウハスミマセン
あ、宮永さんが…!
[のどっち]:全然ですよ
[咲-Saki-]:コレカラモワタシトマージャンシテクダサイ
[のどっち]:もちろんです!!それと…もしよければ対局のあとこうやっておしゃべりしたいです
[咲-Saki-]:アリガトヨロシク
私は嬉しさで胸がいっぱいだった
でも…なんで宮永さんはカタコトだったんでしょう?
宮永家
「あれーカタカナしかうてないよー!!」
翌日宮永さんが追いつくのを期待しながらいつもの道を歩く。
ザッザッザッ
…!宮永さんだ!
「原村さーん!おはよう!」
「おはようございます」
足音でわかってしまうなんて…かなり惚れてるようですね…
「実は昨日パソコンが壊れてカタカナしかでなくなっちゃって…」
「ああ、そういうことだったんですか」
「え?」
「い、いえ!それは多分故障ではありませんよ」
「本当?!よかった~」
「そういったときはあのキーを押せば…」
「ああ、わかったよ!原村さん、ありがとう!」
宮永さんの満面の笑みに思わず赤面してしまう。
それを隠すように早く行きますよ、と彼女を促した。
それからしばらく宮永さんとチャットでのやりとりが続いた。
今では私…いや、のどっちのことを呼び捨てにし、タメ口で会話している。そして何より、漢字変換ができている。
宮永さんがのどっちと呼んでくれている…
そのことが私にとって本当に嬉しかった。
どんどん膨れあがる宮永さんへの思いに、のどっちが私であることをばらしてしまおうかと思った。
しかしなかなかタイミングはなく、のどっちとの二重生活を送っていた。
ある日の夜。
また私たちは麻雀をし、チャットで談話していたときのことだった。
[咲-Saki-]:のどっちは好きな人いる?
この質問に、どう答えるべきか数分悩んだ。
宮永さんはのどっちの正体を知らないのだから、正直に言っても問題はない。
しかし、本人相手に答えるのは難しいものだった。
しばらく会話が止まってしまったのを気にしたのか、
[咲-Saki-]:言いたくなかったらいいよ!ごめんね
宮永さん…なんて優しい…
[咲-Saki-]:実は私は、好きな人がいるんだ
………はい?
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
相手は誰でしょう…須賀くんでしょうか…?
誰にしろ…私の思いは届かない。
重い指でなんとかキーボードを叩いた。
[のどっち]:そうなんですか
[咲-Saki-]:告白とかってどうすればいいかわからないや…
ああ、もうやめて。
立ち直れなくなる前に。
でも私は馬鹿だった。宮永さんと少しでも話したくて…
[のどっち]:どういう人なんですか?
聞きたくもないくせに。
[咲-Saki-]:うーん、高校入ってから出会ったからまだ全部はわからないけど…
高校入ってから…
ということは須賀くんじゃない…
[咲-Saki-]:同じ部活でね…
ドクン…
心臓の音が聞こえた。
自分が該当者であることを喜んでしまったのが悔しい。
淡い期待を描いては消してを繰り返した。
かっこいいなら、部長が有力候補だ。
[咲-Saki-]:それで、同いどしで…
え…私か、優希?
心臓が、うるさい
[咲-Saki-]:パソコン教えてくれて…
………まさか…そんな…
[咲-Saki-]:いっつも朝その人に追いつくように走ってるんだ!
勘違いじゃ、ないですよね…?
[のどっち]:その人のこと大好きなんですね
少し意地悪かな。
でも、彼女は無邪気に答えた。
[咲-Saki-]:うん!大好きだよ!
この大好きだよは私に向けられたものなんですよね…?
[咲-Saki-]:そろそろ寝るね!おやすみ!
「おやすみなさい…宮永さん」
明日、宮永さんにあったら全てを話そう。
私の想いも、全部。
最終更新:2010年04月22日 13:06