3-320 無題



いつもの学校の近くの木の下で咲は本を読んでいた。
読んでいるのは活字の小説ではない、あの時、お父さんから貰った雑誌をまた読んでいた。


『今年も優勝を目指します』 お姉ちゃんが載っているページを何度も読み返す。


全国大会に出場して、きっと会いに行くからね。


「宮永さん、こんな所で…」


学校に向かう途中の木の下で見慣れた女の子を見つけることになった。

気持ちよさそうに眠っている。
何時もよりも幼く映る姿の彼女を起こすのを躊躇ってしまう。

学校開始までにはまだ時間はある、それまで起こさずにもう少しだけ、その可愛らしく眠っている宮永さんを見ていたい。


「ん、お姉…ちゃん」


突然のことにビクリとして起こしてしまっただろうかと焦ったが寝言である事に安心する。
そう呟いた咲はどこか悲しそうで目には涙が溜まっていた。

胸がチクリと痛む、宮永さんは私にとって掛け替えのない大切な人。
だけど私は宮永さんの悲しみや気持ちをきちんと理解できているのだろうか。

咲の膝の上には開かれた雑誌、そこには宮永さんの姉が載っているのに気が付いた。
きっと、これを読んでいるうちに寝てしまったのだろうと把握した。

自分はその姉に嫉妬しているのかもしれない。
和は膝の上の雑誌を閉じて横に置いた。
私は宮永さんの隣に座ると自分にもたれかかるようにした。


「私では…ダメですか?」


目に溢れていた涙を拭う。
あなたが悲しんでいると私も辛いです。

だから、少しでもその悲しさが和らぐように、目が覚めたら優しく包み込んであけだい。
右手を背中に回して軽く抱き締める。


「だから、はやく起きてください」


悪いですがお姉さんに宮永さんは譲りませんよ。



最終更新:2010年04月23日 15:05
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