3-389 あなたへの想い



カーテンから差し込む光がきつくて目が覚めた。
私は、知らない部屋にいた。

「ここ…どこ…?」

頭がガンガンする。私は必死で最後の記憶を呼び戻そうとするが、随分長く眠っていたのか思い出すことはできなかった。

ガチャ

「!!!」

突然の物音にびっくりする。
扉が開かれたようだった。

「おはよう。咲…」

「お、お姉ちゃん?!どうして…」

「お前は覚えていないんだね、無理もないけど。母さんと一緒に東京で暮らしてわかったんだ。私にはお前が必要、咲。これからは毎日一緒に麻雀を打とう…いつまでも。」

「お姉ちゃん!」

私はお姉ちゃんに抱きついていた。
単純に嬉しかった。
でも…長く離れていたからかな。お姉ちゃんの僅かな変化に気づけなかった…


「咲、これからはずっと一緒だよ」

「うん!久しぶりだなあ…」

「ふふ、そうだね。」

「…ってもうこんな時間!学校行かなきゃ!」

「……だめ」

「え…?」

「咲…学校に行ってはいけない。お前はずっと私と一緒にいて」

「え…でも…」

「お願いだから!!!」

こんな姉は初めて見た。
以前の穏やかな姉はどうしたのか…見たこともない剣幕に私の口はうん、とだけ言葉を発



ガチャ

私は重い足取りで部室までやってきた。
この重さは他でもないあなたがいないせいです…

「のどちゃんきたじぇ!」

「あら和、咲は一緒じゃないの?」

「はい…それが今日は学校に来てなくて…」

「風邪かなんかじゃろ。さあ面子もそろったことだし一局打つけえ」

「むむ、染谷先輩には負けないじぇ!」

(宮永さん…どうしたんでしょうか…)


ガチャ


「うーす」

「あ、須賀くん。咲なんで休みか知らない?」

「いやー分からないです。無断欠席らしいっす」

宮永さんが無断欠席…?
なにか…おかしい。
放課後、宮永さんの家へ行ってみよう。

(なにがあったんですか…)



放課後。
(この辺ですね…)
私は部長から聞いた宮永さんの住所を頼りに、彼女の家へ向かっていた。

「宮永…宮永…あ。ありました」

なんか…緊張するな。
私は早く宮永さんが見たくて、はやる気持ちを必死に抑える。

ピンポーン


………


「留守でしょうか…あ、鍵が空いてます。」

勝手に入るのは失礼とわかっていた。
でも彼女に会いたい思いが私の足を動かした。

「あの…ごめんください!宮永さんいらっしゃいますか…?」



私は今椅子に座っていた。いや、座らされていた。もっと言えば椅子に縛られて動けなくされていた。

「お姉ちゃん…どうしてこんなことするの…?」

「咲が…麻雀部麻雀部って…楽しそうだから。私だけを見てくれないからだよ」

そう言ってお姉ちゃんは麻雀牌を私に投げつける。

「ごっごめんなさい!ごめんなさい!痛いよお姉ちゃん!ごめんなさい!」

「私は!こんなにお前が好きなのに!!」

「私もっ!私も好きだから痛くしないでっ!」

お姉ちゃんの手がピタッと止まる。
私の目は死んでいただろう。
自分の身を守るためだけに自分の気持ちを偽った絶望で。

「本当…?」

「本当!本当です!だから…牌投げるのやめてください…」

「咲…嬉しいよ」


ピンポーン


誰かきた!
私は助けてと叫ぼうかと思ったが、狂気に満ちたお姉ちゃんを見ると声を出すのさえ躊躇われた。


「あの…ごめんください!宮永さんいらっしゃいますか…?」


「!!!原村さ…」

「咲…原村って誰?」

まずい、今のお姉ちゃんに下手なこと言ったら原村さんが危ない。
私はどうなっても、それだけは絶対に嫌だ

「学校の、友達…」

お姉ちゃんはふうん、とだけ言うと私の拘束を解きはじめた。

「咲、帰ってもらって。」

お姉ちゃんは冷たい目で付け加えた。

「絶対に変なこと言っちゃだめだよ」

「…はい…」

お姉ちゃんは私のポケットに通話状態の携帯を入れた。

「これで咲の声聞いてるから。誰かに言ったら…わかるよね?」

私は恐怖で首を縦に振るしかできなかった。


(宮永さん…やはりいらっしゃらないのでしょうか…)

帰ろうとした殺那、階段をかけおりる音が聞こえた。

「宮永さん!」

「…原村さん。」

気のせいだろうか。
今日初めて見た宮永さんには生気が感じられない。
涙の跡のようなものも見受けられる。
色々と心配になって尋ねた。

「宮永さん…何故今日やすんだのですか?」

「…ぐ…具合悪くて…」


何かあったのだろうか…
心なしか脅えているように見える。
そこで私は彼女のポケットに入っている携帯を見つけた。

…アンテナが光っている…?


「あの…宮永さん。その携帯…電話きてるんじゃないですか?」

「!!!!!そ、そんなことない!悪いけど頭痛いからもう帰って!」

そう言って宮永さんは私を無理矢理外へ押し出した。

(宮永さん…?そんな…)


私の目からは拒絶された悲しみから来る涙が溢れた。



原村さん…来てくれてありがとう…
ひどいこと言ってごめん。
本当はね、すごくすごく嬉しかったよ。
原村さんを一目見ただけで心が満たされる。
こんな絶望の中で一瞬でも安心を感じた。
送り返すのがこんなに辛いなんて思わなかった。



「咲、おかえり」

「…うん」



でも…原村さん、あなたを危険な目には合わせない。


絶対に。



私は家に帰ってからずっと考えていた。
宮永さんの挙動不審な態度、何かに脅えたような表情、生気の感じられない目、そして何より不自然な通話状態の携帯電話…
突き飛ばされて悲しいのもあるけど、いつもと明らかに違う宮永さんが気がかりだった。

しかし悩んでも答えは出ず、夜風にあたろうと外へ出た。
散歩がてら学校への道を歩いていたとき…



「宮永…さん?」

「…!原村さん…」

宮永さんは私を見るやいなや走り出した。

「っ!待ってください!!」

死ぬ思いで走ってようやく捕まえた。

「何かあったんですか?」

「…何もない」

「嘘です。話してください。お願いします…」

「は…原村さんには関係ない」

私はその言葉に悲しみと怒りを覚えた。

「関係ありますっ!!…今の宮永さん心配なんです。悩んでるなら私も一緒に考えます。辛いならその辛さ半分持ちます。悲しいならその悲しみ受け止めます。宮永さんのこと…好きなんです」

「原村さん…」

宮永さんは涙を浮かべ私を抱き締めた。

「私も原村さん大好き…誰よりも」

「…話してくれますね…?」


「……うん」



私は原村さんに全てを話した。
お姉ちゃんが突然帰って来たこと、拘束されて学校に行けなかったこと、原村さんを追い返すように言われたこと、携帯は盗聴器代わりだったこと、今はお姉ちゃんが眠ってる隙に出てきたこと…
牌が投げられた痕も見せた。
途中涙が溢れて何度も途切れたが原村さんは急かすことなく、優しく聞いてくれた。


「私が言ったことバレたら…原村さんが危ないから…」

「危ないからほっといて、ですか?そんなことできません」

「でも…」

「…お姉さんの"好き"は違うと思います。
宮永さんを傷つけているだけです。私なら、その傷癒してあげられます…」


少し涙目な原村さんの顔が近くなる。
暗くてよくはわからないが、その整った顔は赤かったように思う。

近づくにつれ心臓が早くなる。
動けない。


―――そして、重なった。
原村さんの唇は柔らかく、私に安心を与えてくれた。



「明日…また行きますから」



翌日の放課後。
私は部活を休み、宮永さんの家へ向かう支度をした。すると1件のメールがきていた。

[宮永さん]
本文:おうちで待ってるよん♪(^O^)v早く来てね~い!!!(o^v^o)早くしないと何するかわかんないよ

「っ!!!!宮永さんっ!!」

明らかに他人が打ったメール。
私は急いで学校をでる。
どうか無事でいてと、そればかりが頭を支配していた。


ガチャッ

「宮永さんっ!!!」

「随分早かったね」

「!!!あなたは…宮永照…?」

「そう…あなたが原村だね。」

「…そうだったらなんですか」

「昨日見てた。咲があなたに会ってたの」

「!!!」

「だから、あなたを消そうと思って。咲は私のだから。」

「あなたの大好きな咲の前でころしてあげる」

私は部屋へと連れていかれた。
そこにはボロボロの宮永さんが椅子に拘束されていた。
痣がいくつもでき、目は焦点があっていない。口が切れてるのか、口角から血が出ていた。

「宮永さん!!!」

「はら…むらさ…」

宮永さんのもとへ行こうとしたそのとき、ツインテールをぐいっと引っ張られた。

「咲のとこにはいかせないよ」

宮永照の手にはナイフが握られていた。

「私は咲と愛し合ってるの。邪魔しないでくれる?ねえ咲」

「うん…」

「咲、愛してるよ」

「うん…私も愛してる…」

嘘だ、嘘に決まっている。
あれで宮永さんが幸せなはずない。
完全に言わされているだけだ。
許せない許せない許せない


「宮永さんっ!私は宮永さんが好きです!宮永さんはどうなんですか?!好きって言ってくれたじゃないですか!」

「ハハハっ!!!咲は私が好きなんだ。それ以上しゃべると…殺すよ」

「宮永さん!答えてください!もしあなたも同じ気持ちでいてくれるなら死んでも宮永さんを助けます!!私は宮永さんを愛してます!!!!」

私は声の限り叫んだ。
宮永さんが目を覚ましてくれるように。私の想いがとどくように。

「うるさい!黙れ!咲が好きなのは私だと…」



「私…原村さんが好き!!」

「咲?!やめろ…!!それ以上言うな!!!」

「何度だって言う!!原村さんが大好き!!!本当に愛してる!!!!!」

「宮永さん…」

宮永さん、今いきます。
私は一気に宮永照の腕から抜けだした。
その瞬間にナイフをふりおとされ、右側の髪が切られた。

「宮永さん!!!」

「原村さん…」

私は宮永さんを抱きしめる。

ファンファンファン…

「け、警察?!」

「私が呼びました。ご自分の罪を…償ってください」

特に、私の宮永さんを傷つけた罪は重いですよ。






こうしてお姉ちゃんは逮捕された。

「原村さん…ごめんね。綺麗な髪だったのに…」

「いいんです…宮永さんが無事なら…」

「…ありがとう」



私たちはどちらともなく口付けを交した。
もう離れないように、お互いの存在を確かめるように。

「咲さん…愛してます」

「私も愛してるよ…和ちゃん」




おしまい



最終更新:2010年04月23日 15:35
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