3-446 初恋



私はたった今、恋をした。

今までだってずっと好きだったけれど。
でも確かに違う想いが、生まれたんだ。



原村さんが言った。

「宮永さん…帰り、ちょっと寄り道していきませんか?」


いつも真っ直ぐ帰る私たちにとって、あまりない出来事。

優希ちゃんの勉強の為に部活が一年生だけ停止になって、ある程度勉強会が終わったので、私と原村さんは暇になっていた。


「いいよ。どこ、行くの?」

「えーと…まだ、内緒です」


内緒?なんでなんだろう。
早く行かないと駄目らしく、速めに歩く。


「すいません、我が儘に付き合ってもらって…」

「ううん…いいんだよ」


坂道を登る。
あまり来たことのない場所に向かっていた。


「間に合いますように…!」

「…??」


しばらく歩いた。
ただ前へと進む原村さんが、私の手を引く。
私とは言えば、ずっと後を追うだけで。


「つ、つきました!」


ついたのは、かなり上にある場所だった。
田舎の街を見渡せる、高台だった。

とりあえず舗装された地面に、林が並ぶ脇道。
ガードレールが落ちないようにとたっていて、車は全然通らない。

あたりは静かだった。


「ほら…見てください…宮永さん」


原村さんが指さした先は――


燃えるような夕日が、ゆっくりと。

だんだんと落ちてゆくところだった。

真っ赤なそれは…音も立てず、一人でに落ちてゆく。



「…きれい……」


思わず口から出た。

だってまるで…小説のような情景だったから。

目に映る世界は、幻影にも似た淡い暖かさと、燃え上がる夕日だけだった。

私が見たのは…それが消え失せる一瞬だった。




夕日が落ちる。

辺りが次第に暗くなる。

闇が、だんだん広がり始める。


「この景色……宮永さんと、見たかったんです」

「…凄く、綺麗な景色だったよ…ありがとう…」

「…少し前…たまたま、通った時に見つけて…感動してしまいました」

「私も…感動しちゃった……」


夕焼けを見て、心が疼いた。

今見てるものが、すべてに感じられた。

…少しだけ、泣きそうだった。


「…告白するなら…ここにしようって…決めていたんです」

「え…?」


次に私の耳に飛び込んだのは、時を止めてしまった。


「大好きです、宮永さん」


ただ、一言そう言ったあなた。


「…は…原村さん…」

「………いきなりごめんなさい…もう、ずっと言わないでいるのは無理でした…」



暫く、なにも考えられなくて。



「……ありがとう」

「…いえ…帰りましょうか」

「……うん…」


帰り道はゆっくりと歩いた。
私たちは知らない間に手を繋いでいた。



今までだって、ずっと好きだった。

ついさっきまで、変わらない想いだった。

だけど、どうしてだろう。

今さっき、原村さんに恋をした。

…恋に落ちる音が聞こえたんだ。


ああ、これがそうなのか。

これが…人を好きになるってことなんだ。

多分きっと、これが…。恋なんだ。



薄暗い帰り道、温かいあなたの手は、私のことを護ってくれるかのようで。

ドキドキした。

もう明るいとはいえない来た道をたどる中、あなたと肩を並べる。

今が全て…そう思えた。



「…原村さん…」

「…はい…」

「…私もね……」


たった今、恋をしたんだよ。



最終更新:2010年04月23日 15:38
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