私はたった今、恋をした。
今までだってずっと好きだったけれど。
でも確かに違う想いが、生まれたんだ。
原村さんが言った。
「宮永さん…帰り、ちょっと寄り道していきませんか?」
いつも真っ直ぐ帰る私たちにとって、あまりない出来事。
優希ちゃんの勉強の為に部活が一年生だけ停止になって、ある程度勉強会が終わったので、私と原村さんは暇になっていた。
「いいよ。どこ、行くの?」
「えーと…まだ、内緒です」
内緒?なんでなんだろう。
早く行かないと駄目らしく、速めに歩く。
「すいません、我が儘に付き合ってもらって…」
「ううん…いいんだよ」
坂道を登る。
あまり来たことのない場所に向かっていた。
「間に合いますように…!」
「…??」
しばらく歩いた。
ただ前へと進む原村さんが、私の手を引く。
私とは言えば、ずっと後を追うだけで。
「つ、つきました!」
ついたのは、かなり上にある場所だった。
田舎の街を見渡せる、高台だった。
とりあえず舗装された地面に、林が並ぶ脇道。
ガードレールが落ちないようにとたっていて、車は全然通らない。
あたりは静かだった。
「ほら…見てください…宮永さん」
原村さんが指さした先は――
燃えるような夕日が、ゆっくりと。
だんだんと落ちてゆくところだった。
真っ赤なそれは…音も立てず、一人でに落ちてゆく。
「…きれい……」
思わず口から出た。
だってまるで…小説のような情景だったから。
目に映る世界は、幻影にも似た淡い暖かさと、燃え上がる夕日だけだった。
私が見たのは…それが消え失せる一瞬だった。
夕日が落ちる。
辺りが次第に暗くなる。
闇が、だんだん広がり始める。
「この景色……宮永さんと、見たかったんです」
「…凄く、綺麗な景色だったよ…ありがとう…」
「…少し前…たまたま、通った時に見つけて…感動してしまいました」
「私も…感動しちゃった……」
夕焼けを見て、心が疼いた。
今見てるものが、すべてに感じられた。
…少しだけ、泣きそうだった。
「…告白するなら…ここにしようって…決めていたんです」
「え…?」
次に私の耳に飛び込んだのは、時を止めてしまった。
「大好きです、宮永さん」
ただ、一言そう言ったあなた。
「…は…原村さん…」
「………いきなりごめんなさい…もう、ずっと言わないでいるのは無理でした…」
暫く、なにも考えられなくて。
「……ありがとう」
「…いえ…帰りましょうか」
「……うん…」
帰り道はゆっくりと歩いた。
私たちは知らない間に手を繋いでいた。
今までだって、ずっと好きだった。
ついさっきまで、変わらない想いだった。
だけど、どうしてだろう。
今さっき、原村さんに恋をした。
…恋に落ちる音が聞こえたんだ。
ああ、これがそうなのか。
これが…人を好きになるってことなんだ。
多分きっと、これが…。恋なんだ。
薄暗い帰り道、温かいあなたの手は、私のことを護ってくれるかのようで。
ドキドキした。
もう明るいとはいえない来た道をたどる中、あなたと肩を並べる。
今が全て…そう思えた。
「…原村さん…」
「…はい…」
「…私もね……」
たった今、恋をしたんだよ。
最終更新:2010年04月23日 15:38