秋は深まり、冬の足音が近づき始めた頃のこと。
部長が引退し新しく生まれ変わった清澄麻雀部。
今日も楽しい時間を過ごして、学校帰りの今。
今日もたくさん、原村さんと話せたな…。
口が緩むのがわかる。
いやだ、だってまだ家についてないから…ニヤニヤしちゃ駄目だって。
でも原村さんを想うと、どうしてもそうなっちゃう。まいった。
帰宅すると、お父さんがもう帰っていた。
次の瞬間、我が耳を疑った。
「…風呂が壊れたぞ」
…え?
「…帰宅早々、冗談…?」
「…いや、ホントに」
……そんな。
どうしよう。
今日お風呂にはいれない。
…原村さんに嫌われちゃうよぅ!
「そんなぁ!なんとかならないの!?」
「…今からじゃムリだな」
…明日学校休もう。
そう決意した時。
「今日は銭湯で我慢してくれ」
…銭湯?
―――――――――――――――――――
「ごめんね…急に誘っちゃって」
「いえ、いいんですよ」
銭湯には原村さんを誘った。
…だって一人じゃ寂しいよ。
寂しい時に、いつもあなたの名前を呼んでしまう。
すっかり依存してる私。
「まさかお風呂が壊れるなんて思わなかったよ」
「ですね…でも今日は壊れたお風呂に感謝しなくちゃ」
「え?」
「だって…宮永さんと一緒にいられる時間が増えちゃったんですよ?
お風呂さんに…感謝しちゃいます」
…なんで。なんでこんなにあなたは私をドキドキさせるの?
また…ほら。
キュンと来ちゃうよぅ…。
「…ありがとう」
「いえ…。今夜はきっと冷えますから、よく温まりましょう」
「もう十分に温かいけどね…」
「?」
銭湯についた頃には日は沈み、夜になろうとしていた。
――――――――――――――――――――
「広い…!」
合宿以来の大きなお風呂。
当然、女湯。
湯気が広がる空間、富士山が描かれた壁。
タオル一枚体に巻いて、2人立ち尽くす。
「…あまり人いませんね」
「…原村さん、自重してよ?」
「な…何もしません!」
「くすくす、冗談だよ」
…実は自重しなくてもいいけれど。
原村さんはなかなか私にそういったことしてくれない。
大切にしてくれてるのはわかってる。
それは凄く嬉しいし、幸せだ。
…でももっと、あんなことをしてほしかったりする今日この頃。
湯船に浸かる。
熱いくらいのそこは、気持ちがよかった。
「たまにはいいね、銭湯…」
「…ですね」
「…ねぇ…聞いていい?」
「…なんですか?」
「…私のこと、好き?」
なぜか聞いてしまった。
以前互いの気持ちを伝え合ったことがあるけれど…。
顔を赤くして、もじもじする原村さん。
「私の気持ちは…あの時と一緒ですよ」
あの時とは以前の、互いの気持ちの交換をした時のこと。
好き、と一言ずつだけど。
たしかに伝え合った。
「…ちゃんと言わなきゃやだ…」
「…宮永さん?」
「……ごめん、変なこと言っちゃって…」
なんでだろう。今日の私は我が儘だ。
…でも。
どうしても、聞きたいの…。
「…好きです」
ぽつりと言ったあなた。
「…好きで好きで…たまりません」
…凄く嬉しかった。
「…ありがとう。私も…大好き」
熱いお湯の中、手を繋ぎあった。
―――――――――――――――――――
髪が乾くのが早い私。
ショートな私はすぐだから、少し涼もうと思い外にでた。
あたりは真っ暗で、月が照らす中は、冷たかった。
少しだけ寒かった。
…寒くなったのは、外に出たからだけではないのだろう。多分。
ただ、景色を眺めていた。
田舎。田圃だらけで、最近近場にコンビニが出来たくらい。
この近くだったかな…帰り、寄っていこうかな…。
そう思っていたときだった。
私は後ろから抱き締められた。
「…お待たせ、しました」
いい匂いが飛び込んできて、回された腕は私を優しく包んでいた。
「……洗い髪が冷えちゃってますよ」
「……赤い手ぬぐい、持ってないや」
「ぷっ、ふふふ……冷たいね」
アノ歌の歌詞を言うあなた。
「…って言ったのよ…?」
「あはは、なんで疑問系なんですか?」
「えへへ…なんとなく」
「なにやってんだじぇ」
「「 !?!? 」」
なぜか優希ちゃんがいた。
「ゆ、優希!なんでこんな所に…!?」
「コンビニでタコス買ってきたんだじぇ!
…人がいないからってー、だ・い・た・ん だじょ?」
「…恥ずかしい」
馬鹿やってる所を見られちゃった…まいった。
「…原村さん、私たちも帰り寄ろうよ」
「…いいですね」
「私も行くじぇ!」
「またですか!?まあ…いいですけど」
そうして、その場を私たちはあとにした。
最終更新:2010年04月23日 15:46