3-538 よこちょの風呂屋



秋は深まり、冬の足音が近づき始めた頃のこと。

部長が引退し新しく生まれ変わった清澄麻雀部。
今日も楽しい時間を過ごして、学校帰りの今。

今日もたくさん、原村さんと話せたな…。
口が緩むのがわかる。

いやだ、だってまだ家についてないから…ニヤニヤしちゃ駄目だって。

でも原村さんを想うと、どうしてもそうなっちゃう。まいった。

帰宅すると、お父さんがもう帰っていた。

次の瞬間、我が耳を疑った。


「…風呂が壊れたぞ」


…え?


「…帰宅早々、冗談…?」

「…いや、ホントに」


……そんな。

どうしよう。

今日お風呂にはいれない。


…原村さんに嫌われちゃうよぅ!


「そんなぁ!なんとかならないの!?」

「…今からじゃムリだな」


…明日学校休もう。

そう決意した時。


「今日は銭湯で我慢してくれ」


…銭湯?


―――――――――――――――――――


「ごめんね…急に誘っちゃって」

「いえ、いいんですよ」


銭湯には原村さんを誘った。

…だって一人じゃ寂しいよ。

寂しい時に、いつもあなたの名前を呼んでしまう。

すっかり依存してる私。


「まさかお風呂が壊れるなんて思わなかったよ」

「ですね…でも今日は壊れたお風呂に感謝しなくちゃ」

「え?」

「だって…宮永さんと一緒にいられる時間が増えちゃったんですよ?
お風呂さんに…感謝しちゃいます」


…なんで。なんでこんなにあなたは私をドキドキさせるの?

また…ほら。
キュンと来ちゃうよぅ…。


「…ありがとう」

「いえ…。今夜はきっと冷えますから、よく温まりましょう」

「もう十分に温かいけどね…」

「?」


銭湯についた頃には日は沈み、夜になろうとしていた。


――――――――――――――――――――


「広い…!」


合宿以来の大きなお風呂。
当然、女湯。
湯気が広がる空間、富士山が描かれた壁。

タオル一枚体に巻いて、2人立ち尽くす。


「…あまり人いませんね」

「…原村さん、自重してよ?」

「な…何もしません!」

「くすくす、冗談だよ」


…実は自重しなくてもいいけれど。
原村さんはなかなか私にそういったことしてくれない。

大切にしてくれてるのはわかってる。
それは凄く嬉しいし、幸せだ。

…でももっと、あんなことをしてほしかったりする今日この頃。


湯船に浸かる。
熱いくらいのそこは、気持ちがよかった。


「たまにはいいね、銭湯…」

「…ですね」

「…ねぇ…聞いていい?」

「…なんですか?」

「…私のこと、好き?」


なぜか聞いてしまった。
以前互いの気持ちを伝え合ったことがあるけれど…。

顔を赤くして、もじもじする原村さん。


「私の気持ちは…あの時と一緒ですよ」


あの時とは以前の、互いの気持ちの交換をした時のこと。

好き、と一言ずつだけど。
たしかに伝え合った。


「…ちゃんと言わなきゃやだ…」

「…宮永さん?」

「……ごめん、変なこと言っちゃって…」


なんでだろう。今日の私は我が儘だ。

…でも。
どうしても、聞きたいの…。


「…好きです」


ぽつりと言ったあなた。


「…好きで好きで…たまりません」


…凄く嬉しかった。


「…ありがとう。私も…大好き」


熱いお湯の中、手を繋ぎあった。


―――――――――――――――――――


髪が乾くのが早い私。

ショートな私はすぐだから、少し涼もうと思い外にでた。

あたりは真っ暗で、月が照らす中は、冷たかった。


少しだけ寒かった。

…寒くなったのは、外に出たからだけではないのだろう。多分。


ただ、景色を眺めていた。

田舎。田圃だらけで、最近近場にコンビニが出来たくらい。

この近くだったかな…帰り、寄っていこうかな…。

そう思っていたときだった。

私は後ろから抱き締められた。


「…お待たせ、しました」


いい匂いが飛び込んできて、回された腕は私を優しく包んでいた。


「……洗い髪が冷えちゃってますよ」

「……赤い手ぬぐい、持ってないや」

「ぷっ、ふふふ……冷たいね」


アノ歌の歌詞を言うあなた。


「…って言ったのよ…?」

「あはは、なんで疑問系なんですか?」

「えへへ…なんとなく」

「なにやってんだじぇ」

「「 !?!? 」」

なぜか優希ちゃんがいた。


「ゆ、優希!なんでこんな所に…!?」

「コンビニでタコス買ってきたんだじぇ!
…人がいないからってー、だ・い・た・ん だじょ?」

「…恥ずかしい」


馬鹿やってる所を見られちゃった…まいった。


「…原村さん、私たちも帰り寄ろうよ」

「…いいですね」

「私も行くじぇ!」

「またですか!?まあ…いいですけど」


そうして、その場を私たちはあとにした。



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最終更新:2010年04月23日 15:46
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