私はあなたのことが好きだった。
好きで好きで、たまらなかった。
あなたの名前が花に因んでいるものだから。
道端に強く淡く咲く花をあなたに例えてみたりして。
馬鹿みたいだけど、それだけで胸がドキドキしてしまうんだ。
とにかく、好きでたまらなかった。
帰り道、寄り道しようねって言ったのに。
今は一人で帰路にいて、優希たちとはもう別れていたから、より一層寂しい。
「…咲、さん…」
今、ともにいない人の名を呟く。
道端には花が咲いていた。
小さな花が一つ。
いつもはあなたに例える花が、今は私のようだった。
「…あなたも一人なんですね…」
花に話しかけるなんてアブナい人だけど、誰もいないし…いいですよね…。
「…咲…さん…」
花を眺めて、呟く。
綺麗な花。
私とあなたは喧嘩した。
理由は私にあった。
転校しなければならない私。
ずっと黙ってた。
だって、寂しくなっちゃうから。
日常が変わってしまうのが怖かった。
最後の日まで、私は今を過ごしたかった。
特に、大好きなあなたとは。
うっかり、言ってしまったから。
彼女にバレてしまった。
――どうして…何も言わなかったの――
泣きながら、言うあなたが目の裏に焼き付いていて。
泣かせてしまった。
最初は、まさか私と離ればなれになるとは思わなかったのでしょう。
…ごめんなさい、それしか言えなくて。
「…黙ってて…ごめん…なさい…」
目の前の花に雫が落ちる。
雫があなたに、ふりかかる。
私は知らないうちに泣いていた。
風が私と花の間に吹いて、寒さが身に染みる。
秋がすぐそばまで来ていた。
「…謝らないと、駄目ですよね…」
花が揺れる。
「……謝ろう…」
私は花を後にして、真っ直ぐに家に帰った。
翌朝。
「あ…」
「…あ…」
通学路、あなたに出会った。
お互いに…なんだか、気まずい。
「…咲さん…」
「……なに…」
「…黙ってて…ごめんなさい…」
「……私こそ…ごめんね…。悲しくて…つい、怒っちゃった」
するとあなたは私の手を取って。
柔和な笑みを私に向ける。
それだけだったけど私には十分だった。
「…昨日、うんと泣いちゃった…」
「…私は毎晩泣いてます…」
「え…?」
「…咲さんや…みんなと離ればなれになるのは…つらい…」
「…うん」
ぎゅっと。手を強く。
「私、今日…和ちゃんと寄り道して帰る」
「…いいですよ。寄り道…しましょう」
「うん…毎日、しようよ」
「毎日ですか?」
「…たくさん、思い出作りたいから…」
「…はい…たくさん…」
昨日、道端で見た花は見当たらなかった。
最終更新:2010年04月23日 17:34