3-659氏 無題

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「じゃあ、あなたに対する私の気持ちも知っているんですね?」

(うん。悲しいけれど、私とは違うってことを………)

原村さんを振り切って帰ってしまったあの日から、
私は部活に行かなくなった。それは、顔を合わせるのが辛いから……。
それまで私の生活の中心には麻雀部があって、そして原村さんがいた。

彼女の笑顔が、強い意思を秘めた横顔が、優しい眼差しが。
それまでずっとお姉ちゃんとのことを引き摺っていた私を、
喜びに満ちた生活に連れ出してくれた彼女がいた。

それが全て夢だったみたいに、呆気なく無くなってしまった……。

(好きにならなければ良かったな………)

部活に行かなくなって三日目に、
図書館に本を返しに行ったところで部長につかまった。

「咲、どうして部活に来ないの?」
「えっと、そ、それは……」
「誤魔化さずに聞くけれど、あの日、私と和の話を聞いていたの?」
「……はい」
「それで、気まずいのね?」
「…はい」
「それはあなたの気持ち次第だから私は何も言えないけれど、
 咲、あなたは和のことをどう思っているの?」

あの日、原村さんの本心を知ってしまって以来、
私は何も考えられないくらい、傷付き疲れていた。
だから、部長から真剣な目でそう尋ねられると、
それまで溜まっていた鬱屈がこぼれるように後から後から言葉が続いた。

「わ、私は…………
頼りなくて、何を考えているかわからない、不安な気持ちにさせる人。
 原村さんにそう思われていたのが辛くて、悲しかったんです。
 私は原村さんのことが好きだったから……」
「え?」

私の話を聞いた部長は驚いた顔をした。

「咲、あなたはさっき私と和の話を聞いたって言ったけど
 ちゃんと彼女に本心を尋ねたの?あなたの気持ちを伝えたの?

部長にさっきよりももっと真剣な顔で尋ねられて、私は言葉に詰まった。
あんな話を聞いた後で原村さんに自分の気持ちを伝えようなんて思えない。
でも、俯いた私を叱るように部長が口を開いた。

「咲、あなたはいまいち何を考えているのかわからない所があるけど

(う……そんなこと言わなくたって)

 自分がどうしたいのか、何を思っているのか、
それをしっかり相手に伝えなくちゃいけないんじゃない?」

「……気持ちを伝える……」
「そうよ。本当に手遅れになってしまう前に、きちんと伝えなさい。
 部室で待っているから、今日はちゃんと来るのよ」

(手遅れになってしまう前に、か)

お姉ちゃんとのことを思い出して、私は激しくその記憶を打ち消した。
原村さんとそんな風になってしまうのは絶対に嫌だったから。

授業が終わって部室の扉を開けると、そこには原村さんしかいなかった。
気まずくて咄嗟に顔を背けると、原村さんも落ち着かない様子で俯いた。

「だ、誰も来てないの?」
「はい。まだ、私だけです」
「そっか」

その言葉を最後に沈黙が訪れる。言葉が続かない。
私は対局中の待ち時間用に作られた本棚に向かい、
原村さんは山を開いて一人麻雀を始めた。
楽しかった彼女との想い出が嘘みたいに、
私達の間を静かで重苦しい時間が流れて行った。

彼女の桜色をしたストレートヘアを眺め、
こっちに振り向きそうな気配を感じては目をそらす。

(もう、あんな風に笑い合える日は来ないのかな)
(嫌だよ。そんなの嫌だよ、原村さん)



「しかし、今日の部活は中止ってどういうことなんじゃ?」
「意味がわからないじぇ」
「いいのよ。たまには休息も必要だってこと」
「休息と言えば、やっぱりタコスだじぇ」
「しょうがないわね。今日はみんなでタコスでも食べに行こうかしら?」
「一体、何なんじゃ。咲と和は来とらんし」
「そんなことどうでもいいじゃない。さあ、行くわよ」
「うおう!!」
「はいはい」



誰も来ないまま時間だけが流れて、
そのうちに雲行きが怪しくなってきた。
空一杯に黒い雨雲が立ち込めて、徐々に部室の中まで暗くなる。
私が電気を点けるのと同時に、水滴が激しく窓を打ち始めた。
すぐさまガラスの上で雨粒が繋がって、小さな流れが出来る。
そして次の瞬間稲光が走ったかと思うと
「ドオオォォッォン」
という激しい雷音が響き、部室を包んでいた沈黙が破られた。

「きゃあ!!」

一瞬停電に見舞われた部室の中、麻雀卓に向っていた原村さんが、
そう叫んで屈みこむのが見えて、
(そうだ。原村さんは雷が苦手なんだ)
はたと思い当たった。

自分の体を抱き締めるようにうずくまる彼女を、安心させたい。
そう思うと同時に、私の足が勝手に動き始め、そして
原村さんの隣に腰を下ろすと、そっとその肩に手を置いていた。




「宮永さん!?」

私が顔を向けると、彼女は驚いた顔をして
肩に乗せていた手を離してしまいました。
それが悲しくて、何だか宮永さんが遠くに行ってしまうようで、
寂しくて、私は離れていこうとするその手を掴みました。

「は、原村さん……」
「もう少し、そばに居てくれませんか?」
「う、うん。でも、いいの?」
「何がですか?」
「原村さんは、私のことが、その、苦手なんじゃないのかなって…」
「そ、そんなことありません!
 私は、宮永さんのことが大好きで……!!」

思わずそう言ってしまってから、顔を背けました。
彼女に想いを拒まれた時のことが思い出されて、体が熱くなります。

(どうしてこんなことを言ってしまったの…?)
(宮永さんは私の想いを拒んだというのに……)

それでも、たとえそうだとしても、私は彼女のことが好きだったんです。

黙って顔を伏せていると

「原村さん……。それ、本当なの?」

宮永さんの声が降って来ました。顔を上げると
すがるように私を見つめる宮永さんの顔が……。

(また、そんな気弱な顔をしないで下さい)

彼女のおずおずとした態度を見ると、
その不安を拭ってあげたい。そばに居てあげたい。
いつもそんな風に感情が一歩前へと踏み出します。
だから、私は心を決めて口を開きました。

「嘘じゃありません。私は、宮永さんのことが好きです。
 変ですよね。困らせてしまってごめんなさい。でも、好きなんです」

私の見つめる先で、宮永さんの瞳から涙がこぼれました。

「ありがとう。嬉しいよ。応えて貰えないと思っていたから」
「……どういうことですか?」
「頼りなくて、何を考えているかわからない、不安な気持ちにさせる人。
 この前原村さんと部長が話しているのを聞いて、
 そんな風に嫌われているんじゃないかって思ったから」

………宮永さんがそんな勘違いをしていたなんて。
気の抜けた私が少し噴出すと、彼女はまた少しすがるような顔をしました。

「宮永さんらしいですね」
「ど、どうして?」
「頼りなくて、何を考えているかわからない、そんなあなたが好きだから
 私は思い切って部長に相談していたんですよ?」
「そ、そうだったんだ。ごめんね」
「もう、いいんです。それより、宮永さんの気持ちを、聞かせて下さい。
 私はあなたのことが好きです。あなたは、私のことをどう思っているのですか?」

私が見つめると、宮永さんは少し驚いた顔をしてから、
飛び切り明るい、花が咲くような笑顔を浮かべました。

「私も同じ気持ち。原村さんのことが好き」

その瞬間また雷が轟いて、思わず体が固まりそうになったのですが、
気付くと温かいものに包まれていました。

「み、宮永さん!?」
「大丈夫?」
「はい。あの……」
「何?」
「もう少し、そうしていて下さい……///////」
「うん……///////」

先程部室に垂れ込めていたものとは違う、
満ち足りた、言葉の要らない時間が流れていくのを感じます。

「宮永さん。前に言いましたよね」
「え?」
「雨の日に部屋の中にいると、まるで外はみんな海になって
 その中を一人漂っているような気分になるって」
「うん」
「宮永さんと二人で、この二人だけの空間で、
 ずっと一緒にいたいです」
「うん。私もずっと一緒にいたい。
………の、和ちゃんと二人で」

突然名前を呼ばれてびっくりした私の体を、
宮永さんが少し力を込めて抱き締めました。
彼女の気持ちが、温もりと一緒に私に流れ込んでくるようで、
もう言葉にならないほど……。

「はい。ずっと一緒に……咲さん」

それでもなんとか気持ちを伝えたくて、私が頬に口付けすると、
宮永さんは再び、飛び切り綺麗な笑顔の花を咲かせてくれました。
最終更新:2010年04月23日 19:23
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