3-751氏 無題

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「あんた、ちとやりすぎたみたいじゃのう?」
「そうみたいね。まさか二人があそこまで真直ぐだとは思わなかったわ。
 咲はいずれボロが出て、本心を隠しきれなくなると思っていたし、
 和にしたってあそこまで営業用のスマイルに振り回されるなんて」
「カップルジュースを持っていたこっちまで気まずくなったわ。
 なあ、一体これからどうするんじゃ?」
「うーん、神のみぞ知る、かしらね」
「おいおい、なんじゃそれは?」
「障害の多い恋ほど燃え上がる。そういうもんでしょ?」
「相変わらず鬼じゃのう……」
「もう卒業なんだから、これくらいは楽しませて貰わないと。
 それにきっと大丈夫よ。ああ見えて咲は芯が強いから」
「和はああ見えてお子様なんじゃがのう…」
「それでバランスが取れているんだから、心配無いわ」
「はあ……。だといいんじゃが」



原村さんは私の差し出したハンカチの陰で、暫く泣き続けた。
「どうしたの?」
何度そう尋ねても、返って来るのはただ一つ
「何でもありません」
という答えだけ。

(何でもないわけない。どうしたの原村さん?)

彼女を励ましてあげたくて仕方がないのに、
私は自分がそのやり方を知らないことに気が付いた。

「そういう時は黙って女の子の肩を抱いてあげるのよ」

部長から特訓の際にそう教えられたけれど、ホストのサキとしてではなくて、
宮永咲として、私は原村さんの涙を止めてあげたかった。
彼女のことが好きだから、他の誰でもない、
自分の手で悲しみを取り去ってあげたかったのに……。
私は結局どうすることも出来ずに、立ち尽くすだけだった。
やがて原村さんは泣きやんで、最後に消え入りそうな笑顔を浮かべた。

一緒に出店を回りたかった。
面白そうな出し物があったら二人でそれに参加して、
たった一度の想い出を作りたいと思っていた。
クレープを食べて、お茶を飲んで、そして手を繋いで。
そんな一つ一つが掛け替えの無い時間になると思っていた。
でも結局、文化祭の間一度も原村さんと出歩く機会は無かった。
私は声を掛けることが出来なくて、彼女も声を掛けてくれなかったから……。

最終日も終わって、「麻雀メイド喫茶」は片付けに入った。
客席代わりに使っていた机をばらし、染谷先輩のお家が営む喫茶店や、
交流が出来た風越、龍門淵の麻雀部から貸して貰った雀卓を、
業者に運んで貰うために梱包する。
私と原村さんが最後まで飲めなかったカップルジュース用のグラスを
洗って戸棚にしまい、もう使わないストローをゴミ箱に捨てる。

思わず溜息が漏れたその瞬間、不意に部長に声を掛けられた。

「咲、和。これを処分してきて」
そう言って部長が指し示したのはもう使わないパネル。
私達はその言葉に従って、校庭で焚かれているキャンプファイヤーへと向った。

出店の売れ残りを食べている生徒達。そんな彼らと一緒に片づけをする先生。
まるで返す波から漏れてしまった水滴が浜辺を濡らして日に照り返すように、
文化祭の高ぶりや感動の名残が、校舎の至る所に満ちていた。
私と原村さんはその中を無言で歩き、やがて火柱を上げる井桁へと辿り着いた。

「御願いします」
ファイヤーキーパーをしていた美術の小林立先生にパネルを渡すと、
「文化祭は楽しめた?」
と尋ねられた。私も、そして原村さんも無言でいると、
「もったいない。まだ終りじゃないんだから、今からでも楽しみなさい」
立先生はそんなことを言った。

井桁から立ち昇る炎の周りには多くの生徒が集まっていて、
ファイヤーフォークを踊っていた。

太陽が地平線の向こうへと姿を消した西空は、僅かに残る光で赤く染まり、
昇ったばかりの満月が煌々と輝く東空は、まだ宵には早い紫色に包まれている。
一日が終わる直前の、最後の残り火のような時間。
私と原村さんの吐息が白く曇って風に流れていく。

その時

♪ 諦めたら終わり 気持ちをリセットして ♪

立先生がそれまで流していた音楽を変えたみたいで、新たに別の歌が始まった。

(諦めたら終わり………そうだよね)
私は麻雀部の部室へ帰ろうとする原村さんに声を掛けた。
「一緒に、ファイヤーフォークを踊ろうよ、原村さん」

Yシャツにスラックスを履いた男装姿の私を見て、彼女が尋ねる。
「ホストとしての言葉ですか、サキさん?」
「違うよ。宮永咲としての御願い。私、原村さんと一緒に文化祭の想い出を作りたいんだ」

そう言って右手を差し出すと、躊躇いがちではあったけれど、
原村さんは左手を出してそれに応えてくれた。
彼女の手をしっかりと掴んで、その体を自分の方へと引き寄せる。
吐息が掛かる程原村さんを間近に感じながら、私はステップを踏み始めた。

「あんまり踊りは上手くないから、足を踏んじゃうかも知れない。
 その時はごめんね。原村さん」
「はい……。私も上手くないので、踏んでしまったらごめんなさい」

♪ 今ちょっとだけ 目を閉じたら ♪
♪ せめて私が落ち込んでるの隠せるのかな ♪

私は一度目を伏せてから、真直ぐ原村さんを見つめた。

「原村さんと一緒に文化祭を回りたかったんだ。
 二人で想い出を作りたかったから」
「………」
「だから、ずっと話が出来なくて、凄く寂しかった」
「……私も、です」
「どうしてこんな気持ちになるんだろうって、そればかり考えてた」
「…答えは、出たんですか?」
「うん」

繋いだ手に力を込めて、私は本心を打ち明けた。

「あのね、私、原村さんのことが好きなんだ。
 原村さんと一緒に居たい、その目で私を見ていて欲しい」
「み、宮永さん……」
「急にこんなこと言って、ごめんね。
 でも、もう原村さんと話が出来ないなんて、嫌だから」

夜の帳が折り始めた星空の下、私達は炎に照らされながら暫く無言でステップを踏んだ。

「原村さんの気持ちを、教えて?」

風が吹いて、流れた彼女の髪の毛が私の唇に触れる。

「私も、宮永さんのことが好きです。
 他の人を見て欲しくない。私だけを見ていて欲しい。
 そんな風に思ってしまうくらい、あなたのことが好きです」

♪ ただひとつ願い抱えて ♪
♪ それぞれの運命 賭ける負けないよと ♪

額をくっつけると、原村さんの温もりが感じられる。
鼻先が触れ合うのがくすぐったくて、
笑い声を漏れるのと同時に、彼女の瞳から涙がこぼれる。
私はそれを止めたくて、口付けをする。
Yシャツとメイド服が触れ合う衣擦れの音が微かに、けれどはっきりと耳に届く。
私達は火に照らされながら、ステップを踏む。

「好きだよ、和ちゃん」
「何だか、格好よくて複雑です。咲さん」
「でも、本当に好きなんだ」
「はい………///////」
「もう少し、こうしていてもいい?」
「……勿論です……///////」




「戻って来ないと思っていたら、こんなとこに居たのね」
「ほう。まあ、上手くいったみたいじゃのう」
「そうね」
「おや、議会長の竹井君に、二年生の染谷君じゃないか」
「あら、立先生」「おお、小林先生」
「ファイヤーキーパーですか?」
「ああ、もう少しだけ頑張らないと」
「「お疲れ様です」」
「いやいや。それより、アニメの第二期が楽しみだね」
「ふふ、そうですね」「楽しみじゃのう」
「さあ、君達も踊ってきなさい。今日はお祭りなんだから」
「「はい」」

「命短し、恋せよ乙女」




ファイヤーフォークを踊りながら、お互いの気持ちを確かめ合った
私と宮永さんは、暫く火の周りでステップを踏んだ後で、
校舎脇に広がる雑木林の暗がりへと、入っていきました。

「二人きりになりたい」

宮永さんがそう言ったからです。断る理由などない私が頷くと
彼女は繋いでいた手を引いて、火柱が上がる井桁の前を離れました。

やがて人目に付かない場所まで分け入ってから振り向いた宮永さんは、
微かに届く井桁の炎光と、空を覆う星々の瞬きに照らされて、
普段とは違う雰囲気に包まれているように見えました。
「麻雀メイド喫茶」のホストをしていた関係で、ノリの効いた白いYシャツに
スキニー(細身)タイプの黒いスラックスという男装姿の彼女は、
そのボーイッシュなショートカットも相まって、月並みな言い方ですが

「何だか、王子様みたいです……//////」

「え?」


宮永さんが驚いた顔をするのを見て、私は思ったことを
そのまま口に出してしまっていたことを知りました。

「お、王子様かな…?……///////」
「す、すいません。でも本当に今日の宮永さん、格好良くて」
「ううん、嫌とかじゃなくて。えっと、原村さんはこういう方がいい?」
「え?……いえ、普段の宮永さんも十分素敵です。でも……
 そういう姿も新鮮で、ドキドキします……//////」
「そっか、じゃあ、王子様としてエスコートするね………
 …………………和」
「!?」
「どうしたの、和? 名前で呼ばれるのは嫌かな?」
「い、いえ。そんなことありません、咲さん………///////」

繋いでいた自分の手が彼女の口元へと引き寄せられ、
そして薬指の付け根に軽くキスされる。
その一連の動きが、まるでスローモーションのように
はっきりと見えました。唇が触れた瞬間思わず体を強張らせた
私を見て、宮永さんが魅惑的に笑いました。


それは「麻雀メイド喫茶」でホストをしていた時の姿そのまま。
いいえ、それよりももっと洗練され、それでいてどこかこの闇が似合う、
まるで夜の気配を帯びた退廃的な王子様のようでした。

(部長、こんなことまで特訓していたんですか?)

そんなことを思っていた私に、宮永さんがショートカットに整えられた
中性的な顔を寄せて来ました。その瞳に映るキャンプファイヤーの火が
どんどん大きくなり、思わず後ずさりしましたが、しかし背後を木に塞がれた
ところで彼女に追いつかれ、人差し指で唇の稜線を軽くなぞられました。

「和、目を瞑って」

その言葉の意味を悟って、私は硬く瞼を閉じました。
しかし、暫く待っても“期待した感触”は訪れません。
不思議に思って目を開くと、そこに先程と同じ魅惑的な
笑顔を浮かべる宮永さんの姿が…………

「からかわないで下さい」

思わずそう言おうとしましたが、しかし言葉になりませんでした。
彼女の唇によって自由を奪われ、声を発することが出来なかったからです。

(み、宮永さん………………っえ!!?)

思いがけない事態に体が反射的に抵抗しましたが、しかし宮永さんは、
私の言葉を奪うだけでは満足出来なかったようです。
口蓋に割り入って来た彼女の舌に、私は残っていた最後の
意識まで絡め取られてしまいました。

「……宮永、さん……………」

力が抜けて腰砕けになった私の体。
そのまま尻餅をつくかと思った所で、しかし宮永さんに拾われました。
私の両足の間に彼女が膝を入れ込んだのです。
背後の木に、宮永さんの膝でピン留められた私に、彼女が囁きました。

「和。膝が、温かいよ?」
最終更新:2010年04月23日 19:32
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