「宮永さん、いえ、咲さん!」
「な、なに?」
昼休みに二人でご飯を食べていたら、原村さんが突然身を乗り出すようにして声をかけて来た。
「11月11日は何の日か知っていますか?」
「え?知らないけど…」
首を振った私に、原村さんが
(しょうがないですね)
という言葉が聞こえてきそうな、まるで子供を叱る母親のような顔を向ける。
「ポッキー、プリッツの日ですよ」
「そうなんだ。知らなかったよ」
私の返事に頷いた原村さんが、
(ここからが本題です)
そう仕切り直すように一つ咳払いをする。
「ポッキー、プリッツの日は、ポッキーもしくはプリッツを一本を口にくわえながら、
好きな人にそれを差し出す。もしOKならば、差し出された相手は反対側の端をくわえる。
晴れて両想いになった二人は、端と端から食べ始めて、やがてぶつかった所でキスをする。
そういう日なんです!」
「ぜ、全然知らなかった」
「恋人なんですから、ちゃんと時々の行事をチェックして下さい」
「うん。ごめんね、原村さん」
謝った私を見て目を細めると、彼女は鞄からポッキーの箱を取り出した。
そしてその中からチョコレートでコーティングされた一本を取り出し、
前触れなく私の口に差し込んだ。
「ふぇ?」
「咲さんの心は私のものですから」
そう言い切るや否や、反対側からポッキーを食べ始めた原村さん。
彼女は見る間に私の方に近付いて来て、そして………
ちょこんと私にキスをした。
「ごちそう様です。咲さん」
「う、うん…」
「嫌でしたか…?」
「…そうじゃなくて」
(もう終わっちゃったのかって、そう思って)
早々去ってしまった唇の感触を思い出しながら、私はあることに気付いた。
そしてそれを実行に移すべく、開いていたポッキーの箱から一本取り出し、
今度は自分から口にくわえた。
「まだまだ沢山あるね、和ちゃん。何度も好きって聞かせて?」
「は、はい………//////」
最終更新:2010年04月23日 19:40