3-840氏 無題

「ここどこ? また道に迷っちゃったよ……」

気が付くとそこは360°どこを向いても
荒涼としたステップ地帯が地平線まで続く見知らぬ土地。
辺りに目を引くものは何も無くて、渡って行く風が肌寒い……。
いつの間にか私はその荒野を見下ろせる赤茶けた崖の上に立っていた。

「やっぱり道がわかってる仮眠室の方に行けば良かった……」

心細さと不安から目頭が熱くなって、思わず涙ぐんでいたら

「咲さん!!」

いつものように大好きなあの人の声が聞こえた。
振り向くと、やっぱり見慣れた桜色の髪がこっちに近付いて来るのが見えて

「和ちゃん! 来てくれたんだ!!」

嬉しくて思わずそう言ってから、でも私は瞬間的に身がすくんでしまった。
その顔が怒った時のものになっているのがわかったから。
案の定、

「どういうつもりですか!?」

開口一番強い調子で言われ、私はまた例のごとくその勢いに押されるまま
しどろもどろになってしまった。

(そんな風に落ち込んで見せたって、許しません)
(どれだけ心配したと思っているんですか?)

私は心を鬼にして、捨てられた子犬のように寄る辺無い表情をしている
咲さんに詰め寄りました。

「ここがどこだかわかっているんですか!?」
「え?」
「もう! わからずに来てしまったというんですか?
 ここはオーストラリアの中央部、ノーザンテリトリー(準)州の
 ウルルという場所ですよ!? 気付いたらこんなところに来てしまったなんて
 そんなオカルトありえません!!! 
こっちがどれだけ心配したと思っているんですか!!!!???」

一息に言って呼吸を整えていると、咲さんは体を強張らせながら
それでも一生懸命といった様子で何とか言葉を紡ぎました。

「ご、ごめんね…。私はただ、和ちゃんに『もっと本気で好きと言って下さい』って
言われたから、どうしようか考えながら歩いていただけで………。
 心配をかけるつもりは無かったんだよ? 本当だよ?」

彼女の言葉に、私は雷に打たれたような衝撃を受けました。

(まさか……。そんな……)

ここウルルは先住民アボリジニの聖地にして、
聳え立つ崖の周りを見渡す限りの荒野が取り囲むという外観から
『世界の中心』という有名な二つ名を持つ場所。
その事実が宮永さんの行動と重なって不思議な気分に包まれていた私に、
咲さんが嶺上開花をツモる時のような真剣な顔で言いました。

「和ちゃん、愛してる」

(そ、そんなオカルト………でも今日は……あっていいです………//////)

胸が苦しいほど高鳴って俯いた私の頬に、宮永さんが軽くキスをしました。

「!!!?」
「心配掛けちゃってごめんね?」
「………もう、いいですよ。でも、今度からはそんなに本気を出さないで下さい…」
「え、どうして?」
(宮永さんの馬鹿。今日みたいなことが何度もあったら
 私はキュン死してしまいます………全く、鈍感なんですから…)
「な、なんででもです!」

不思議そうに首を傾げていた宮永さんですが、私がそう言って口付けを返すと
次の瞬間にはもう花が咲くような愛らしい笑顔を浮かべていました。

(もう。大好きです、宮永さん……//////)

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最終更新:2010年04月23日 19:43
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