3-898氏 無題

木が赤や黄の葉をたくさん纏って、絶景とまでは言えないけれど。
地元はなかなかの紅葉だった。


「みてみて、ちいさい葉っぱまで赤々としてる」

「わぁ…きれいですね」


落ち葉を拾って私にみせる咲は楽しそうで。

学校帰り、少しだけ寄り道。
青空の下、赤と黄色がそこにはあった。


「あれ?」


ふと目を離した隙に…咲を見失った和。

まさかはぐれたのか、いやまさか……不安になって、あたりを見回すもいない。


「…咲さん…?」


不安になった。
そんな…どうしよう。
などと、心配性な和はついつい嫌な方に考えを傾ける。


「のーどかちゃん」


いきなり、和の肩に後ろから腕を回される。


「さ、咲さん…」

「あっちの方が綺麗だよ…行ってみよう?」

「………」


返事がない。


「…どうしたの?」

「……なんでもないです」


明らかにムスッとして、あからさまに距離を置く和にオロオロする咲。
はたして何をしてしまったか、全くわからない。

そんな咲をみて、少し可哀想に思うもまだ許してあげない。


(…私を不安にさせたのですから…
あなたもちょっとだけ不安になって下さいね?)


「…私、なんかしちゃった?」

「…紅葉、きれいですね」

「え?…ねぇ、怒ってる?」

「そろそろ、帰りますか?」

「…和ちゃん…なんで…」


目を潤ませて上目遣いする咲。

流石にもう可哀想だったから、手を引いてぎゅっと抱き締める。

いきなり抱き締められて驚く咲。




「……和ちゃん…」

「…冷たくしてごめんなさい…」

「ぐすっ、嫌われちゃったかと思ったよ…」

「…私があなたを嫌いになる時なんて永遠に来ませんよ?」


それだけは断言できる。絶対にこの気持ちは変わらない…。


「…じゃあなんで…いきなり怒ったの?」

「…私を置いて先に行って不安にさせたから…」

「…だから私を不安にさせる作戦?」

「…はい」


今度は咲が少し怒ったのか、ふてくされたような表情になる。


「…私、本当に嫌われちゃったのかと思ったんだよ?」

「…ご、ごめんなさい…やりすぎました」

「…もう…許してあげない」

「えぇ…そんな…!この通りです…ね?」

立場が急に逆転して、和がオロオロし出す。




「…じゃあ、こうしたら許してあげる」

「なんですか!?」


耳元に咲が唇を近付ける。
甘い吐息がかかって、少し震える和。

和にしか聞こえないくらい小さい声で呟く。



「…キス、して」



顔を真っ赤に染める和。

咲も咲で、言い出したくせにもじもじしている。


「……ごめんなさい…咲…」

「……和、ちゃん…」


どちらともなく唇を近付けて、どちらともなく目を閉じて。

仲直りのキスを交わした。
最終更新:2010年04月24日 00:17
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