4-69氏 無題

「よう、清澄の大将じゃんか」
「合同合宿以来だね。久し振り」

突然声を掛けられてびっくりしつつ振り向くと、そこにいたのは

「えと、確か龍門淵高校の井上さんと国広さんと………」
「龍門淵透華ですわ!!」

(そうそう、卓球の強い龍門淵さん)

合同合宿でのことを思い出して

「お久し振りです。卓球お強いですよね」

と挨拶をしたら、

「卓球も!!ですわ!!!」

と強い口調で訂正されてしまった。私なりに考えて言った言葉だったから、
そんな風に言われるとは思っていなくて、

「あの、その…」

とすっかり萎縮して口淀んでしまった。こんな時に和ちゃんがいてくれたら、
そんな考えが頭に浮かぶのを感じつつ、どうしていいかわからなくて
あたふたしていると

「ちょっと、透華」

と、見兼ねたように国広さんがフォローしてくれた。

(そういえば、龍門淵さんはあの時も危機迫る感じで恐かったなぁ………)
(でも、どうして清澄高校にいるんだろう?)

不思議に思って見ていたら、井上さんが私の視線に気付いて苦笑いを浮かべた。

「うちの透華は、おたくの原村和を勝手にライバルだと思ってるんだよ。
 んで、今日はその原村和を視察するべくやって来たってわけ。
 まあ、平たく言うとストーカーだな」
「ストーカーとは聞き捨てなりませんわ!!
 私はただ、やがて来る原村和との真のアイドル対決に備えて
 敵状を視察に来ただけですのに」
「だからそれがストーカーなんだって。
 大体こんな風に他校にまで忍び込むなんて普通じゃないだろ?」
「忍び込もうが忍び込むまいが、そんなことは問題ではありませんわ。
 今気にするべきは、私と原村和のアイドル対決の行方」
「ちょっと、透華も純もやめなよ。こんな所まで来て」

私のことなんてもうすっかり忘れてしまったみたいに、
三人のやりとりをそれから暫く続いた。やがて

「ともかく、原村和が清澄高校の女生徒達に人気があることはわかりましたわ。
 全国大会で活躍されたら、いよいよ手に負えなくなりそうですわね。
 ですからあなた!!」

と、突然龍門淵さんに指さされて、再びドキリとした。

「は、はい」
「これ以上人気が出ないように、しっかりと原村和を見張るんですのよ」
「ふぇ?見張る?」

(どういうこと?)

言葉の意味がわからなくて聞き返したのに、龍門淵さんはそれに答えず

「こんな所で油を売っている時間はありませんわ。
さあ、視察再開ですわよ!!」

と歩き出してしまった。

「あの……」

と声を掛けた井上さんも、やれやれという顔を浮かべながら

「悪いな、あいつは強引だから」

と言い置いて行ってしまい、最後に残った国広さんも

「ごめんね。また今度一緒に打とう」

と言ったきり、二人の後を追って行ってしまったから、
私は一人取り残されて呆然としてしまった。

(見張れって言われたって、困るよ…)
(大体なんで和ちゃんを見張らなきゃいけないの?)
(龍門淵さんはアイドルがどうとか、人気がどうとか言ってたけど)

三人の会話を思い出しながら廊下を歩いていたら

「あ、原村さんだ」
「どこどこ」
「ほら、あそこ。校庭で議会長と話してる」
「ほんとだ。相変わらず可愛いよね原村さん」

と、同級生と思われる女の子の一段が話しているのに出くわした。
彼女達の視線を追うと、校庭に植えられた木の下で部長と話している
和ちゃんの姿があって、それは午後の日差しに照らされてとても綺麗だった。

(やっぱり可愛いな、和ちゃん)
(みんなも私と同じように思ってるんだ)

そこまで思ってから、『みんなも』という言葉が引っ掛かった。
みんなが可愛いと思っているんだから、ああやって隣にいるのが
部長じゃなくても不思議じゃないわけで、勿論私だって同じことが言える。

『全国大会で活躍されたら、いよいよ手に負えなくなりそうですわね』

その瞬間先程の龍門淵さんの言葉が思い出されて、私はなんだかとても
憂鬱な気分になってしまった。和ちゃんが誰か他の人と仲良くしているなんて
想像するだけでも嫌だったから……。

(私、やっぱり和ちゃんのことが好きなんだ……)
最終更新:2010年04月24日 18:54
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