4-398氏 無題

どうしていつも素直になれないのでしょうか。


『私、麻雀部に入れて良かったです。原村さんと打てて楽しくて――』
『私は楽しくありませんよ。
 今の打ち方を続けるというのなら、退部してもらえませんか』


本当はあの時だって嬉しくてたまらなかったんです。
今まで見たことがない宮永さんの打ち筋に魅了されて

(もっとあなたと麻雀がしたい)

心の中ではそう思っていたのに、意地を張って跳ね除けてしまいました。
なんだか、宮永さんにはそんなことばかりしてしまっていた気がします。
追いかけて来てくれた彼女に向って、


『麻雀を好きでもないあなたに……』


と棘のある言い方をしたり―――――
麻雀部に入ったばかりの頃、わざと口をきかなかったり―――――
思い返すと、頭に浮かぶのはどれも天邪鬼なことをしていた記憶。

(本当は気になって仕方がないのに)
(でも素直になれなくて)
(今までこんな気持ちになったことなんて……)
(宮永さん……)

気付いた時にはもう、彼女は私にとって特別な存在でした。

仲良くなりたくて、でもそれを上手く伝えることが出来なくて、あの頃の私はずっとやきもきしていました。
だから、ようやく指きり出来た時はとても嬉しくて

(もっと仲良くなりたい)

もう意地悪なんてしないで、自分の心に素直になろうと強く思ったんです。
それなのに………。
取り返しのつかないことをしてしまいました。


『どうして無視するの?』
『私が何か気に入らないことをしたなら言って』
『こんなの嫌だよ』
『原村さん』


必死に紡いでくれた言葉に背を向けたあの日以来、宮永はすっかり麻雀部の練習に身が入らなくなっていきました。
私は誰よりもその理由をよく知っていた筈なのに、突き放すことしか出来なくて、


『本気を出して下さい』


冷たく言い放ったんです。
宮永さんは傷付いた顔で私を見つめ、逃げるように目をそらしました。

「和、なんでそんなこと言うの? あなたも最近何か変よ?」
「一体どうしたんじゃ、和?」

すぐに部長や染谷先輩が窘める声や

「のどちゃん、咲ちゃん……」

優希の心配そうな声も聞こえてきましたが、

「ただ、全国に向けてちゃんと集中して欲しいだけです。いけませんでしたか?」

謝る代わりにそんな言葉が口をついて出ました。

(本当はあなたのことが大好きなのに)
(それなのに………)
(どうしてあんな嘘をついたんですか、宮永さん?)

生まれて初めて好きな人から告白され、その直後にそれが嘘だと言われたあの日のことが、忘れられなかったんです。

(凄く、嬉しかったんですよ……?)

一歩も引かない私の態度によって、部室の空気が重苦しいものへと変わって行く中

「大丈夫です……」

唐突に宮永さんの声が聞こえました。
その顔は心を失ってしまったように無表情で、それを見た瞬間、もう元には戻れないんだと感じました。
それを証明するかのように、次の日から

『合宿に次いでこれで二度目だね、一緒に寝るの』
『あの頃はこんな風に仲良くなれるとは思えなかったよ』
『私、麻雀部に入れて良かったです。原村さんと打てて楽しくて―――』

全て無かったかのように、宮永さんは麻雀部で笑顔を見せなくなりました。

こんなに好きなのに、どうして素直になれなかったのでしょうか……
最終更新:2010年04月24日 19:03
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