どうしていつも素直になれないのでしょうか。
『私、麻雀部に入れて良かったです。原村さんと打てて楽しくて――』
『私は楽しくありませんよ。
今の打ち方を続けるというのなら、退部してもらえませんか』
本当はあの時だって嬉しくてたまらなかったんです。
今まで見たことがない宮永さんの打ち筋に魅了されて
(もっとあなたと麻雀がしたい)
心の中ではそう思っていたのに、意地を張って跳ね除けてしまいました。
なんだか、宮永さんにはそんなことばかりしてしまっていた気がします。
追いかけて来てくれた彼女に向って、
『麻雀を好きでもないあなたに……』
と棘のある言い方をしたり―――――
麻雀部に入ったばかりの頃、わざと口をきかなかったり―――――
思い返すと、頭に浮かぶのはどれも天邪鬼なことをしていた記憶。
(本当は気になって仕方がないのに)
(でも素直になれなくて)
(今までこんな気持ちになったことなんて……)
(宮永さん……)
気付いた時にはもう、彼女は私にとって特別な存在でした。
仲良くなりたくて、でもそれを上手く伝えることが出来なくて、あの頃の私はずっとやきもきしていました。
だから、ようやく指きり出来た時はとても嬉しくて
(もっと仲良くなりたい)
もう意地悪なんてしないで、自分の心に素直になろうと強く思ったんです。
それなのに………。
取り返しのつかないことをしてしまいました。
『どうして無視するの?』
『私が何か気に入らないことをしたなら言って』
『こんなの嫌だよ』
『原村さん』
必死に紡いでくれた言葉に背を向けたあの日以来、宮永はすっかり麻雀部の練習に身が入らなくなっていきました。
私は誰よりもその理由をよく知っていた筈なのに、突き放すことしか出来なくて、
『本気を出して下さい』
冷たく言い放ったんです。
宮永さんは傷付いた顔で私を見つめ、逃げるように目をそらしました。
「和、なんでそんなこと言うの? あなたも最近何か変よ?」
「一体どうしたんじゃ、和?」
すぐに部長や染谷先輩が窘める声や
「のどちゃん、咲ちゃん……」
優希の心配そうな声も聞こえてきましたが、
「ただ、全国に向けてちゃんと集中して欲しいだけです。いけませんでしたか?」
謝る代わりにそんな言葉が口をついて出ました。
(本当はあなたのことが大好きなのに)
(それなのに………)
(どうしてあんな嘘をついたんですか、宮永さん?)
生まれて初めて好きな人から告白され、その直後にそれが嘘だと言われたあの日のことが、忘れられなかったんです。
(凄く、嬉しかったんですよ……?)
一歩も引かない私の態度によって、部室の空気が重苦しいものへと変わって行く中
「大丈夫です……」
唐突に宮永さんの声が聞こえました。
その顔は心を失ってしまったように無表情で、それを見た瞬間、もう元には戻れないんだと感じました。
それを証明するかのように、次の日から
『合宿に次いでこれで二度目だね、一緒に寝るの』
『あの頃はこんな風に仲良くなれるとは思えなかったよ』
『私、麻雀部に入れて良かったです。原村さんと打てて楽しくて―――』
全て無かったかのように、宮永さんは麻雀部で笑顔を見せなくなりました。
こんなに好きなのに、どうして素直になれなかったのでしょうか……
最終更新:2010年04月24日 19:03