4-388氏 無題

「明けましておめでとうございます、咲さん」
「今年もよろしくね、和ちゃん」

今日は年も改まった一月一日。
一年の計は元旦にあり。
ということで、麻雀部のみんなで初詣に来ています。
時刻は霜柱の感触が足の裏に楽しい朝の五時。
まだ薄暗い空気の中にみんなが吐き出す息が白く目立っています。

「ついでに初日の出も拝んでおいた方がいいわね」

という部長の提案で夜明け前に集まったのですが、底冷えが一番厳しくなる時間帯だというのに、
地元の神社にはもう人だかりが出来ていました。
新年を迎えたばかりの独特な雰囲気に少し気圧されますが、

「振り袖姿も可愛いね、和ちゃん」

同じく振り袖を纏った咲さんを近くで見ていられると思うと、それだけで幸せな気分になれるから不思議です。

「咲さんもよく似合っていますよ//////」

そう答えてから、合同合宿で一緒にお守りを買った時のことを思い出し、今度は私の方から手を繋いでみます。

(いきなりですから、びっくりするでしょうか)

冬の冷たい空気の中、おずおずと触れた咲さんの手はとても温かくて、たったそれだけのことで胸が高鳴ります。

「こ、こうしていると温かいですよ…//////」

一抹の恥ずかしさを紛らわせるためにそんな風に言うと、すぐに握り返してくれるのが伝わってきました。

「本当だ。あったかいね」

弾んだ声の後で自然と目が合い、途端に咲さんの視線がくすぐったく感じられます。

(大好きです//////)

心の中で呟いて、ぎゅっと手を握ったその時、太陽が顔を出して咲さんが光に照らされました。
朝日に輝くその姿はとても綺麗で、目を離せないばかりか息をするのも忘れてしまう程。
ぼんやり見つめていたら

「和ちゃん、綺麗だね…」

という咲さんの声が聞こえてきて………

胸のドキドキが収まらないままやがて本殿に辿りついた私は

「いつまでも一緒にいられますように」

そう願わずにいられませんでした。

「やっぱりお正月といえばこれよね」

といって部長が取り出したのは羽子板。

「あんた、いつの間に準備したんじゃ」

それを見て染谷先輩が少し呆れた顔をしながら溜息を吐いたけれど、

「勿論お約束の罰ゲームもあるからね」

と言って部長が墨と筆を取り出したので、もう何も言えなくなってしまった。
そんなわけで初詣の後で急遽羽根突き大会をすることになった私達は、近くの公園へと移動した。その途中で

「咲さんは羽根突きをしたことありますか?」
「子供の頃に少しだけ」
「私もあまり経験が無いです」
「私達、墨で顔に落書きされちゃうかも知れないね」
「そうですね」

なんて話していたら、一回戦の組み合わせが私と和ちゃんに決まってしまったからちょっぴり複雑。

(墨を塗られるのは嫌だけど、でも和ちゃんが墨で落書きされるのも嫌だなぁ)

羽子板を持って向かい合い、和ちゃんの綺麗な顔を見たらやっぱり気後れしてしまう。
あれこれ悩んだ末になるべく優しく羽を打つことに決めて、

「いくよー」

と声を掛けてから山なりに緩く羽を打ち出したのに、

「はい……きゃっ!」

和ちゃんは早速ミスをしてしまった……。

「ご、ごめんね」

慌てて謝ったのだけれど、もう手遅れで

「はい、和に一回目の罰ゲーム」
「咲、好きに落書きしてやりんさい」
「遠慮することないじぇ咲ちゃん」
「いや、遠慮は必要だろ」

なんて、みんな口々に言い始める。

「えっと、あの、私はあんまり書きたくないです」

何とか和ちゃんが墨入れされる事態だけは避けようと思って、咄嗟にそう言ったけれど、
そんなのが通じるわけもなくて、

「駄目よ、罰ゲームなんだから」
「咲が嫌なら代わりにやってやろうかのう」

部長と染谷先輩はなんの躊躇いもなくもう墨と筆を手に取っていた。

「こうかしらね」
「ほう。じゃあ私はこう書こうかのう」

しばらく二人の声が聞こえ、やがて出来上がったのは――――――
相合傘。しかも書かれた名前は「宮永咲」と「原村和」。

(え、えぇ!?)

恥ずかしくてあたふたしたところで、

「な、なにが書かれたんですか?」

と和ちゃんに尋ねられ、どうしたらいいものかわからなくなってしまった。
横を向けば部長と染谷先輩が笑っているのが見えて、

(ど、どうしよう…)

私はすっかり途方に暮れてしまった。

「咲も和も、気が動転しているわね」
「そうじゃのう」
「本当にわかりやすいんだから」
「どっちの顔にも同じことが書いてあるっちゅうのは、はたから見てると傑作じゃ」
「後でどうなるかしら」
「わからんのう」


(和ちゃんと私が相合傘……)
(咲さんと私が相合傘……)
*1
最終更新:2010年04月24日 22:49
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*1 恥ずかしい//////