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544 名無しさん@秘密の花園 [sage] 2009/10/13(火) 21:27:09  ID:c6yO1C4s Be:

電車はガタガタと揺れながら進む。
速度は気が遠くなるほどにゆっくりで、目的地まではまだまだ時間がかかりそうだった。

「はぁ~、なんで俺がこんなこと…。」

愚痴を零している俺の目の前を、赤いリボンがぴょこりと掠めていった。

「どうした純!!電車だぞ電車!!衣は電車は初めてだ!!」

なにがそんなに楽しいのか、衣はきらきらと瞳を輝かせて、膝の上で楽しそうに揺れていた。
田舎のローカル線なんて混んでいるはずもなくて、日曜だというのに閑散としている。
なのにどうしてこいつは俺の膝の上に鎮座しているんだ?
ウサミミのようなリボンがピョコピョコとまた俺の目の前で揺れていた。

はぁ、なにが悲しくて休日に一人で衣の面倒をみなくちゃなんねーんだ…。
せっかくの休日だ。俺はだらだらと過ごしてやろうと決めていたのに…。

朝7時。平日ならともかく、休日ならまだまだベッドから離れたくはない時間だった。
だというのに、テンションの無駄に高いお子様は、遊び相手がほしくて俺を叩き起こしたのだ。
お前は朝弱いんじゃなかったのか!!
どうやら朝弱いのは用事のある時だけらしく休日には目が冴えてしまうらしい。
子供か!!…いや、子供だったな。

聞けば、一は透華と出かけるらしく、智紀のやつは今日は大事な取引があると真剣な目をしていたらしい。
透華たちはデートだな…。
智紀は…なにやってんだろうな?とりあえずこえー。
それで白羽の矢がたったのがどうやら俺だったらしく、衣ときたらひっついて離れようとしないのだ。
なんだか休日に家族サービスをしなけりゃいけない父親の気が分かったような気がしたぜ。
たまには親父に孝行してやらなきゃいけねーかもなぁ、と俺はどうでもいいことを考えた。
チラリと目をやると、衣はまだ楽しそうに揺れている。

「あんまりはしゃぐなよ。そんなんじゃ一日もたねーぜ?」
「そんなことはない!!衣は一番のおねーさんなんだぞ!!」

へぇへぇ、そーですか。
ない胸を張って、偉そうにふんぞり返る衣の頭をポンポンと撫でると、衣はふにゃあと甘ったるい声を漏らした。
衣はなんとか俺の腕を振り払おうとするけれど、結局はふにゃりととろけてしまうのだった。

「そうだ。ところで純、衣たちは今からどこに行くのだ?」

いーずーこー?とつなげながら、衣は小さな頭の上にポカンとはてなマークを浮かべている。
あぁそうだった。俺一人なら適当に店をまわって買い物でもして帰ろうと思っていたのだ。
だけどそれじゃあ、多分衣は飽きちまうだろーしな…どうするか。

あっ、そうだ。

「おい衣!!お前ゲーセンって行ったことあるか?」

それなら多分衣も退屈しないだろ。

「げーせん?」

あぁ…こいつはゲーセン自体をしらねーのか。

「ゲームセンター。分かんねーか?」
「そ、そんなことはないぞ!!遊戯室のことであろう?」

うーん…若干違うような気もするがまぁいいか。
そういえば龍門渕家にはビリヤード台やら麻雀台を置いた遊戯室があるんだったな。

「ほら、智紀がやってただろ?あれのでっかいヤツだ…簡単に言うとな。」
「あぁ…うぃー?」
「智紀のヤツ、Wiiなんてアクティブなもん隠し持ってやがったのか!!もしかして一人でやってんのか!?」

帰ったら貸してもらおうと、一人勝手に決めた。
そういえば衣のやつよくWiiなんて知ってたな。

「いや、この前皆でやったのだ。」
「なんで俺は呼ばれてねーんだよ!!」

もしかしたら仲間外れにされたのだろうか。
男子禁制…?いや、俺は女だっつーのに。

「しかし透華の一人舞台だったぞ?透華はあの手のものに特別に長けているな。」
「それは呼ばないでもらって助かった。」

透華のやつは卓球といいテレビゲームといい、意外とチープなものに才能を発揮するやつだ。

「まぁ大体そんなものだと思えばいい。行きたいか?」
「うん!!」

衣は太陽みたいな笑顔でそう答えた。
連れてきてやってよかったな、と少しだけ思い始めていた。

ーーーーーーーー

「げーむせんたーげーむせんたー!!」

調子の外れた間のぬけた歌が響く。
すれ違った中高生がくすくすと可愛いものでも見つけたような笑いを浮かべていた。
一応こいつも高2なんだけどなぁ。

「おい衣。ゲーセンは後だ後!!」
「へっ?なにか問題事でもあったのか、純?」

少しだけ悲しそうな表情を浮かべる衣の頭を撫でてやる。
ふにゃりとした表情が悲しそうな表情に上書きされた。
なぜだか知らないけれど、衣の悲しそうな顔は見たくなかった。

「飯をすませるのが先ってだけだ。俺はもう腹ぺこだぜ。」
「なんだ、そのようなことか。そういえば衣も空腹だぞ!!」

今腹が減っていたことに気がついた。そんな様子だった。
こいつは楽しいことがあると空腹まで忘れちまうのか。
随分と衣らし…子供らしいな、なんてくだらないことを考えていた。

「なんか食いたいものあるか?ファミレス行くかファミレス?」
「むむ…それも捨てがたい。しかし今回は純の決めたものに従おう…衣を満足させるのだ!!」

またふんぞり返って自分を大きく見せようとする衣だったが、張った胸は悲しいぐらいにぺったんこだった。
はてさて、それならどうしようか。
大して金持ってる訳でもねーしなぁ。

「ラーメンでも食うか?」
「らーめん?」

本当にお嬢様だぜこいつは。
今時ラーメンをしらない女子高生が他にいるか?
俺は透華と衣以外にはいねーと思うがな。

「中国的な麺料理だ。いや、中国では日本的なラーメンは食えないんだっけか?」
「それなら衣は知っているぞ!!龍門渕に来て幾許もない頃に透華と食した。
真っ赤なタレの絡んだ麺類であろう?しかしアレは衣は好かん…舌に刺激的すぎるのだ。」

ふーん…ってそれはタンタン麺的ななにかだろ!!
しかも汁なしとは本格的な…さすが龍門渕家は一味違うな。
そういえば龍門渕での飯の時にはあんま辛ぇもんがでねーと思ったら、衣のためだったのか。
まぁ透華も得意そうには見えねーけど。

「本当にお前は子供だな。あとラーメンは別に辛いもんじゃねー。お前の食ったのは特殊なヤツだ特殊なヤツ。」
「子供じゃない、衣だ!!そうなのか?ならばそれにしよう。」

ムッとした顔を見せたかと思えば、もう笑顔。
本当に山の天気みたいにくるくると表情の変わるやつだ。

ーーーーーーーー

「お待たせしましたー!!チャーシュー麺大盛と並盛り、餃子1皿でお間違いはありませんか?」

会釈して運ばれてきた丼をもらう。
おぉ、相変わらずうまそーだ。

「おー、スゴいぞ純!!美味しそうだ!!」

衣はニコニコと本当に嬉しそうな顔をする。
頭のリボンはまた楽しそうに揺れていた。

「あぁそーだな。あっ、店員さーん…子供ようの小皿ください。」
「むっ!!衣は子供じゃないと言っている!!大丈夫だ!!」
「そんなこと言ってもお前熱いの苦手だろ?おとなしく使え!!」

衣は不満気に頬を膨らませている。
仕方ねーなぁ…。

「ほれ、これでどーだ!!」
「わー!!小さいらーめん小さいらーめん!!」

ぱぁっと衣の表情が明るくなって、まるで花でも咲いたみたいだ。
小皿を使わされるという屈辱などすっかりと忘れてしまったらしい。

「餃子は半分ずつ食おーぜ!!おいおい、がっついてるとリボンがスープに沈むぞ!!」

なんだか随分と忙しない食事だった。
自分の食ったものの味なんてほとんど覚えていない。
それに妙に疲れた。衣は見ていないとすぐに問題を起こすのだ。
スープはこぼしそうになるし、熱いまま麺を啜ろうとして火傷しかける。
どうして飯を食うのに疲れなくちゃならねーのか…。
けれど衣からはニコニコ笑顔は消えなくて、それだけでなぜだか満足できるような気もした。

ーーーーーーーー

「食べた食べた!!衣は満腹だ!!」
「おーおー、それはよかった。ラーメンは美味かったか?」
「うむ、美味なり!!今度は透華たちも連れて食べにきたいな!!」
「そうだな。またくるか?」
「うん、行く!!」

今にも走り出しそうなぐらいにテンションの高い衣の腕を、どうにかしてつなぎ止めた。
それにしても、ほんと体に似合わずよく食うやつだ。成長期かな?
まぁ心の方はしっかりと優しい娘に育っているようで…って、なんで俺が父親みてーな感想を漏らしてんだ!!
意味が分からねー!!

「頭を抱えてどうしたのだ純?げーせんに行くのだろう?」

衣のくりくりと大きな瞳が、俺の顔を不思議そうに覗き込む。

「なんでもねーから気にすんな。じゃあゲーセン行こうぜ!!」
「おー!!衣はげーせんとやらがとても楽しみだぞ!!」

ーーーーーーーー  

休日の昼間だが、だからこそ逆に人も少なくてどうやら混んでいるということもなかった。
衣は人混みが嫌いだから、それだけは心配で、俺はホッと安堵の溜息をついた。

「わーい。なにやら沢山あるぞ!!なにをするのだ純?」
「うーんなにするか…まぁ適当に見て回ろうぜ。」

並んでいたのはたいして目新しいものではなかったが、それでも初めての衣には随分と輝いて見えたのだろう。
衣はキャッキャッとハシャいで、見ていて眩しいぐらいだった。
レースゲームで足が届かなくて、多少不機嫌になった以外は衣も楽しんでいるみたいだ。
一通り遊び尽くすと、夕刻近い。さて、そろそろ帰るかと衣をさがすと、衣はクレーンゲームの前で突っ立っていた。

「どうした。なにか欲しいものでもあったか?」
「あれ!!」

衣が元気よく指差した先には、よく知っているぬいぐるみ。
丸い体に、多分愛くるしいのであろう目やら短い翼やらがくっついたそれは、原村和の持っていたものと同じだった。
まぁ多分、原村和の場合は店で購入したものであろうが。

「仕方ねーな…待ってろよ。」

千円札を百円玉に崩す。最後に土産ぐらいとってやるか…。
しかしそれが問題だった。アームの力が弱いのと、ペンギンが大きいのとが合わさって全く取れやしない。
気がついたら財布に入っていた千円札は一枚二枚と消えていく。
そこまでいくと引き返すこともできなくて、ますます財布は軽くなるのだった。

「はぁ…軍資金が尽きそうだ。」

これは諦めざるをえないかもしれない。
衣もなんとなくそんな空気を察しているのか、なんだか申し訳なさそうにしている。
ラスト200円…どうすればヤツを取れる?そこでようやっと思い出すのだ。
智紀と来たときにアイツがぽんぽんと景品を取っていくので聞いてみたことを。

「大物は狙いはタグ…。」

確かに智紀はそう言っていた。
よくよく見れば、あの忌々しいペンギンにもついていやがる。
俺は衣に、任せてろ!!と腕をまくってみせると、最後の200円を投入した。

ーーーーーーーー

「もうなんですの!!緊急事態だと言うから心配したじゃないですの!!」

キンキンと透華の声が響いた。

「あー悪かったって言ってるだろ?」
「私たちがどれだけ心配したかと!!」

ちらりと後ろを振り返ると、幸せそうにペンギンを抱く衣の笑顔が見えた。
最後の1回。何度も金をつぎ込んだかいもあってか、すっかりとクレーンの操作には慣れていたため見事にペンギンは俺達の手元にやってきた。
しかし問題があったのだ。正真正銘最後の金をつぎ込んでしまったものだから帰れなくなったのだ。
それで透華に迎えを頼んだらこの有様。どうやら金でも盗まれたのだと誤解していたらしい。

「もうあなた達ときたら!!ちょっと聞いてますの!?」

透華の雷はまだまだ静まりそうになかったが、
衣のキラキラとした眩しい笑顔を見たらそんなことはどうでもよくなったあたり、自分もたいがい単純だなと一人思うのだった。

Fin.

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最終更新:2009年10月13日 23:26