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168 モンプチ壱 [sage] 2009/10/26(月) 00:09:19  ID:0tT9vafJ Be:

「粗忽の系譜」

穏やかに晴れたある秋の日―
「書庫の古記録の虫干し?めんどくせえ、なんで俺たちが」純が不満そうに言った。
ここは龍門渕家、透華がミーティングルームと呼ぶ部屋である。他の者たちは「居間」と呼んでいるが。

「しかたないよ。人手が足りないんだって。とーかもやる気になってるし」
「あいつは面白がってるだけだろ。好奇心旺盛なお嬢にも困ったもんだ…はぁ」

龍門渕家には巨大な古い書庫がある。巷間では「龍門文庫」と呼ばれ、中には膨大な量の文書が保管されている。
鎌倉時代から続くとされる龍門渕家代々の蔵書だ。古記録、古文書、文学書、思想書等々、その種類も豊富である。
無論、写本の類も多いが、中には貴重な原本もあると伝えられている。

古来、龍門渕家当主は情報に重きを置いた。
戦国の小大名であった龍門渕が、今川、武田、織田といった大勢力に飲み込まれずに来れたのは、武勇もさることながら
情報戦に長けていたことが、最も大きい要因である。

ただ明治期以降の当主たちが余り関心を待たなかったこともあり、歴史的に見ても貴重な文献が死蔵された状態だった。
第二次大戦後の混乱で、目録を紛失してしまったのが痛かった。昭和30年代から再調査が開始されたが、現在に到るまで
に分類・解析が済んだものは、全体の三分の一に満たない。時折数名の学者が入るだけで、調査は遅々として進まなかった。

「さあ、みんな準備はいいかしら?始めますわよ!」透華が居間に入ってきた。頭に三角巾、そして割烹着を着ている。
「うわ、その格好…気合入ってんなあ」 「と、とーか、かわいい…(新鮮だぁ)」
「わー、かっぽうぎだー。衣も着るー」 「とーかお嬢様、お似合いです!きまってますぅ」 「…おかあさん」
「ふふん、ありがと。もっとほめてもかまわなくってよ」
くるりんっと一回転してポーズを決めた。アホ毛が三角巾を押し上げている。

「なあ、とーか、俺パスしていいか?」純がため息混じりに言った。
「何をおっしゃいますの!紙って意外と重いんですから、男手は必要です!」
「ぐっ、俺は女っ……はぁ、とーか、ちょっとこっちへ」 「?、なんですの?」近寄る透華。
と、突然、純が透華の頭をむぎゅっと抱きしめた!「うぶぶぶっ、もがーーっ!」奇態な声をあげる透華!

「こいつめっ、どうだ!この純様の豊満な胸は!これでもまだ俺を男呼ばわりするかーー!」 「ふむーーっ!!」
「きゃーっ、お嬢さまあ!だだだ駄目ですぅ!はなしてくださーい!」
あゆむが駆け寄り、どうにかこうにか二人を引き離す。 「ぷはぁっ」透華が大きく息をついた。

「ハァハァ、思い知ったか!この俺様の魅惑のボディを!!」
「ハァハァ、じゅ、純のくせに!やわらかいとか気持ちいいとかっ!どーゆうつもりですのっ!!」パニクっている。

「くせにってなんだ、くせにって!このやろっもう一回…」 「じゅんのくせにってことですわー!きゃーっやめー!」
「だ、駄目ですーっ!だーめーー!!」あゆむが純に抱きついて必死に止める。

「はいはい、そこまで。早く始めないと日が暮れちゃうよ」ポンポンと手を叩き、はじめが二人を止めた。
「そ、そうですわっ。さ、早く始めますわよ!」そう言って透華がそそくさと部屋を出た。衣が楽しそうに続いた。
「それにしても、純ったらいつの間にあんなおっぱいを…」透華は赤い顔でブツブツ言いながら、書庫へ向かった。

「はー…、やれやれ」後に続こうとした純に、はじめが声をかけた。「あ、純。あとで、話、あるから」ニッコリ。
「うっ、は、はじめ…いや国広サン?…怒ってらっしゃる?」
「いや、別に。ただ、ちょっと、あとデ、”話”、あるカラ」ニッコリ。(お、俺はしくったのか…?)

涙目で立っていたあゆむに、ともきがそっと近寄った。トントンと軽く肩を叩き、訊いた。「…どっち?」
「と、ともきさん?え、どっちって?」 「…じゅんととーか、どっちに妬いてるの?」
「えぇっ///!い、いえ、妬くとか私そんな、私はただお二人を…えっと…その…?…ど、どっちなんでしょう?」
「…なかなか複雑w…」そうつぶやき、クスッと笑いながら、ノートPCに何かを打ち込むともきであった。

* * *
全部はとても無理なので、限られた冊数を虫干ししたが、それでも結構な重労働だった。全員へとへとになって
作業は終了した。で、話は翌日に跳ぶ。いつもの居間でのこと―

「あー…、体中痛え。あんなミミズののたくったような字の並んだ文書なんざ、全部燃やしちまえばいいんだ」
「wふふっ、そーゆう訳にはいかないでしょ」 「でもなんだかんだいって純さんが一番働きましたよね」
「べ、べつに俺は…。それにしたってだ、あんなもん後生大事に取っておいたって、何のメリットもねえだろ?」

「メリットなら大アリですわ!」バァンッと、とーか様の登場である。手に古臭い和綴じの本を一冊持っている。
後に続いて、衣とともきが入ってきた。
「偶然とても興味深いものを発見しましたわ!これを見て頂戴」中央のテーブルに本を置く。

「えっと…『三代龍門公透子記 巻之三』…でいいのかな?」はじめが手に取り、付箋の貼ってある頁を開く。
「…読めないよ」 「衣は読めるぞっ、ほめるがいい!」 「すげえな、衣こんなもん読めんのか?」
「もちろんだ!すごかろうっ!特別になでても良いぞっ」 「こいつめ自慢げにっw」ぐりぐり「痛っもっと優しく!」

「衣に読んでもらって、ともきが入力したものをプリントアウトしたのが、これですわ」全員にペーパーが配られた。
「なになに…、…にひゃくさんじゅうだん、みやながなにがしの…、みやなが?」

プリントには、以下のように記されていた。

 ~写本 三代龍門公 龍門渕透子記 巻の三 弐百参拾段 宮永某の娘のこと  ※( )は虫食い

  (  )の郷の(  )宮永の姓を名乗る( )に( )娘一人ありて側女として透子卿に仕えるものありけり
  名を(   )といふ そのもの 粗忽にて なにほどもなき平らかなるところにて転びたることたびたび
  使ひの道行において惑いたること幾十を数えたりといふ( )……

内容は大体こうだ。三代目女当主 龍門渕透子に仕える者の一人に、宮永某の娘がいた。かなりのドジで、転ぶ迷うは日常茶飯事
だったが、透子に妙に気に入られ側女として仕えるようになった。透子は夜伽の相手にいつもこの娘を指名した。
とてもおとなしい小娘であったが、他の者にはない特徴があった。囲碁、双六等の勝負事に異常なほどの強さを発揮したのである。

「その強さ鬼神の如く也…とーか、これって…」「ふふっ。話は後で。取合えず全部目を通してみてくださる?」

あるとき、領地の山のひとつに鬼が住み着いた。時折、近隣の村々を襲っては略奪等を繰り返した。かなりの手練な上に
無類の博打好きとの噂だった。討伐に当たった者達が二度に渡り撃退され、透子自らが討って出ようとしたところ、例の
側女が進み出て言う。「私めにお任せください。鬼に勝負を持ちかけ、退治てみせましょう」

単身山に乗り込んだ側女は、賭け事で散々に鬼を叩きのめし、約束どおり出て行けと鬼に迫った。逆上した鬼が側女を殺めようと
したところ、潜んでいた透子が勇躍躍り出て、一刀のもとに鬼を切り伏せた。
その晩の睦み事のあと、床で透子が何故それほどまでに賭け事に強いのか問うたところ、この娘は次のように答えたという。

「むつみごとってなんですか?」「ん?この場合はセックスのことだなっ」衣がしれっと答えた。あゆむは真っ赤になって黙った。

その昔、今回と同じように賭け事好きな鬼に苦しめられていたご先祖が龍神に祈願したところ、賭け事の場を支配する力を
与えられたという。ただし、その代償として、一族の女はすべからく粗忽者となる運命を担わされてしまったとのことであった。

…本の話はここまでだった。その後のことは、頁の欠損がひどく、判読不能であった。

「…とーか、まさかとーかはこの宮永某の娘のこと」 「察しの通り、この娘は宮永照、咲姉妹の先祖に違いありませんわ!」
「ばかばかしい、御伽噺だろー?」
「あら、御伽噺がすべて架空の話だとでも?これって妙に生々しくありません?例えばそう、酒天童子のように」
「あー、そう言われれば確かにな…。はじめはどう思うんだよ?…?…おいはじめ、聞いてんのか?」

「ブツブツ…とーかの…とーかのご先祖様と…、夜伽とか…ゆるせない…ブツブツブツ」 「は、はじ…国広サン?もしもし?」
「え?あ、ああごめん。で、とーかは何故これを?この話が本当だとしてそれがどうしたって言うのさ?」

「ふっふっふ、私は!この説話にこそ、宮永姉妹攻略のヒントが隠されていると看破したのですわ!」

* * *
一方その頃、清澄高校 ――
「あ、あちっ、あわわわっ」 「危ない!咲さん!」 
お茶を運ぼうとした咲が転びそうになり、和がそれを受け止めた。ポヨヨン。

「ご、ゴメン、のどかちゃん。だめだね私ドジばっかり…直さなくっちゃね」
「いいんです。咲さんは、そのままで」 「え、でも」
「いいんです。お茶なら私が入れますから。これから先も、ずっと、ずっと…」
「のどかちゃん…」 抱き合った体勢のまま、見つめ合う二人。

「ほほう」
「あー…、ふたりともー、お茶冷めちゃうわよー」
「きっともう激甘紅茶になってるじぇー」
「のどかちゃん…」 「咲さん…」 外野そっちのけで見つめあう二人であった。

一方その頃、白糸台高校 ――
ぺちょっ
弘世菫はあきれていた。視線の先には、廊下に突っ伏す宮永照がいる。

「………」 「何故だ、照…」
「………」 「何故、何もないところで転ぶんだ…」
「…違う」 「違う?…何が?」
「こ、これは、…そう、罠だ」
「………」 「………」
「も、もう行くぞ」すくっと立ち上がり、照が歩き出そうとした。「…照、そっちは反対方向だ」
菫は、ピタッと立ち止まった照の手を握り、引っ張って歩き出した。照は俯いてムスッとしている。
ときたま見せる表情だ。とたんに子供っぽくなる。

「照、お前さ、あんまり私から離れるな…」 「………」
返事の代わりに、少し強く手を握ってきた。抗議なのか、恭順なのかはわからなかった。しかし、
(あーもう、なにコイツ!なんなの!かわいい、カワイイッ、かわいいっっ!!)内心、胸きゅんきゅんの菫であった。

* * *
「宮永咲は言わずもがな、ともきの調査によれば、姉の照も相当のドジだとか。先の説話と合わせて考えれば、これは、
そう、いわば ”呪われしドジっ娘の系譜 ”ですわ!!」

「の、呪われしって…」 「すごいんだか間抜けなんだか、よくわからん…」はじめと純は半ばあきれていた。
「…つまり、とーかはこう考えたと…もし仮に宮永姉妹のドジを矯正することができれば…」ともきが言った。
「その通り!逆に、あの魔王、宮永姉妹を弱体化できるかもしれませんわ!!」

「…どーやって?」純が訊いた。 「へ?」 「だから、どーやって?」 「そ、それはこれから考えるんですわ!」
「正直言って、難しそうだよねえ」はじめが言った。「ううっ」
「さ、お茶にしよーぜ。あゆむー、お茶淹れてくれー」 「あ、はーい」 「うううっ」へこむ透華を見て、衣が言った。

「らしくないぞ!そんな落ち込むなとーか!あっちはドジかも知れぬが、おっちょこちょいならとーかの方が上だ!!」
「おお、 そーだな、おっちょこちょいならとーかだよな!」純が同意した。
「そ、そうだよ!おっちょこちょいならとーかが一番だよ!だから元気出して、とーか」はじめが励ます(?)。

「そ、そうですわねっ。おっちょこちょいならこのわたくしが…ってこら!誰がおっちょこちょいですって!!」
最近覚えた乗りツッコミである。

「とーかお嬢様、完璧です!乗りツッコミきまってますー!」 「…GJ」ともきが親指を立てる。
「ふふん、ありがと。もっとほめてもかまわなくってよ!!」 「はは、一瞬ホントに心配した僕が馬鹿だったよ…」
透華はくるりんっと一回転してポーズを決めた。アホ毛がぴゅんぴゅん回っていた。…うららかな秋のある日の出来事であった。

(…とは言うものの、ドジっ娘矯正計画!あきらめませんわよー!!)

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最終更新:2009年10月28日 14:45