733 dv [] 2009/11/23(月) 01:39:15  ID:XPKrHL5v Be:

久しぶりに会った友人は、見るに堪えない姿だった。

「この前はごめんね~」

何時も通りに振舞っているが、顔は少し引き攣っている。

「全くだ。時間は有限なんだぞ?」
「埋め合わせは今日のお昼奢りチャラってことで」

人を食うような態度は変わらない。
表情が顔半分が髪で隠れているので、読みずらい。
学科は違うが同じ大学に福路も竹井も通っている。
最も私は、入学して一月ほど経ってから知ったのだが。

「いらん。そんな事よりも、今日こそ病院に連れていくぞ」
「だから行かないって」

竹井は顔半分を包帯で覆っている。それ以外にも、袖口からは包帯が見えている。
全身包帯やガーゼだらけなのは、一度見ているので知っている。

「いい加減にしろ!お前は一体いつまで福路の好きにさせておくつもりだ!?」


福路が竹井に好意を寄せているのは気付いていた。
気がつけば二人は付き合いだし、一緒に暮らし始めていた。
最初こそ二人は幸せそうだった。
少し引っ込み思案な福路に、不良っぽい竹井。
正反対の二人だからこそ、お似合いな二人。
所が二人が付き合いだして、一年くらい経ってからだろうか。
真夏にも拘らず、竹井はずっと長袖だった。
その事を聞いてみると、クーラーが利きすぎて寒いのよ、と寒そうな演技までして見せた。
しかし、私はそれに疑問を覚えずに居られなかった。
一年の夏。四年生が権限を使い温度を一番低くし大半の者が寒いと言う中、一人だけ熱いなどと言っていたような奴だ。
そんな奴が設定温度が二十八度程度で寒いなどと言うはずがない。
その頃から竹井は大学を休むようになった。
と言っても、単位はギリギリ必要数は出ているみたいで進級はしているが。
それと同時に竹井が顔などに怪我をする事が増えた。
最もそれは、見える範囲での話だったが。
不自然に思った私は、無理やり竹井の服を脱がせその体を見た。
見た瞬間目を逸らした。
胸元や背中には痣は勿論、引っ掻いたような跡から刃物で切られたような傷まで大小様々。
問い詰めても竹井は「ちょっと不注意でね」と、言い続けた。
病院に行くように言っても、お金がない時間がないなどと言って行こうとしない。
そんな竹井の事を私は不用心にも福路に話してしまった。
そしてその日福路から竹井に聞いてもらえるように言い、直ぐにでも話を聞けるようにと二人のマンションまで行った。
そして中からは硝子の割れる音や、無機物だけでは鳴らない音が聞こえてきた。
そして私は気がついた。
竹井の傷は福路が原因だと言う事に。
それを止めようとチャイムを鳴らした。
扉を開けたのは福路だった。
福路はいつもと変わらない笑顔だった。
だけどその瞳には、狂気が見え隠れしている。
だからこそ、私は何も言えなくなった。ただ、怖いと思ったからだ。
今も竹井に言うだけで福路には言えずにいる。
一度竹井が心配のあまりに二人の家に泊った事があった。
その翌日からニ週間。竹井は大学にすら来なかった。
ようやく姿を見かける事の出来た竹井は、隠す事が出来ない程の怪我をしていた。

「こんなの自然に治るから。ほらお昼食べに行くんでしょう?」
「……竹井」

どうすればいいのだろう。
私は竹井も大事だが、福路も大切だ。
どちらも大切な友人には変わりない。
だからこそ、間違いを正したいのだ。
お昼を食べている途中だった。
竹井の携帯が鳴り、電話に出ると席を立ってしまう。

「ごめん。ゆみ。今日はもう帰るわね」
「福路からの呼び出しか?」
「ん?まあね。あんまり一人させておけないし」
「お前はそれで幸せなのか?」

なんでそんな事をされてまでそばに居ようとするのか。

「何が人の幸せなんて、誰にも分からないと思うわよ」
「私には福路が狂ってしまったようにしか見えない」
「そうね。狂ってしまっているのかもね。……私が」
「……」
「だって普通なら、ここまでされたら離れるなり助けを求めるなりするでしょう?それをしないって事は、私自身が望んでいる事なんでしょうね」
「本気で言っているのか?」
「ええ。ゆみには理解できないかもね。私や美穂子の事は」
「そんな事は」
「無理よ。そうでないといけないの。でないと自分達がどれだけ狂っているのかも分からなくなる。貴方はそのままで居てくれる事が、私にとっては一番の救い」

どこか諦めにも似た表情。
竹井達の事を理解していると言っても、実際は何も分かってはいない。

「じゃあね。ゆみ。彼女によろしく」

笑顔で去っていく竹井の背中を見送っていると、背後から抱きつかれる。

「モモ」

名前を呼んで頭を撫でてやると猫のように甘えてくる。

「先輩。また悪待ちさんに会ってたんすか?」
「ああ。黙っていて悪かった」
「別にいいっすよ。先輩があの二人の事を心配しての事だってのは、分かってるっすから」

少しむっとした表情をする。

「怒ってるじゃないか」
「怒ってるんじゃなくて心配してるんす。正直福路先輩が先輩とあってる事を知ったら、何かするんじゃないかって」
「それは幾らなんでも心配しすぎだ。福路はそんな事は」
「悪待ちさんは酷い怪我を毎日してるっす」
「……」
「先輩にはあの二人の事は理解できないっすよ。あの二人は、今の関係が幸せなんす」

モモの腕に力がこもり、少し息苦しくなる。

「福路先輩には感謝してるっす」
「モモ?」
「もしあの二人が狂ってくれてなかったら、私と先輩がああなっていたかも知れないっすから」

目があったモモは無表情。だけど本気だと言う事は分かる。

「先輩。お願いだからあんまり関わって欲しくないっす。でないと、私が狂いそうです」

モモの瞳に福路と同じ狂気が揺れている。

「でも、きっと私と先輩ではあの二人見たいにはなれないっすね」

だってと続けるモモは今にも泣きそうだ。

「私がそんな事をしたら先輩は離れて行ってしまうっすから」

ああ、そうか。
少しだけ竹井が理解できた。
気がした。それが竹井の福路への愛し方なのだと。
もし私は、同じ立場になったらどうするのだろう?
離れるのだろうか?
それとも竹井のようにずっと傍にいて、最愛のその人にいつか殺される日を待つのだろうか?
だけどこの問いは何の意味もなさない。
私とモモはあの二人にはなれないのだから。

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最終更新:2009年11月23日 17:30