340 名前: ◆UOt7nIgRfU [sage] 投稿日:2009/05/20(水) 02:01:31 ID:+F6WUtSc
おかしい……何でボクはこんなにジリジリと心の奥がくすぶっているんだろう?
歩はここに来てない衣の代役として役目を負っただけなのに……
透華に憧れる気持ちも分かる。いざとなった際の切り札で、大事な存在
なんだけど…透華の制服を着させたくないっていうこの気持ち…
透華専属なのはボクだって2度も言ってしまったのもあからさま過ぎたかな…
でも、言わずにはいられなかった。だって、ボクは透華の一番で居たい……
「おい国広くん。なんか顔が怖いぜ?」
純のその言葉に、思考のループから舞い戻った。いけないいけない、
ボクの悪い癖がまた首をもたげてたみたいだ。
「そーかな? そんなことはないよ」
いつものように飄々と流してみたけど、どうせ純には全部お見通し
なんだろうな。それが分かっているからこそ、狼狽する訳には行かない。
「心拍数、呼吸の乱れが平常時と違う数値を――――」
…あぁ、ともきーまでそんなことを。ボクの味方はひとりも居ないのかな?
「どうかしたんですの、はじめ? 熱とかあるんじゃなくって?」
「――な、なんでもないって!」
不意に伸びてきた透華の手を反射的に払ってしまった。ダメだ、こんなのは
ボクらしくない。取り敢えず、してしまったことをどう取り繕うか。
0.5秒で弾き出さないと!
「ごめん透華。ちょっとだけ決勝前で緊張してるんだ。熱とかはないから
心配しないで」
「…そう、それならいいのですけれど…いくら最強の我々でも、体調が
悪ければ100%は発揮出来ませんわ。…本当に何ともないんですの?
見たところ少し顔が赤いですわ」
「平気平気。大丈夫だよ透華」
相変わらずちゃんと見てくれてるんだなぁ…目立ちたがり屋の透華の
上辺だけ見る人は、自己中心的だというレッテルを貼りたがるけど、
そんなことはないんだよね。事細かに、つぶさに周囲をきっちり見てくれる。
そーいうところにボクは惹かれてるんだ。
「で、決勝先鋒は俺な訳だけど、探り入れておくのはどこにする?」
「そんなの……原村 和の清澄に決まってますわ! 副将戦でわたくしと
当たるわけですから、それまでどんな戦術で来るのか…先鋒戦から
分析していただかないと!」
清澄の話――特に原村 和の話題になると透華は饒舌になる。
ライバル校としては無名なだけに、何をそこまでこだわるのかは
透華にしか分からないことなんだろうけど……何故だろう、透華が
原村 和の名を出す度に、胸の奥がチクリと痛む。
あ、また怖い顔になっちゃってるかも知れない。こんなんじゃダメだ。
ボクはもっと、自分に自信を持たないと。透華がボクだけを見てくれる
ように、だけど、あからさまになり過ぎないように。
「でもさ、本当に原村 和がのどっちだっていう確証はないんでしょ?」
我慢が効かない。こんなこと言うつもりはないのに、突っかかってしまう。
頭で分かってるのに、口は動いてしまう……。
「確かに確証はありませんわ。それと同じく、違うという確証も……」
「透華先輩が直接確かめられるのですから、じっくりと吟味してみれば
自ずと分かると思いますけど…」
……その台詞、ボクが言おうとしたのに。ペースが変だ。歩ワールドに
先手先手を打たれている。焦燥感がどんどんと募っていく。
これが俗に言う“ヤキモチ”という感情なんだろうか?
……ボクがここまで独占欲が強いだなんて思いもしなかった。
「まー、透華なら原村をハコにするぐらいは出来んだろ。そう出来るように
俺がお膳立てしとくわ。負かして、ひざまづかせるのも一興か?
それとも、透華の靴でも舐めさせるか?」
そう言って笑い飛ばす純の言葉に、頭の中が真っ白になった。
「やめてよ! そんなこと、許さない!」
…あれ? ボク、何を叫んだんだろう? 場違いなことを言ったってのは、
凍り付いてる周りを見れば分かった。問題は『どう捉えられたか』。
「はじめ、いきなりどうしたんですの?」
「……っ 何でもないよっ」
「…ははぁん、国広くんはヤキモチ焼いちゃったのか~」
的確な純の指摘に耳まで赤く染まった。顔が上げられない。
そんなボクを心配したのか、透華は身を屈めて下からボクの顔を
覗き込む。ダメだって透華、それは逆効果だよ。
「……全く、何かと思えば。気にしすぎですわ……はじめ、良く聞きなさい」
「……?」
「原村 和はわたくしのライバル。それを打ち負かすのは至極当然。
そして貴女はわたくし専属。それは分かってますわね?」
「…う、うん」
「よろしい。……ならば、はじめのヤキモチはお門違いですわ。
わたくしの傍に居て良いのは……はっ、はじめ、だけ…ですし!
代わりの人間なんて居ないんですわ!」
「……透華」
あれ、あれあれ? その言葉を聞いたら……何だか涙が。止めないと、
こんな情けない姿なんて見せられないよ…
「何も泣かなくても…」
「違う、違うんだよ透華。ボク……泣くつもりなんて……」
言葉返さず、ふわりとボクを包んでくれる透華の腕。止めどなく溢れる涙は
寂しさではなく喜びの涙だと伝えたいけど、喉が詰まって言葉が出なかった。
(…歩、智紀、行くぞ)
ボクが知らぬ間に、純は2人を引き連れて去っていた。まぁじっと見られてて
も困るし、賢明な判断だと思った。
決勝前、控え室までの通路で泣いてしまうなど、情緒不安定としか
言いようがないけど、どうしても止められなかった。そのくらい、ボクの中の
透華という存在は大きく膨れ上がっていたんだと思う。
もう止められる止められないの問題じゃない。想いを伝えないと収まらない。
「透華…ボク、ボクね」
顔を上げて伝えようとしたその時、そっと唇に指を押し当てられ、言葉を
遮られた。
「…はじめ。それから先の言葉は……決勝が終わってから聞きますわ。
そ、その時、わたくしからも伝えたいことがありますから……」
――透華が言わんとしていること。それはボクにも分かった。
分かったからこそ、ここで止めておこう。聞き分けのないのは、メイドとして
失格だしね。
「……うん。わかった。まずは決勝を全力で頑張ろう。全部終わったら、
会場の外で待ってる……」
「…わかりましたわ。それまでは、心に秘めておきましょう」
一歩を踏み出す。黙っていても焦れていても始まらない。
ボクと透華。単なる主従以上の想いを持ってしまったが故、
乗り越えなければならない壁は高いかも知れないけれど……
きっと、大丈夫。ボクはそう確信している。
だって、ボクは透華の専属なんだもの。透華のことは何だって知っているから。
ーENDー
最終更新:2009年07月11日 16:25