コンコンと生徒会室に控えめなノックの音が響く。
「入れ」
生徒会の誰かだろうと、
勝手に目星をつけていた俺の予想を裏切られた。
顔を現したのは、テニス部の後輩で、
恋人の越前リョーマだった。
「越前か…」
「…何?不満?」
「いや。嬉しい」
「バッ!……バカァ…」
そういうと俯いて、ソファに座ってしまった。
可愛い。
「…ねぇ。後、どれくらいで終わる?」
「……十分もあれば終わるだろう」
「ふーん…」
「何だ。その薄い反応は」
「意外と早いなぁって…」
「そうか」
「もう!俺と話してないで、さっさと終わらせてよぉ!」
『話してきたのは、越前だろう』などとは、口が裂けても言えなかった。
そう言ってしまえば、拗ねて『帰る』と言われかねない。
折角、久しぶりに会えたのに、其れは避けたかった。
ふと、越前の方を見ると目が合った。
しかし、すぐに逸らされた。
「…終わったの?」
「あぁ」
「そ、そっか」
「越前…帰るか?」
足元に置いていた荷物を取り上げ、訊く。
「うん!」
一瞬、キョトンとした越前だったが、すぐに笑みを浮かべ頷いてくれた。
バタンという重い音を上げ、扉が閉まった。
「ほら」
「?」
リョーマに向けて手を差し伸べたが、意味が解らなかったのか
頭に疑問符を浮かべていた。
「手」
「…え!?だ、だってココ学校…!」
「其れがどうした?嫌なのか」
少し意地悪な質問をしてみた。
リョーマが手を繋ぐことが好きなのは知っている。
「ぶ、部長がしたいっていうなら…」
リョーマは顔を朱に染めながら、手を添えてきた。
言い訳も可愛いのだが…
「リョーマ…部長じゃない」
「…手塚先輩?」
「リョーマ…」
「!…で、でもぉ……く、にみつさ、ん?」
「あぁ」
『合格』と、頭を撫でると、嬉しそうに擦り寄ってきた。
「リョーマ。本屋に寄っても良いか?」
「本屋?うん。良いけど…珍しいね。
く、国光さんが寄り道なんて」
「そうだな」
手を固く繋ぎながら道を歩く。
元々、俺もリョーマも喋る方ではないので、
会話は殆ど無いに近いが、苦は無い。
むしろ温かい。
「あ。あそこ?」
その本屋は、閑静な住宅街に、ぽつりと在る。
老年の夫婦が切り盛りしている小さな本屋だが、
品揃いは豊富なので、昔から贔屓にしていた。
「あぁ」
ギィと扉を開くと、
「あら?お久しぶりねぇ。手塚くん」
老年の女性に声をかけられた。
「お久しぶりです。鈴木さん」
「あら。可愛い子つれて。お名前は?」
「え、越前リョーマです」
「あらまぁ。こっちへ、いらっしゃい。少しお話しましょう」
「え、あ、はい」
彼女は微笑みながら、リョーマを手招いた。
「じゃあ、俺はあっちに居るから」
「あ、うん」
そう言いリョーマと別れた。
目当てのものは、雑誌。
リョーマがアメリカで優勝した時に取材されたものだ。
大型の本屋は入れ替わりが激しいが、
小さな処だとそこまででは無いと推測したからだ。
表紙を眺めていくと、それは有った。
此処に有って好かった。
俺は、其れを手に取り、レジへ向かった。
「見つかったのかい?」
「はい、お蔭様で」
「其れは好かったね
…コレは、少し状態が悪いから値引きして上げるわね」
見た目は悪くない。
しかし、ここはご好意に甘えてもいいのだろう。
「え、あ。有り難う御座います?」
「はい。じゃあ、お釣りね。また、いらっしゃいね。
今度は夫も居ると良いわね」
「そうですね」
「気をつけて帰るのよ」
「はい。越前、帰るぞ」
「うん。じゃあ、また…」
「またね、越前くん」
すっかり暗くなってしまった道を、行きと同じように、
手を固く繋ぎ、歩く。
「先は何の話をしていたんだ?」
「…教えない」
「そうか」
「じゃあ、国光さんは何買ったの?」
「…黙秘する」
「ほら。やっぱり…まぁ、良いけどさ」
あと少しで、越前の家。
もう少し一緒に居たかった。
「ねぇ、国光さん」
「何だ」
「今日、一緒に居れて、嬉しかったよ……
でも、もう少し居たかった…」
「リョーマ…」
固く繋いだ手を更に固く繋ぐ。
「リョーマ」
「何?」
「次の休みの日に泊まりに来ないか?」
「…行っていいの?」
「あぁ。是非、来てくれ」
「行く!絶対行く!」
リョーマは少し興奮ぎみに返事をした。
全て、可愛い。
「ほら、着いたぞ」
「あ…」
「また、明日も一緒に帰ろう。約束だ」
「…うん!じゃぁね、国光さん」
ちゅッ
「…リョーマ?」
「まだまだだね」
【手を取り、】
(そう言ったリョーマの笑みを俺は、忘れることが出来なかった。)
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瀬那さま、リクエスト有り難う御座いました!
本屋一軒だけで、帰り道デートになるのか微妙だし、
ラブラブより、ほのぼの、にだし、無駄に長いし…何だか済みません!
リョーマサイドも、その内、書きたいと思います。
好かったら貰って下さい。
2010.02.13.志花久遠.
最終更新:2010年04月16日 13:39