深呼吸をひとつ。
 普通にノックしたつもりが、緊張していたのか、
 何だか小さくなってしまった。


 「入れ」


 短い返事が聞こえたから、そっと生徒会室の扉を押した。
 俺だったのを予想していなかったのか、
 部長はビックリしたような表情をしていた。


 「越前か…」

 「…何?不満?」


 来ては、いけなかったのかと思い、少し悲しくなった。


 「いや。嬉しい」

 「バッ!……バカァ……」


 でも、そんな事は、なかったらしく、
 素直に喜ばれると、こっちが恥ずかしくなる。


 ボフン。と、近いところにあったソファに座った。


 「…ねぇ。後、どれくらいで終わる?」

 「……十分もあれば終わるだろう」

 「ふーん…」

 「何だ。その薄い反応は」

 「意外と早いなぁって…」

 「そうか」

 「もう!俺と話してないで、さっさと終わらせてよぉ!」


 俺から話しかけといて、コレは酷いかなぁって思ったけど、
 俺の性格上、仕方が無い。
 部長だって解ってるし。

 部長が仕事してる姿はとってもカッコイイ。
 何事にも真剣。
 そんなの俺には無理だけど。


 じっと部長を見てたら、部長と目が合った。
 俺は何だか恥ずかしくなって、逸らしてしまった。


 「…終わったの?」


 ドキドキと高鳴る鼓動を落ち着かせようと、話をだす。


 「あぁ」 

 「そ、そっか」

 「越前…帰るか?」


 ガサガサと片付けて、荷物を持った部長に、
 少し解らなくなったけど、
 俺は嬉しくなって、答えた。



 重い音をたてて締まった扉。


 「ほら」

 「?」


 差し出された手の意味が解らなくって、部長を見上げた。


 「手」

 「…え!?だ、だってココ学校…!」


 手を繋ぐのは好きだけど、見られたら恥ずかしい。


 「其れがどうした?嫌なのか」


 嫌なわけない!嫌なわけにけど、何だか悔しいから…


 「ぶ、部長がしたいっていうなら…」


 今の俺は多分、顔が紅いのだろうな
 って思ってたら、急に呼ばれた。 


 「リョーマ…部長じゃない」

 「…手塚先輩?」

 「リョーマ…」

 「!…で、でもぉ……く、にみつさ、ん?」

 「あぁ」


 『合格』って感じで頭を撫でてくれた。


 「リョーマ。本屋に寄っても良いか?」


 今日は本当に珍しいことばかりだ。


 「本屋?うん。良いけど…珍しいね。
  く、国光さんが寄り道なんて」

 「そうだな」




 手を固く繋ぎながら道を歩く。
 ぽつり、ぽつりと話しながら歩く。
 会話は殆どないに近いけれど、とても幸せ。


 「あ。あそこ?」


 指差しながら言ったのは、住宅街に、
 ぽつんと、そこだけ時間が止まっているような、小さな本屋。


 「あぁ」


 正解だったらしく、国光さんは、ギィと扉を開けた。


 「あら?お久しぶりねぇ。手塚くん」

 「お久しぶりです。鈴木さん」


 どうやら声をかけた、おばあさん──鈴木さんと国光さんは知り合いらしい。


 「あら。可愛い子つれて。お名前は?」

 「え、越前リョーマです」

 「あらまぁ。こっちへ、いらっしゃい。少しお話をしましょう」

 「え、あ、はい」


 鈴木さんは微笑みながら、俺を手招きした。


 「じゃあ、俺はあっちに居るから」

 「あ、うん」


 そう言って国光さんと別れた。


 「貴方は手塚くんの恋人?」

 「えっ!…その……そうです」

 「そうよね。何だか後輩って感じじゃないものねぇ」


 女の人って鋭い…


 「手塚くんのこと大好きなのね」

 「え…?」

 「繋いでた手を離すとき、何だか寂しそうだったもの。
  愛されてるのね。貴方も手塚くんも」

 「えへへ…」


 何だかまた恥ずかしい。
 そんなに解りやすい表情してたのかな?


 「見つかったのかい?」

 「はい、お蔭様で」

 「其れは好かったね。
  …コレは、少し状態が悪いから値引きしてあげるわね」


 俺が見た感じ、悪くないのに…
 プロの目には違うのかな?


 「…ぃ。越前、帰るぞ」


 ぼーっとしてて気づかなかった…
 けど、鈴木さんの前では越前に戻ってる、
 くらい理解できるほど、頭は働いてくれた。


 「うん。じゃあ、また…」

 「またね、越前くん」


 そういって、手を振ってくれた。








 すっかり暗くなってしまった道を、行きと同じように歩く。


 「先は何の話をしていたんだ?」

 「…教えない」


 教えられない。恥ずかしいしね。


 「そうか」

 「じゃあ、国光さんは何買ったの?」

 「…黙秘する」

 「ほら。やっぱり…まぁ、いいけどさ」


 『いい』なんて言ってるけど、本当は気になる。


 あと少しで俺の家。
 もう少し一緒に居たかった。


 「ねぇ、国光さん」

 「何だ」

 「今日、一緒に居れて、嬉しかったよ……
  でも、もう少し居たかった…」

 「リョーマ…」


 国光さんも一緒の想いだと良いな。
 固く繋いだ手を更に固く繋ぐ。


 「リョーマ」

 「何?」

 「次の休みの日に泊まりに来ないか?」

 「…行っていいの?」

 「あぁ。是非、来てくれ」

 「行く!絶対行く!」


 嬉しい。そういう気持ちがドッと胸に押し寄せてきて、
 柄にも無く興奮してしまった。


 「ほら、着いたぞ」

 「あ…」

 「また、明日も一緒に帰ろう。約束だ」

 「…うん!じゃあね、国光さん」


 ちゅッ


 「…リョーマ?」


 あ。国光さんが、少し紅くなってる。


 「まだまだだね」






 【貴方と共に歩む道。】
 (そう言って俺は嬉しくなった。)






 ・─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─・
 遅くなって申し訳ないです!約一ヶ月もたってるし;;
 リョーマサイドは鈴木さんとの会話がメインです。

 好かったら、貰ってやって下さい。

 2010.03.08.志花久遠.


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最終更新:2010年04月16日 13:37