好き。好き。好き。大好き。愛してる。
 この気持ちに嘘は無いのに、
 どうしてアンタは、
 振り向いてくれないの?


 久しぶりに何も無い休日。
 暇だから出かけようと思ったのが、
 間違いだった。

 だって、幸せそうなアンタを見つけちゃったから。

 隣に居るのは誰?…ダレ?
 俺の知らないヒト。

 お似合いなカップルね。
 なんて言われちゃって…

 最悪。サイアク。
 オレの方が、
 その女よりもアンタを好き。愛してる。
 オレの方が、
 アンタを幸せに出来る。

 でも、アンタは振り向いてくれないんでしょ?
 どうして?どうして?ドウシテ?
 こんなにも、好きなのに。


 だからね、オレ、
 良いこと思いついちゃった。





 「ね。部長。
  オレ、渡したいモノがあるから、
  一緒に家に来てくれません?」


 ハードな練習が終わった静かな部室。
 そこには、オレとアンタしか居ない。
 何て幸せな空間。
 このままに、しておきたいくらい。


 「…此処には無いのか?」


 アンタは不思議そうに、オレを見た。


 「はい…」

 「……解った。
 まだ用事があるから待っていてくれ」

 「ウィッス!」


 『待っていてくれ』
 その言葉が何だか無性に嬉しくて。
 オレを想って出てきた言葉なんじゃないかって思えた。

 けど、


 「今日は済まないが、先に帰ってくれないか?」


 その言葉を聞いた瞬間。
 一瞬にして、サメタ。


 「あぁ、明日は絶対に……あぁ。じゃあ」


 電話で話してたのは誰?
 また、あの女?
 約束しちゃったんだ。
 約束破るの嫌いなクセにね。
 『明日』なんて、アンタには来ないのにね。


 「……越前…?」

 「!…終わったッスか?」

 「あぁ。コレを届けたら終わりだから、一緒に来い」

 「…ウィッス」





 無言の帰り道。
 冷たい外。
 暗い空。

 今のオレの気持ちみたいで、
 少し嫌になった。

 どうして、
 好きになってくれないんだろう…
 どうしたら、
 好きになってくれるんだろう…
 …やっぱ男は嫌なの?
 性別は関係ないと思うのに?


 「越前の家は此処か…?」

 「え……あ。うん」


 いつの間にか着いていた目的地。
 そう遠くはない、

 ガラガラと扉を開ける。


 「ただいま」

 「お邪魔します」

 「いらっしゃい。部長」


 ギシギシと上がっていく階段。
 ギシギシと軋む心。

 胸がイタイよ。
 部長…




 「ベッドにでも座って」

 「あ。あぁ」

 「………好きだよ」


 聞こえたかな…?


 「…何か…言ったか?」


 聞こえないよね。
 聞こえたとしても、


 「ダメだよね…!」

 「え、ちぜんッ…」


 ぐちゃり。
 ナイフが、部長の胸に刺さった。


 「ぅッあ…」

 「バカバカバカバカ……好き…」

 「ぁっ、あ、」

 「好きなのに…大好きなのに……
 どうして好きになってくれないの?」


 何度も何度も刺したから、
 部長は苦しそうに、もがいてる。


 「ぇ、ち…ぜん…」


 ぬるり、と部長の腕が持ち上がって、
 俺の頬に触れた。


 「ぶ、ちょ…ぅ?」


 暖かい身体が、
 どんどん冷たくなってくる。

 そんな事より…


 「…どう、して?」


 どうして、俺に優しくするの?
 どうして、笑ってるの?
 どうして、







 『好きだ』なんて言うの?









 「あ、あ、ぁぁ…」



 今更言うなんて、卑怯だ。
 だって、知らなかった。
 何も知らなかった。


 「俺のこと…好きだっ、たの…?」


 そう。
 俺は部長のこと、何も知らなかった。
 知ろうとさえ、しなかった。

 「う、わぁ…ぅひっく」


 ごめんなさい。と、言ったって、
 返ってきてくれない。


 「ぶっ…ちょ…」


 涙が止まらない。
 止められない。
 一緒に居たい。


 「ぶちょ……待ってて…俺も…」





 【哀れな二人に、救いのキスを】
 (紅い絨毯に、寄り添うは、幸せの象徴)








 御免なさい!御免なさい!書き逃げします…!
 2010.09.20.志花久遠




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最終更新:2010年09月20日 12:37