手塚先輩…

 そう言われたときショックだった。
 やはり俺はリョーマの中では過去の人物なのだろうか。
 もうあの時のようにはなれないのだろうか。

 俺は雨の中走り去る小さな背中を見つめることしか出来なかった。

 「リョーマ…」

 リョーマが落としていった傘を拾い上げる。


 別れようと言ったのは確かに俺だ。
 だが、嫌いになったから言ったのでは決してない。

 好きだからこそ、リョーマに余計な心配をかけたくないからこそだった。

 どうすればリョーマと話せるだろうか…

 そんなことを考えていたら、いつの間にか家に着いていた。

 「ただいま帰りました。」

 戸を開け、いつもの言葉を放つ。
 するといつものように母が居間から出てき、

 「お帰りなさい。国光。」

 いつも通りの言葉と笑顔を放つ。
 が、今日は1つ違った。

 「あら?その傘どうしたの?」

 行きは1本だった傘が2本になっていたから不思議に思ったのだろう。

 純粋な気持ちで聞いてきた母に俺は、

 「あ、いや…これは…」

 言葉を濁した。

 「…今度きちんと謝ってくるのよ。
 さぁ、早く上がってきなさい。ご飯にするわよ」

 母はそれ以上なにも言わなかった。




 【君に笑顔を贈りたい。(02)】
 (出来ることならばもう一度、君と…)






 2009.10.21.志花久遠.


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最終更新:2010年02月03日 16:40