※若干、手塚が病んでます。




 どんなに君を傷付けてでも自分の側に置いておきたい。
 その手足に枷を付けて飛んで行かない様に。
 君は自由だから。
 此処に留めておきたんだ。


 だけれど君は知らない何処かへ飛んでいってしまった。
 付けた枷を振り切りサヨウナラという様に。
 君は自由だから。
 あそこへ飛んでしまった。



 そんな夢を見た。
 このぬくもりを今更に無くしたくはないのだ。
 この全てを。

 隣で眠る子はこの両腕に収まるほどに小さい。
 その小さき子に俺は一喜一憂する。

 「…んっ…」

 力が強すぎたのか腕の中の子は身じろぐ。

 飛んで行かないだろうか。
 自分の前から居なくなったりはしないだろうか。

 そんな不安がよぎってまた強く抱き締める。

 「ふ…んッ……はッぁ…く、にみつ…さ?」

 うっすらと目を開ける子。

 「くるし、いよ」

 文句を言ってくる。それでも良い。
 此処に居ると解るから。
 それでも俺は抱き締める力を弱くはしない。

 黙ったままでいる俺を不審に思ったのか訊いてくる。

 「…国光さん。どうしたの?」

 優しい。温かい。

 「…別に怒ってる訳じゃないよ?」

 反対に心は冷たいままで。

 「どうしたの?」

 腕の中の子は訊きながら両腕を俺の背に回す。

 「…ぉまえが、リョーマが何処かへ…俺の前から居なくなってしまう夢を見たんだ。」

 君は自由だから。そう言うと小さき子は─────リョーマは笑っていた。

 「何が可笑しい」

 「だって…俺が国光さんの前から居なくなるわけないじゃん」

 「なぜそう言いきれる」

 「国光さん依存症だから」

 「…」

 俺は黙ってしまった。

 「大好きだから。
  国光さんと一緒じゃない時……特に独りで寝るときは寂しい。
  だから居なくなるわけない」

 「リョーマ…」

 「それでも不安なら『俺のだ』っていう証拠でも付けときなよ。
  ぅうん…付けて?付けて欲しい。」

 リョーマにお願いされたら断ることが出来ない。
 惚れた弱みというものだろうか?

 「解った」

 リョーマの首筋に顔を埋める。
 ふわりと甘い香りが鼻を掠める。

 「…んぁ…」

 リョーマの薄い皮膚を吸うと赤い花が咲いた。

 「大丈夫か?」

 「何の心配?」

 「いや…痛いとか…」

 「あぁ…痛いけど痛くないよ。国光さんが付けたから。」

 これで救われた気がした。

 「すまなかった…」

 「別に平気。国光さんにもつけるから」

 「…そうか。」

 「うん」

 そう言ってリョーマは俺の首筋に顔を埋めた。

 やはりふわりと甘い香りが鼻を掠めた。




 【君はサワン】
 (あれ…リョーマ君?それ、って…)
 (さぁ、何だろうね。)



 「サワン」は井伏鱒二の「屋根の上のサワン」から
 2009.11.24.志花久遠.


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最終更新:2010年02月03日 16:35