寒空の下、南夏奈は降り注ぐ雫に打たれながら夜道を徘廻していた。彼女の顔にいつもの天真燗漫さは見る陰も無く、沈鬱な表情をしている。服はTシャツ、スウェットパンツと簡易そのもので、彼女は凍えていた。
(何であんな事を言ってしまっんだろう…)
彼女は、自分の放った一言の重大さに今更ながら気付き、後悔していた。


―――30分前
南姉妹は夕食を食べていた。姉妹団欒である。程無くして、夏奈と千秋の言い争いが始まった。原因は些細な事で、いつもように何と無いやり取りで幕が下りる筈だった。
しかしその日、夏奈は偶然にも虫の居所が悪く、千秋の姉を姉とも思わぬ反抗的な言動についつい過剰反応してしまった。
「お前なんか妹じゃない!生まれて来なければ良かったんだ!」


千秋の反論を待つ間も無く、渇いた破裂音がこだました。
夏奈は世界が横転するのを感じたが、一瞬何が起こったのか分からなかった。千秋は呆然としており、ハルカは怒りに満ちた目で夏奈を見据えている。
頬が痛み出し、夏奈は状況を解した。
「痛っ、なにをするんだ!ハルカ!」
「千秋に…謝りなさい」
その声は震えていた。
「なぜだ!悪いのはチア…」
「謝りなさい!!」


凄絶な迫力だった。夏奈は今までに無いハルカの迫力に慄然とした。しかし、その勢いとは裏腹にハルカは涙を流していた。
しばらく静寂が流れ、おもむろにハルカが口を開いた。
「謝らないなら、出て行きなさい…」
静かだが、有無を言わさぬ風。
夏奈は自分の耳を疑った。
「ひょ?」
「出て行きなさい!」ハルカの怒気の前になす術無く、夏奈は逃げるように家を出た。
二人だけの南家に雨音が響いていた。
最終更新:2008年02月21日 21:08