保坂先輩はしている時と同じでこちらの様子にはおかまいなしに話し続ける。
「それでだ。見て貰った結果、色々有益なアドバイスを貰ったわけだが
この上はビデオではなくやはり実際に見てみないことには実際の雰囲気はつかめない。
という全員一致での結論になった。男子も女子もだな。
というか俺も観察する側に回らないと、している最中はどうしてもその感覚に引きずられて
冷静な観察ができないからな。幸い男子があと数人も来ればそいつらがしていてくれている間、
俺もその最中の胸を触ったり、あちこちを触りながら状態を確認することができるだろう。
ということで明日以降はそういう方針で行くことにしようと思う。」
もはや返す言葉がなかった。
というか最初から、こうなる初めの初めから、先輩とはちゃんと会話が成立していなかった様な気もする。
最後に部屋を出る前に保坂先輩は少し気が引けた様にわたしに声を掛けた。
いやでも、この人に限って気が引けるなどということは有り得ないような気がする。
この人はいつも素でこうなのだ。
保坂先輩は言った。
「いや、こういうのは正直どうかと始める前は思ったんだけどな。
実際こんなところまで親身に相談にのってもらえるとは想像もしていなかった。
女の子の後輩というのは何て有り難いんだと今回、実感したよ。 実に有り難い。
では明日の土曜だが、これから毎週朝9時にこの場所へ全員集合という話になっているから
その点よろしく頼むぞ。」
そして保坂先輩は弦楽セレナーデの調べと伴にズボンのベルトを締めながらドアを閉め出ていった。
そう、結局、最後の最後まで保坂先輩にはわたしの話は通じていなかったみたいだった。
この先、どうなるかはちょっと良くわからない。思うに、これもわたしの運命なのではないかと思う。
保坂先輩と知り合いになったわたしの。
―――― キーン・コーン・カーン・コーン~
「……でね~」
校内に昼休みを告げるレトロな鐘音が響き渡る。南春香の今日の弁当はピンクの弁当箱に敷かれたレタスの
上のフライドチキンのようなもの、リンゴ、カリフラワー、アルミのパッキングの上の推定八宝菜および白米、梅干しであった。
一方で購買部購入と思われる推定カレーパンを後にまわし、コッペパンを握りしめたままのマキが熱弁を続ける。
「その先輩が気持ち悪いのよ。キモいとかじゃないの。ああいうのが気持ち悪いっていうんだわ。
放っとくとアツコはこんな風に毎週土曜朝9時に集合かけられてその先輩以外にもヤラれちゃうようになっちゃうわけ。」
黙って聞いていたままのアツコが口を挟む
「マキ…ここまで言うことはないと思うよ。保坂先輩はいい人よ。面倒見がいいし。
まあ、多少……
というか、この話は何!?これもわたしの運命っていったい何!?」
「だからアツコみたいな性格だとこんな事になりかねないって、たとえ話よたとえ話。
それとも……毎週土曜日朝9時に集合かけられてもいいっていうの?
だとしたら趣味を疑わせてもらうわよ!」
(あれ……何でわたしが責められているんだろ)
マキに強い調子で詰問されてアツコは瞳を見開いたまま少し涙ぐんだ。 困り顔の眉、その下の潤んだ涙目、
頼りなさげな口元、ひたいに掛かる前髪と耳に掛かる内はねの髪が幼い印象の表情を強調してはいるが
その下へ目を移すとネクタイと白いベストが白いブラウスに包まれた胸元の豊かさを隠せない。
何よりその弱気な性格では強気だという保坂に抵抗できるとはとうてい思えなかった。
(保坂先輩という人は良く知らないけれど、有り得るんじゃあないかしら……
それにしてもマキちゃんの話……みんないつもあんな事をしているなんて……
私ももっと積極的になっても良いのかも……)
その時そう南春香が考えたかどうかは定かではない。
(終わり)
最終更新:2008年02月23日 21:18