今日は休日、特にやることもなかったので、内田は南家に遊びにやって来た。
といっても、休日に退屈を持て余したカナが遊び相手欲しさに呼んだからである。
南家の玄関の前に立ち、インターフォンを鳴らすと予想外の声が聞こえてきた。
「はい?」
男の声が返ってきたのである。てっきり3姉妹の誰かが出ると思っていたから、
少し驚きつつも、ひとまず返事をすることにした。
「こんにちは、内田です。」
「ああ、ちょっと待ってて。」
その声の主はそう答えるとすぐに玄関を開けに来た。
「やあ、こんにちは。」
「あれ? 藤岡くんも呼ばれたんだ。というか、チアキたちは?」
「えぇと、ここで話すのもなんだし、とりあえず中で話すよ。」
そう言われたので、ひとまずお邪魔させてもらうことにした。
話を聞いたところ、カナが人を沢山呼んでしまったらしく、そのため食材が足りそうにない。
それで3姉妹は買い物に出かけ、藤岡も荷物持ちとして行こうとしたのだが、
誰かが家に居てくれた方が安心だからと、カナに留守を押し付けられたのである。
「自分は留守番なんて退屈だから嫌だなんて言ってたよ。」
「あはは、カナちゃんらしいね。それで他には誰を呼んだって言ってたの?」
「他にもトウマとか色んな人呼んだみたいだけど、あまりよく聞かなかったな。」
「ふぅん、とにかく今来てるのは私たちだけ…。」
自分の言葉で、急に意識しだしてしまった。そう、今は藤岡と2人きりである。
若い男女が2人きり。そんなことを考え出してしまい、急に恥ずかしくなり、俯いてしまった。
「どうしたの?」
急に黙り込んだ内田の心情など知る由もなく、藤岡が気にかけているものの、内田の耳には入っていない。
(ああ、どうしよう。急に恥ずかしくなってきちゃった。
そりゃあ、藤岡くんはカッコいいし、チアキも甘えたりしてるよね。
プールの時なんかお姫様抱っこしてもらってたっけ? あれ、羨ましかったな…。)
ちらっとだけだが、藤岡の方を見てしまい、ますます動揺してしまう。
(ってそうじゃなくて! とにかく何とかして落ち着かなくちゃ! …そうだ!)
何かを思いついた内田は急に立ち上がった。驚く藤岡をよそに、
藤岡の前に移動すると後ろを向き、藤岡に寄りかかるように座りだした。
「え? ちょっと。」
(チアキもこういうふうに座ってる時落ち着いてるよね? だから大丈夫。)
「えぇと、そういやトウマもこんな座り方してきたけど、これ流行ってるの?」
「え!? …えぇとぉ。うん、そう! そうなの!」
今ひょっとして自分はとんでもないことをしているのではないか。
しかも、声をかけられたために、つい藤岡の方を振り向いてしまった。お互いの顔が近い状態でだ。
自分の行いにますます動揺してしまう内田。顔は既にりんごのように真っ赤である。
「はは、面白いことが流行ってるんだね。」
(あっ…。)
爽やかな笑顔を間近で見せつけられ、それがトドメとなってしまった。
内田はその笑顔に見とれてしまい、うまく思考が定まらなくなった。
まともに考えようとしたら、どうにかなってしまいそうだ。
しかし、恥ずかしさが大半を占めるものの、何か心地よい感じに包み込まれている気もする。
自分がお姫様だというわけではないが、まるで王子様に守られているかのようだ。
そんな錯覚に陥りそうになり、内田の心に何かが芽生えようとしている。
が、その何ともいえない感覚はあっけなく消えてなくなることになった。
「………おい。」
「ひっ!」
突然背筋が凍るほどゾッとする声が聞こえ、内田は固まってしまった。
かろうじて声がした方を見ると、そこには内田を静かに睨みつけている親友がいた。
その後、内田はチアキに一週間口を聞いてもらえず、家にも上がらせてもらえなかった。
最終更新:2008年02月24日 23:48