今日、この日のために頑張ってきた。
ある者は与えられた役を演じ、ある者は照明で役者を照らし、ある者は衣装や小道具を作った。
少年・佐藤リョータも大道具係としてクラスに貢献してきた。そう、今日は学芸会である。
とは言っても、学芸会は4日に分かれている。
1日目と2日目は生徒同士で自分達の劇を見せ合い、3日目と4日目は保護者達に見てもらうというものだ。
よって、3日目・4日目は土日に当てられる。
今日はその1日目。1年生から3年生までといった低学年による劇を見る日だ。
そのために全生徒と教員が体育館に集まる。
この日は平日だが、これのおかげで勉強をしないですむ。それは素晴らしい利点なのだが…
「暇だ…。」
正直言って面白くない。
小学生にそんなものを期待するのは酷と言うものだが、とにかく退屈なのだ。
かと言って寝転がることもできない。体育館に全生徒と教員が集まっているので、そんなスペースはない。
退屈な時を長い間過ごすことになるのかと少し憂鬱になっていると急に舞台の照明が消され、
体育館全体が暗くなった。その間、変な音楽も流れる。場面が切り替わるのだろう。
この暗闇の時間は舞台にあるセットを変えていく時間でもある。
大したことではない。しかし、そんな中突然リョータは服の裾を掴まれた。
「(どうしたんだよ、平川。)」
周りに気を使って小声で話すことにした。
掴んだのはリョータの隣にいるナツミであった。心なしか手が震えている。
「(だってボク、暗いのが怖いんだもん…。)」
そういえば、いつぞや体育倉庫に閉じ込められた時の怖がり方は尋常じゃなかった。
自分がその恐怖を煽ったからというのもあるが、その時は酷い目にあったものだ。
また碌なことにならないのではと思い、裾を掴んでいる手を離すように説得を試みた。
「(別に1人で閉じ込められてるわけじゃないんだから、大丈夫だって!)」
「(嫌だよ! 何かに掴まってないと安心できない!)」
それから何とか離すように説得し続けるが、一向に離す気配がない。
それどころか少しずつ強く裾を引っ張るようになっていく。このままでは服が伸びきってしまう。
そう思ったリョータはナツミを安心させることにした。
「(あっ…。)」
「(どうだ、これなら不安じゃないだろ?)」
照れくさそうにナツミの手を掴んだのである。かなり恥ずかしいのだが、あのまま服を台無しにされても困る。
リョータにとってはやむを得ない手段だった。しかし、ナツミを安心させることには成功したようで
「(うん!)」
と小声ながらも元気な声が返ってきた。

少しして、ようやく体育館が明るくなる。
もう手を掴む必要はなくなったので、手を離すと今度はナツミの方から手をつないできた。
「(お、おい! もう明るくなったからいいだろ!)」
「(だって、またいつ暗くなるかわからないでしょ。劇の間は手をつないでてよ。)」
(ナ、ナンダッテー!!)
こうして、劇の間ずっとナツミと手をつなぐ羽目になってしまった。
明るい状態でも手をつないだままだったので、誰かに見られるんじゃないかとハラハラしっぱなしだった。

最終更新:2008年02月24日 23:54