今日も今日とて、みなみけではいつもの光景が繰り広げられている。
「おい、藤岡」
「なんだい、南?」
「お前はいつから千秋だけじゃなく、冬馬にも藤岡椅子をするようになったんだ?」
「え?」
言われてから気が付いた。
そういえば、いつの間にやら冬馬も藤岡椅子に座っている機会が多くなった。
道理でさっきから千秋から痛い視線でこっちを見ていると思った。
「うーん、何でだろう。気が付いたらこうなってたな」
「ああ、オレもいつの間にかお前の膝に座ってた。座り心地がいいんだよな。藤岡椅子」
「そ、そうなんだ…」
自分の膝がどれくらい座り心地がいいかなんて、藤岡には分からない。
「おいカナ、さっきから何してるんだ?」
「見て分からないのか? 私はゴロゴロしてるんだ」
部屋の床をごろごろと転がるカナ。
「冬馬、藤岡、お前も一緒にやらないか?」
「うわ、こっちにくるなよな!」
ゴロゴロと転がってくるカナを足で追い払おうとする冬馬。
ちなみにこの間も冬馬は藤岡椅子に座ったままである。
まあ、藤岡は冬馬を男と見ているので、もぞもぞ動いたりしてもなんら反応を示さない。
これがもし、一般の男子だったらなら、冬馬の尻がある場所が即やばい事になっているかもしれないが。
「と~う~ま~」
「だから来るなって!」
「ちょ、暴れるなって冬馬。危ない」
迫るカナに追い返そうと暴れる冬馬。そして冬馬が座っている藤岡椅子。
当然のことなのだが、このような状況で暴れればお約束ともいえる事が起こる。
「「うわあ~!」」
カナがもろに二人にぶつかった。
ちなみに今の状況は、藤岡が下敷きになり、冬馬が藤岡に抱き付いているようにも見えなくもない倒れ方をし、カナはぶつかった拍子にテーブルの足に頭をぶつけた。
「いっててて…」
「~~~~~!」
一人頭を押さえてのた打ち回るカナ。
藤岡も冬馬も気にも留めなかった。
と、言うより、気付いてもらえていなかった。
「大丈夫か、冬馬」
「なんとかな。藤岡は?」
「俺も大丈夫だ。それより…とりあえず、起きれないからどいて欲しいんだけど」
「え?」
冬馬はこのとき初めて、今の自分の状況を理化した。
事故とはいえ藤岡に抱きついている。
「うわ!」
咄嗟に冬馬は藤岡の上から飛びのいた。
「すまん、藤岡」
「そんな腫れ物に触るように飛びのかれたら、ちょっとショックだ」
「おい、お前達」
一人忘れ去られていたカナは不満そうな声を出した。
「いちゃつくのはいいんだけどさあ。そういうのは二人っきりの時にしてくれないか? 私の存在を綺麗にスルーするな」
「別に俺は、冬馬といちゃついて居ないけど。男同士でいちゃついたら変態じゃないか」
あんなに体が密着していたにもかかわらず、藤岡はまだ冬馬が女だと気付いていないようだ。
「おい、馬鹿野郎。そんなところに寝てたら邪魔だぞ」
「おお、誰かと思ったら千秋じゃないか。誤植でお前が最初から居る事になってたぞ」
「何訳分からない事いってるんだ、馬鹿野郎」
「やあ、お帰り千秋ちゃん」
「おお、来てたのか藤岡」
「オレもいるぞ」
「冬馬も来てたのか」
「カナに呼ばれてな。藤岡もそうだぞ」
「藤岡に迷惑をかけるな、馬鹿野郎!」
千秋は寝転がったままでいるカナにストンピングをした。
「あれ? なんで私が踏まれるんだ?」
「あら、藤岡君に冬馬、いらっしゃい」
「あ、お邪魔してます。ハルカさん」
どうやら千秋とハルカは買い物帰りのようだ。
「二人ともご飯食べていく?」
「はい、ご馳走になります」
「オレも兄貴達に連絡入れとかないと。ハルカー、電話借りるぞー」
「いいわよ~」
買った物を台所にもって行きながらハルカは返事をした。
この日が全ての始まりだと、誰も知る由も無い……
最終更新:2008年03月27日 23:51