「かっ」
ふらり、と重力に逆らわずに体が倒れる。
「うわっ」
速水先輩は慌てて背中に手を回し、アツコの体を支える。
「あららー、寝ちゃったか」
すぅ、と綺麗な寝息をたてる。朱く染まった頬も相俟って艶っぽさを醸しだしていた。
そういえば、いつかの大晦日もこの娘はすぐに寝ちゃったかなー。
なんてことを考えながら速水先輩はアツコをチアキ達の隣に寝かせる。
「むぅ、それにしてもどうしようかね」
動けないアツコにイタズラするのも面白そうではあるが何となく気が向かなかった。
それなら
「おとなしくハルカの料理でも待つことにしようか」
というか、起きている人もいないので他にすることもないのだが。
「それにしても、アツコまでどうしちゃったんです?」
2人だけの食卓、本来ならもっと大人数でわいわいやってるはずだったのだが、偶然と速水先輩のお遊びが重なり
結局はハルカと速水先輩の2人に落ち着いてしまった。
「部活でしごいたわけでもないんだけどなぁ」
今は性的な意味でしごこうとしていたのだが。
アツコについては疲れたので横になると言っていた、とだけ説明しておいた。
「そういえば、先輩も何か持ってきて下さっていたようですけど。 アレ、なんです?」
唐突に投げ掛けられた質問だったが、こちらからどうやって切りだそうかと思案していた速水先輩にとってはまさに渡りに船だった。
「とっておきの飲み物、外国の高いやつだよ」
いつもの笑みと合わせて答え、件の物を袋から取り出してハルカに渡す。
「まぁ、ありがとうございます」
「スピリタス?何のジュースです?」
この代物、外国産というのは間違っていないが、本来なら高校生の手に余る物である。
「私もよくは知らないけど、カルピスみたいに薄めて飲んだ方がいいらしいよ」
ちなみに、この人はもちろんどんなものか知っている。
「へぇ、そんなに高いものなら、皆が起きるまで開けない方がいいですね」
「え?」
二人だけなので乾杯も何も皆が起きるまで先送りにしているといっても
これは飲んで欲しいと速水先輩は思っていた。
むしろ飲まなければハルカは始まらない、このままだと何もしない内に終わってしまうのだ。
ゆくゆくにアツコが起きるだろうが、それまではハルカと楽しむためにも飲んでもらわなければ話にならない。
「飲んでくれないの?」
悲しそうな演技をしてみる。
「え、でも……」
「とりあえず一杯だけさぁ」「んー、先輩がそこまで言うなら飲みますけど」
快く、とはいわないが承諾。
速水先輩もアツコのように無理矢理飲ませるのもハルカにはできるだけ避けたかったようで。
「そうこなくっちゃっね」
嬉しそうに煽った。
栓を開け、グラスに注ぐ。
もちろん水で薄めたが、どうにも薄まった感じもしないのがコレの怖い所。
ハルカはそれを、一思いに飲み干す。
最終更新:2008年02月19日 22:47