日常以上に日常らしさを感じられる一コマ。ここは南家。中には5人の少女少年。
「あらあらマコちゃん寝ちゃってるよ…」
静かな寝息を立てて、だらしない寝顔をさらけ出す今はマコちゃんことマコト。時間はまだ午後の
3時を過ぎたあたり。夜更かしでもしていたのだろうか。
「というか非常に迷惑なんだが…」
そう言う彼女の迷惑の原因はマコトの頭。いわゆる膝枕と呼ばれる状態を作り出している。
「おやおや~、お熱いねぇお二人さん」
いやらしい微笑みを向けながらからかうのはこの家の次女であるカナ。
「仕方ない。買い物は私達だけで行こう。お前達は留守番な。」
冷静に膠着を打破する策を打ち出すのは、三女のチアキだ。
『ぅえ!?』
裏返った奇声が、奇跡のように重なる。
「そうねぇ。別に問題はないと思うわよ。念のため鍵はかけていくし、マコちゃん1人にしておいた
ら可哀想でしょ?お願いね、トウマ」
起こすという選択肢はないのだろうか。そう言いたげな2人だった、が、間の抜けた表情ではある
ものの、確かにそうするには忍びない可愛い寝顔。
「い、いやでも同じ屋根の下でっ、そんな2人っきりだなんて…」
慌てふためくカナ(及びトウマ)に、怪訝を浮かべる2人。
「トウマは弟だが、一応女だぞ?そんなことも忘れたのかこのバカ野郎。」
「むむむ…」
真実を知るもの知らないものの隔たり。結局観念してチアキの提案どうりになることに。
「いいかい?決して変なことをするんじゃないよ?」
念を押すカナに、内心気が気でないトウマ。
「いいから早くしろ」
もちろんバカ野郎と付け加えて、三姉妹は扉も向こうへと消えていった。
収容人数が五分の二になったことで、静けさに包まれた南家。すやすやという寝息と、う~とトウ
マの呻き(嘆き)声だけが存在していた。
「ひゃっ」
悲鳴。唐突にあがる。
「ちょ…なにすんだ、このバカ!!」
一体何が起こったのか。当然ながら原因はマコトである。彼の小さな手が、これまた小さなトウマの胸部を包んでいる。
「ちょ…っと、あ…んん!!」
次第に活発化するそれに合わせて、悲鳴がリズミカルな嗚咽へと変わる。
「ぁぁ…ひゃふぅ……」
「むにゃむにゃ、ハルカさん…萎みましたか…むにゃ」
無意識の中、テンポがあがる掌と声。
(どんな夢見てんだ、こいつ…)
ひょんな寝言に少しだけ冷めた頭の中も、全身を包み込んでいく未知の感覚にすぐに熱くなる。
「マコ…ト……やめ、てぇ」
しかしそんな懇願なぞ知る由もなく、夢に貪るマコト。トウマの昂ぶりの頂点に手が届く。
「ふやぁぁぁぁぁぁ」
これまで発したことのない、とても自分のとは思えない高い声。張り詰めていた糸が切れるように
、身体から力が抜ける。ぐったりと。
荒ぶる息づかい。絶叫の木霊から耳を背ける。初めてのオルガスムスの余波に浸りながら
「はあ…はあ…」
ひとまずは平生を。呼吸を整え、拳を握る。
「こんの、バカ!!!」
ゴンッと一回、そしてまた一回。音とともにマコトの頭部に並々ならぬ衝撃が伝わる。
「って、いてっ!な、なんだなんだ」
熊の冬眠のごときマコトの安眠は、こうして破られた。
「何すんだよ!!」
涙目になりながら、拳の先―トウマへと視線を移す。違和感。普段の凛々しさが鳴りを潜め、表情
は赤く呼吸がはっきりと聞こえる。中性的な顔立ちが、女性を感じさせるものへと変貌している。
「ど…どうしたんだ?」
別人のような彼女に戸惑いを隠せない。殴られた痛みすら、その異変の前には些細なことだった。
「胸、触っただろ…」
「ギクゥ!!」
ぶれのないストレートに、動揺が浮き彫りになる。
「お、お前何でわかるんだ!?エスパーか、エスパーだな?」
「わからないわけないだろう!!触られた本人だぞ!!!」
「え、えぇぇぇぇぇ」
衝撃の新事実。しかもマコトには身に覚えのない。
「ちょちょちょっと待ってくれよ。俺はお前の胸は触ってないぞ!」
「じゃあ誰のを触ってたんだよ!?」
「そ、それは…」
そう。マコトは確かにふしだらな行為に及んでいた。ただしそれは、夢の中で。行為の対象は言う
までもないのだが…
(とにかくここは何とかごまかさないと…)
脳の中で、目まぐるしく策を巡らせる。言葉を探す。
「そ、そう言えばみんなは!?」
「買い物に行ったよ。お前がオレの膝で寝てたから置いてけぼりだ。」
さらに怒りのボルテージがあがったのを感じた。もはやセカンドインパクトは確定的である。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。仮に俺が寝ぼけてお前の胸を触ったとしても、別に問題ないんじゃ
ないか?」
「は?」
何を言い出すんだこいつは。と言いたげに、さらに握りを強くするトウマ。
「だ、だってお前はほら、南家では男ってことになってんだろ?俺は今女なんだし、男が女の胸を触
っても別に大したことないだろ?」
とんでもない屁理屈ではあるが、まあ理にかなってなくもない。
「そうか。」
「そうそう、だから許してくれよ。ってあれ?」
間違いなくやられる。そう思っていた彼の案外、トウマの手に握られた一撃は解かれていた。
「ゆ、許してくれるのか?」
最終更新:2008年02月21日 20:15