「ホントウノキモチ」
チカと別れてから30分。リョータはカズミの家の前で立ち往生していた。
はて?どうやって入ればいい?。ベタだが、お見舞というのがベストだろうか。
「……よぉ~し……」
ブザーを押し、聞こえてくる声への対応を試行錯誤しながら顔を近づける。
「合い言葉……チーズ……」
「………ヨーグ……いや、ケーキ!」
すると、玄関のドアが開いてパジャマ姿のカズミが出てきた。
「あ……佐藤君……だったんだ……」
「やあ相原……って、何だよ今の!?」
「家の泥棒対策」
やっぱり……カズミの家は揃って変……いや、個性的なんだろうか?と疑問を感じざるを得なかった。
どうやらカズミの父親は仕事に、母親は買い物に出かけたらしい。
熱はもう下がっているようだが、無理は禁物だろう。
「……よく家がわかったね」
「ああ……チカが教えて……」
゙チカちゃんの事……好き?゙
何言ってるんだろう?つい口走ってしまった。しかし、カズミは表情を全く変えずにいつものように、無気力さを漂わす目を見せる。
安心して他の事に気が移り、ふと辺りを見回す。そういうば、カズミの家に来るのは初めてだ。
女の子の家は、チカの家にしか上がったことがない。ユウキやナツミの家の場所はしってるが、上がるまではしていない。
ましてや、カズミの家にお邪魔するなんて思ったことすら無かった。
「……どうしたの?」
「いや……意外と、女の子らしい部屋だなぁ……って……」
何せ情報が不足してるから。だが、カズミはまたまた表情を変えずにリョータを見つめている。
何だか、水色のチェックのパジャマ姿も可愛い。どうしても、鎖骨……というか胸に目が行ってしまう。
膨らみかけではあるが、最近大きくなったような気がしてくる。
(いかん……ちゃんと言わないと……)
「相原……どうして、あんな事言ったんだよ……」
あんな事……とは決まっている。雨の中の突然の告白。その後に見せたあの悲しげの表情。忘れられない。
「……言いたかったから」
「そうじゃない!。ごめん……だなんて……」
普通言わない。告白をしたのに、どうしてそんな真似をしたのか……。
カズミはまだ表情を変えることこそなかったが、声のトーンは間違いなく弱かった。
「……佐藤君は迷惑を被ると思ったから……」
また目が合った。カズミの目は変わっていないように見えて、泣き出しそうな感じが見え隠れしていた。
「相原……」
「リョータ……好き……」
それは幼い頃の約束からくる気持ちじゃなかった。今確かにわかる。
「チカ……」
自分も手を回して抱き合えば、それはチカの気持ちを受けいれる事になる。
チカは小さい頃から一緒で、子供ながら結婚の約束をした。
「カズミちゃんがリョータを見てたの……リョータも、カズミちゃんが休むって聞いてからボーっとしてるし……」
「チカ……俺は……」
「両思いだと……思ってた……」
いつだったか、一緒に帰るときに手を触れ合った時にお互いの気持ちは、重なりかけた。
「だから……私、もう……言わなくちゃ、リョータが誰かに……」
自分の本当の……本当の気持ちを伝えなきゃいけない。だから、震える手をリョータは動かした。
「俺……ごめんな……」
俯いたまま、カズミに言葉を告げた。暗そうな表情を、変えることなく、リョータの話しをじっと聞いていた。
拳をギュッと握りしめる。体が震える。伝えなきゃ……いけない。
「チカはずっと一緒でさ……あいつの事はよく知ってる。あいつの好きな食べ物、好きな場所…好きな……」
゙……好きな人を……゙
「でも…相原の事はよくわからない。いつも無愛想で……指噛んだり…何考えてるか……だから……」
覚悟はしていた。それを承知で告白したのだから。一緒に過ごした年数も、思い続けた日々もチカには到底及ばない。
すっきりしたかっただけ。近くでまざまざと見せつけられるのは、苦しかった。
だから……振られたって……。カズミはそう言おうと、リョータを見た。
「だから……もっと知りたいんだ。相原の事……」
「え?」
外の雨は昨日の土砂降りと違って、優しい雨になっていた。世界を抱くような、そんな優しい雨。
雫が落ちる音でカズミは我に返った。リョータも、それ以上に自分も頬が赤い。
「俺……相原のことをもっと知りたい。好きな食べ物も、好きなテレビ番組も、もっと……」
「佐藤君……」
「チカの事は……好きだった。でも……相原の……カズミの事はもっと好きなんだ!!」
何だろう?嬉しいはずなのに……素直に笑えない。驚いてるから?それとも、チカへの罪悪感?
違う。目の前に……好きな人がいて、好きだと答えてくれたから。
ただ、それだけの言葉に心が震えたから……。
「……前振りでごめんなんていうから……駄目かと思ってた……」
嘘だ。最初から諦めていたんだ。
「今……かなり……佐藤君の……リョータ君の気持ちを感じた……」
「恥ずかしい……事いうなんてカズミらしくないぞ……」
2人とも胸が高鳴っている。頬が赤らんで……また、熱が上がりそうだ。
「……ねぇ…かじっていい?」
「え?こんな時に……」
「……私の事……知りたいんでしょ……」
カズミの顔が近づいてくる。どうやら指ではないようだ。ならば……鼻?
リョータの予想通りカズミの顔は鼻に向かってるようだった。しかし、彼女の唇が触れたのは鼻ではなく……
「……!!?(カズミ……)」
2人の唇はお互いに閉じたまま。そして触れあっている。
永遠に続きそうで、一瞬で終わりそうな時。実際はどちらでもないのに。
重なりが解かれたら、今度は恥ずかしくてまともに顔が見れなくなってしまった。
次の日は晴天になり、カズミも登校してきた。教室に入って2人の目が合うと口元が緩む。
席に着くと、チカはカズミの方を向いていつも通り、
「おはよう!」
そして、カズミも同じくいつものように、
「おはよう……」
その瞬間は、クラスの誰もが目を疑う瞬間だった。リョータ1人を除いては、初めて見る光景だった。
そこには女の子らしい明るい……カズミの笑顔が、そこにはあった。
おわり
最終更新:2008年02月21日 20:27