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バレンタイン 当日―後篇

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 携帯を、見て

 声を、聞いて

 振り返った

 その、先には――――


「あ、わい……ちゃん……」


 赤い斑点のついた真っ白な制服に身を包んだあの子が

 ゆらゆらときれいな金髪を揺らしたあの子が

 あはっ、と白い歯を見せる


「この前言ったじゃん、届けに行くって」

「私たち、恋人でしょ?」


 どういうこと、なのか

 京太郎くんには恋人なんていないはずだ

 どうして

 この子は、なにを……


「チョコ、いっぱい作っちゃったからさ、いっぱい食べてね」

「テルの部屋の中にあるから、来て」


 言われるがまま、ついていく

 るんるん、と楽しそうに歩いていく、それの後についていく

 視界は黒いフィルターを通しているかのように、暗く

 冬の晴れ空も淀んで見えた



「先、きょーたろーが入って」


 言われた通り、部屋に入る

 そして――――


「――――っ!?」


 一番最初に目についたのは、壁についた赤い飛沫の跡

 一番最初に鼻についたのは、かつて嫌というほどに嗅いだ臭い、悪臭、鉄の臭い――――血の臭い

 一番最初に耳についたのは、後ろのドアの鍵が閉まる音

 一番最初に肌についたのは、湿気、冬の外気とは正反対の、部屋の内気


「二人っきりだよ」

「みんな見てるけど」

「二人っきり」


 そう言ってあの子は、蛍光灯の紐を引いた

 青白い光は、部屋を満たしていく

 見ている、その意味がわからなかった


「だから」


 机の上にあった、ほんのりと赤いチョコを口に咥え

 うちの……彼の口へと


「んっ……」


 両手がほおを包む

 あの子が彼の口を侵す

 舌で蹂躙していく

 力が抜けていく

 呆然と立ち尽くして、あの子を受け入れるだけだった

 チョコはやがて溶けて無くなった

 口に残ったのは鉄の味と舌の感触だった


 鉄の……味……?


 ぺろり、と舌で唇を舐めて、淡々と、話し出す


「やっぱり……やっぱりおかしい」

「きょーたろー、どうしたの?」

「どうしてなにもしないの?」

「わたしはきょーたろがすき」

「きょーたろーはわたしがすき」


 違う


「なら、どうしてきょーたろーはなにもしてこないの?」

「なんで、あわい、ってよんでくれないの?」

「なんですみれせんぱいからちょこなんてもらったの?」

「なんでてるからちょこなんてもらったの?」

「なんでうたからちょこなんてもらったの?」

「なんでいくのからちょこなんてもらったの?」

「なんでかすみからちょこなんてもらったの?」

「なんでえいすりんからちょこなんてもらったの?」

「なんでりゅーかからちょこなんてもらったの?」

「なんでときからちょこなんてもらったの?」

「なんでいずみからちょこなんてもらったの?」

「なんでゆーこからちょこなんてもらったの?」

「なんでさきとももがいたの?」


「なんでけいといっしょにいたの?」


「わたしだけなにもできなかったのに」

「みんなきょーたろーにべたべたしちゃってさ」

「そんなのずっこいよ」

「きょーたろーはわたしのこいびとなのに」


 違う


「そんなのいやだよ!」


 京太郎くんに彼女なんていーひんかった

 そう言ってた

 京太郎くんはただ、鈍感なだけの女たらし

 せやろ?


「だからさ、わたしもちょこつくったんだ」

「どうやってちょこつくるのかしってる?」


「ゆせんっていうのして」


「ちゃんとひやして」


「あ、そのまえに――――」








「細かく、刻まないと」








 あはっ、と笑って

 あの子は彼を見た

 光のない、虚ろな目で

 そして部屋の奥へ歩いていった


「きざんだざいりょうあまっちゃってさ」


 あの子は、押し入れを開けた


 すると、一つの塊が中から出てきた


 ごろごろ、と


 それが何であるかを認識するのは容易かった


―――なぜなら、それは



 首


 首から上


 笑ったまま終わった顔


 うちが

                 /:/:: : : : : : : : : :/: : : : : : : : /: : : : : : : :\: : : : :\
              / : /: : : : : : /: ://: : :/: : : : :./:| : : : : : : |: : :゚: : : : : : :.
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     __彡: : : : : : : : :/ : : : :| 〃〃   ′           |: :/Χ : : : : : :| :|
    `ー------=彡ク: : : : : |     _      〃〃   |/´ ̄`∨: : : : :∨
           / : : : : :.人     |   ̄`ヽ.           /: : : : :l: : \
          /: : : : : :/ / \          /       、__彡イ: : : : : :ト、: : :.\
         /_:_:_:_::彡   //l: : :\   `ー‐        _. .:≦: :|: : :.从 : : : 八  --- `
               l/ : : : :./`ト . _   _  -‐   |:_:_:_:/|: : /  \: : : :\
                    八: :./  |:.∧ Τ        {_ノ∧ l/     ` : : : \
                 ∨  j/ /´ |   __ -‐                 ̄ ̄
                      __/ /lノr‐


――――一生で最も多く見た顔だったから



「おえっ」



 理解できなかった


 なぜ、そんなものが目の前にあるのか


 なぜ、それがあるのか


 なぜ、それしかないのか


 言葉がでてこない


 何も考えられない



「まだいっぱいあるよ」


 わからない


「ねえ、どうしたの?」


 わからない


「さっきからずっとだまって」


 わからない


「どうしてなにもいってくれないの?」


 わからない


「ねえ」


 わからない


「ねえ」


 わからない


「ねえ」


 わからない


「ねえ」


 わからない


「ねえ」


 わからない


「ねえ」


 わからない


「ねえ」

 
 わからない


「……誰だよ、お前」


 わからない


「きょーたろーは私のことが大好きって言ってくれるんだよ?」


 しらない


「私の作ったものをおいしいって言ってくれるんだよ?」


 しらない


「誰だよお前」


 わからない


「きょーたろーを返してよ」


 どこにいるのかも


「きょーたろーを返せよ」


 なにをしているのかも


「返せよ」


 なにも


「返せっつてんだろ!」


 なにも、しらない




 どうして

 どうしてうちは彼の体にいるんや

 どうして

 どうしてうちがくるしむんや





「ああいいよ」

「おまえがそのつもりなら」

「もういいよ」


 どうして――――


 目の前で包丁が振り上げられる


 そして、そのまま―――



「死ねよ」





・ ・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・

・ ・ ・

・ ・

・

・



ヴーッ ヴーッ

 バイブ音、おもちゃのじゃなくて携帯の方の

 メールが届いたらしい
 

「はっ!」


 飛び起きる

 着ている服は汗でびっしょりと濡れていた

 嫌な夢だった
 
 みんなが殺されて、最後にうちが殺される

 夢で良かった、と思う

 そういえば、と、届いたメールを確認しようと手を伸ばす

 ……あれ?

 どうして、携帯の機種が違う?

 どうして、着ている服が違う?

 携帯を開けると、届いたメールが表示された



11件

菫『き』

照『よ』

咏『う』

郁乃『た』

霞『ろ』

エイスリン『う』

竜華『う』

怜『し』

泉『ろ』

由子『み』

憩『て』



「あーーーっ!?」



「あはっ」






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最終更新:2013年10月13日 16:47