second operations...転校生“坂本千紘”
朝会が終わり本来ならみんな1限目の授業の準備を始めるはずだが、今日はいつもと違い
転校生の周りに集まっていた。無論、内藤もその中にいた。しかし、そんな状態を良く思
わないものがいた。紅二点の一人友保であった。
「なによ!あんな女のドコがいいっての!?私のほうがだ・ん・ぜ・ん可愛いでしょ!?
たくっ、男はこれだから・・・」
「・・・はたしてそうかな?僕は坂本さんの方が好みだけど・・・」
そう呟いたのが、クラスでもあまり目だ立たないが運動神経抜群の`細谷政史`であった。
彼の父は、日本軍の基地での研究チームのリーダーでありかなりの金持ちであった。
そんな彼だが、性格が悪くあまりよくなくクラスでも浮いている感じであった。
「はあ?ムカつくわね!!ぶっ飛ばされたいの!?」
と怒鳴り声をあげ、クラスをあとにした。その声に反応したのか、みんな我に
戻り?授業の準備を始めた。そんななか、内藤はまだ転校生の近くに
留まっていた。勿論授業の準備が遅れて、先生にゲロ怒られたが。
そんな彼をみんなは声を殺す事もなく笑っていた。
third operations...暗黒の予兆
呆然に進む時間は早々と過ぎてゆくもので、今日も既に夕暮れ時を迎えていた。
6時限目が終了し、帰宅の時間となってみなが早足で教室から駆け出していく中、内藤は彼女が教室から出るのを待ち伏せするかのように背中を教室の出口の死角にある壁に貼り付け廊下で佇んでいた。
彼女というのはもちろん転校生の坂本のことで、美人薄命というものだろうか?内藤の少ない脳に追尾機能を備えたレイダーがあるとしたらそれはもう彼女を捕らえてしまっていた。
教室の中で坂本の足音と思われる物音を見計らい、それが教室に出口に近づいた一瞬を内藤は逃さなかった。弾みをつけて踏み込み、ターンを決めると同時に出口に歩み寄る人の二の腕を掴み、引きずりこもうとする。
が、予想以上に抵抗する力は強く、掴んだ二の腕は振り上げられ逆に内藤が吊り上げられた状態となってしまった。冷や汗をたらしながら内藤は恐る恐る彼女の顔を確かめた。
「うあああああああああぁああああああ!!!!!」
内藤の瞳に映ったのは坂本ではなく、`細谷政史`その人であった。
「なんだよ・・・俺の顔に何かついてんのか?」
- その日、結局内藤と細谷は二人で帰路に着き、結局内藤は坂本に絡むことはなかった。
しかし、内藤は決して忘れることはなかった。綺麗に照らされていた夕暮れの教室で見た対照的で周りの風景とは何かが矛盾していた不気味なものを。
それはこの世の理にかなったものではなかった。それは暗黒だった。黄昏に満ちた世界に、暗黒がただ一点に存在していた。それが教室のどこにあったのかは、記憶から消えている。
内藤は感じた。それはこれから起こる何かの予兆かもしれない、と。・・・内藤はこの夜、眠ることは出来なかった。
force operations...哀と序曲
「……っ」
布団の中で寝苦しそうに唸りながら、寝返りを打つと、微かに開いたカーテンから射し込んだ月明かりにボンヤリと照らされた天井を眺める。
特に何があると言うわけではない――今日の出来事が頭の中をぐるぐると巡り、彼を混乱させていただけだ。
親父からの急な日本を離れる誘い――
変な時期に転校してきた坂本――
放課後に政史から感じた悪寒――
今日は色々な事がありすぎた。
そういえば、と表現すると少しおかしいかもしれないが、他にも不思議(?)な出来事があった。
それは放課後――政史と別れた後の事だった。
――――――――――――――
血のように…そう表現したとしても、不自然ではない程の赤い夕日が辺りを照らす。
そんな赤い町並みを何処か間の抜けた顔で眺めながら、内藤は帰路についていた。
隣には期せずして共に帰ることとなった、政史が並んでいる。
正直、内藤は政史が好きでは無かった。
お陰で――いや、その程度の事でこう成るとは思えないのだが……酷く気分が優れなかった。
優れないを通り越して吐き気さえ覚える。
「あ、内藤…俺の家、こっちなんだけど、少し寄っていかないか?」
Y字路に差し掛かった辺りで政史が不意に声を掛けてきた。
元来内藤は政史が好きでは無い……むしろ嫌いなのだが、政史の家がこの辺りでも有数の大地主だと言うことで、家がかなり豪華なのだ。
一度行ってみたいと言う人が少なくないのは、学校内では有名な話である。
手を口元に当てて唸りながら、悩んでいる様子の内藤。
長考の据え、内藤の脳が『じゃ、お邪魔させて貰おうかな?』と結論を出した、その瞬間の事だった。
内藤の視界の端にある人物が移った。
政史が帰る道の反対側の坂の下、そこを歩いている坂本千紘その人の姿だ。
「サカチ~~~ッ!!!!」
内藤はたまらず絶叫する。“サカチー”今日、学校で決まった彼女のあだ名だった。
命名主は、数学教師の中郷。
彼女曰く、坂本さんが二人居ると呼ぶとき困るでしょ?との事、因みにもう一人の坂本は内藤の家の大家の娘だったりする。
内藤の大声にかなり離れた場所にいた坂本も、反応しにっこりと微笑むとその場に留まった。
待っていてくれる。と言う返事だろう。
「細谷!やっぱり遠慮するわ!また今度な!!」
内藤は半ばそう言い終わらない内にチャリを走らせ、坂を下って行ってしまう。
「坂本?何処にいるって言うんだ?」
細谷はしばし、それを首を傾げながら、眺めていたが最後に『まさかな』と呟き帰路に付いた。
「いやぁ、逢えてよかったよ。一応、放課後君の事待ってたんだぜ?」
一方こちらは内藤。
あの後、80㎞/秒の速度で坂本の隣へチャリを走らせたのにも関わらず、息1つ乱さずにカッコ良く(少なくとも本人はそう思っている)決めるのは流石だと言うべきか、阿呆と言うべきか……
しかし…坂本は内藤に言葉を一向に返そうとしない、それだけでは無い。
内藤から顔を背けているようにも感じる。
「どうしたの?」
その様子に、何か気に障ることをしてしまったのだろうか。と、流石に不安になったのか内藤が坂本の顔を覗き込むようにして尋ねる。
「シッ!」
唇に指を当てて、強く、短く告げる。
その表情は内藤を諭すような物だ。
内藤はそれを見て、やっと理解した。
顔を背けていたように見えたのは耳をすましていたから、耳をすまして、何かを聞こうとしているのに、他人と会話に興ずる者はいないことなどは、言うまでも無かった。
「‥‥」
内藤も真似をして耳をすまして見るが、街から離れたこの田んぼ道のど真ん中で、何の音も聞こえて来ない。
あえて聞こえるものを挙げるとしたら、この道を駆け抜ける風の音で有ろうか。
内藤が、坂本の方を見ると、彼女はまだ集中して何かに耳を傾けている。
暫くして、坂本は目を伏せると、ゆっくりと唇を動かし始めた。
「始まりの音…翼軋む戦いの音……地を揺らす哀しき猛禽達の慟哭――そして、死地へと赴く兵士達へのレクイエム……或いは――――」
「え――?」
坂本の囁くような……いや、悲しい歌を歌っているようなその言葉に、内藤の口をついて出たのは情けない、言葉にもならない声だった。
「彼等は死にに行く――お国の為、そう口々に言って……たった一人残された者の哀しみを、心が抉られるような痛みを知らないから――
そして、残された者達もそれを大手を振って送り出す……“あの人だけは”そう心の中で思っているから――
一番辛くて、痛くて、心が引き裂けそうになってしまうのは……死ぬほど後悔するのは自分だと言うのに――
別れは……残された者が弱ければ弱いほど。
想いが強ければ強い程……辛いのに………
それは経験しなければ、誰も解らないから―――」
坂本がここまで言った時には、内藤にも坂本の言っている“音”が聞こえていた。
重低音の効いた、獣の咆哮にも似たその音――山の向こう側にある基地から海上の空母へと向かう、零戦。
それの編隊が、凄まじい風を引き連れて内藤達の頭上を低空で飛び去る。
内藤はその風に、一瞬、腕で目を隠した。
零戦が通過し、内藤が目を隠した腕を除けた時、既に彼の目の前に坂本の姿は無かった。
「あれ?さ、サカチー?おかしいな……」
ここは丁度一本道周囲は開けていて、見渡しが効く……内藤が目を覆った二、三秒の隙に、内藤の目の前から消えるなど不可能であった。
「あれ?あれ?……不味いな、サカチー恋しさに白昼夢でも見てしまってたか?」
――――――――――――――
そんな今日1日の出来事が頭をぐるぐると回っている内に内藤の意識は眠りに堕ちていた。
fifth operations...偶然・・・?
「やっべー遅刻する!!」
今自転車を時速60キロで走っているのは勿論内藤である。彼は、昨日起きた不思議な出来事のことを夜遅くまで考えていたので今遅刻しそうになっている。
すると、前方を歩いている一人の女性に気がついた。常人ではそれが誰だか理解するのは不可能。しかし彼はそれが誰か理解してしまった。そう坂本千紘である。
昨日と全く同じシュチュエーションに少し違和感を感じながら、彼は彼女に話しかけた。
「おはよう。早くしないと遅刻するぞ。(まあおれもそうだが・・・)」
「それなら、今日も乗せて行ってよ。」
上目使いで目をうるうるさせながら、頼んでくる。普通なら乗せてあげたいのだが、今日もあの「魔の坂」を上りきってない状態なのだ。このままでは昨日と同じで
死にかけてしまう。しかし、坂本のうるうる攻撃は続く。
「お願い。のせてよ~」
この一言で内藤の脳は瞬殺されてしまった。もう彼の頭に魔の坂のことは綺麗さっぱり忘れている。今彼の中にあるのは
“坂本のあのなみだ目”
その事だけだった。
ギリギリ学校には間に合ったが、彼はもう虫の息であった。
そんな彼に堀越が近づいていく
「よう、内藤。今日は一段と老けているな。つーか臭いな。」
「・・・。」
彼はその場に倒れこんだ。そこへ担任である浅野が入ってくる。
「おい、邪魔だ退け。」
そういうと内藤にけりをいれ、教壇に立った。
そして何事も無かったかの様に授業が開始された。
彼が目覚めたのはそれから、1時間後であった。
最終更新:2008年01月11日 23:44