アットウィキロゴ
『平河』
これは彼のある冬休みの話。
「3学期に入る前に散髪するか。このままじゃ変だからな」
部活が終わってから半年が過ぎた。スポーツをしなくなった彼は髪を気にしなくなっていたのだ。
部活をやっていたときは汗をかくから、練習の邪魔になるからと2ヶ月に一回は通っていたバーバーハセガワ。今日久々に行くことになる。
知っての通りバーバーハセガワは牛久市にある。
自転車で行くには十分な距離だ。
長くなった髪をたなびかせ、自転車をこぎ始めた。

1時間48分後
「・・・着いた」
平河はバーバーハセガワの店内へと足を踏み入れた。
チャリンチャリン・・・
「いらっしゃいませ」
店員が声をかける。
待つ必要・・・?それはない。平河は用意周到な男だ。無論、席を予約してある。
「平川様、こちらです」
橋本が声をかける。この男はこの店の№2だ。もちろん№1は店長のハセガワであるが彼にはすでに先客がいた。
このことに平河は納得がいかなかったが仕方なく№2で予約を入れたようだ。
「久しぶりのご来店ですね。今日はどのようにしますか?」
「・・・いつものだ」
平河はいつも店長の予約が取れないときは橋本に散髪をしてもらっていた。彼らの面識は深い。

橋本の華麗なハサミ捌きが仕事をすすめていく。
男二人は散髪中は一言も喋らない。それがバーバーハセガワの掟だ。
「・・・どうですか?」
橋本は平河に鏡で後ろ髪を確認させた。
「ふむ、ハセガワには及ばないが、いい仕事をしたな。」
「・・・ありがとうございます」
さすがはプロである。平河の前髪は見事にボリュームアップしていた。
「帰りが遅くなる。顔は遠慮しておく」
「かしこまりました」
平河は席をたち、カウンターへ向かった。
「いくらだ?」
「4800円です」
「安い」
平河は乱暴かつ、華麗に千円冊4枚と500円玉1枚、100円玉3枚を差し出した。
「ところで、一つ聞いていいか?」
「はい」
これから平河が質問することはバーバーハセガワを来店した者なら必ず気になる事である。
「今日、店長は誰に手をかけている?」
「ああ、彼です。聞いたところではあなたの同級生らしいですよ」
彼はバーバーハセガワに一つだけある特等席を指差した。
そこには一人の男が座っていた。

平河は黙ったままその男に近寄った。
「・・・お前も、ここの常連だったとはな」
ハセガワに手をかけてもらえると言うことは、この店で常連ということを示す。
「お前もか」
彼の前髪は見事にボリュームアップされていた。
さすがはハセガワだと、平河は見とれていた。
「もう散髪は終わったようだな」
平河が彼に確認をした。
「ああ、帰りは一緒にどうだ?」
彼は平河に言葉を返した。
「いいだろう」
二人はバーバーハセガワの出口へ向かった。
チャリンチャリン・・・
「またのお越しを・・・」

男が二人、またバーバーハセガワを後とした。
木枯らしが吹く道を二人は歩むのであった。
最終更新:2008年01月12日 01:03