暗黒都市ライゼンバッハ
ここはディパン帝国・・・
移住都市ライゼンバッハ入り口付近・・・
そこの門には02魔団数百人と団長の佐藤が構えている。
そしてそこに移民をつれた馬車がやってきた。
02魔団兵士「止まれ・・・。どの部隊の者だ?」
漆黒の鎧に身を包んだ兵士が、馬車を先導している兵士に声をかける。
馬車を先導していた兵士は、第11騎士団だと名乗った。その兵士と漆黒の鎧を着た兵士の間で、通過儀礼・・・いや二、三の報告と情報交換が成されてゆく。
その時、言葉を交わしていた11騎士団の兵士の背後から、突如二メートルはあるであろう大柄の色黒男が現れた。
???「団長はどこだ・・・?」
低く野太い声でそう尋ねた色黒の男に、漆黒の鎧を着た兵士は怖気ずくでもなく淡々と言葉を返した。
その様子に11騎士団の兵士は舌を巻いていた・・・いくら自らの隊の団長だとは言え、その圧巻の巨体を前に自らはここまで淡々と答え返せまいと思ったからだ。
02魔団兵士「・・・11騎士団隊長様でございますか・・・団長はあちらでございます。」
違う部隊同士がここで交錯しあう。
今、移民の受け渡しが行われようとしていた。
佐藤「あら、ご苦労様ジェラくん。ここからはユイがやるわ。」
ライゼンバッハの中からふらりと芯の細い印象を受ける女性が現れ、先ほどの色黒の巨漢―――ジェラに声をかける。
その様子にジェラは幾分かの悪寒のような物を感じながらも淡々と返事を返した。
ジェラ「ローリンソン、セラウェイ、スマタウン、この3つの村からの移民約、1200名だ。」
佐藤「大量大量。じゃあこの先はあなたたちは通行禁止だからじゃあね。」
佐藤は、そう言うと後ろ手に手を振りながら、ライゼンバッハの中へと戻ってゆく。
ジェラ「ああ。」
その時、佐藤は何かに気づいたように振り返った。
佐藤「あ、そういえば十二騎士団全員に召集がかかったそうよ。謁見の間に行ったほうがよろしいんじゃない?」
ジェラ「・・・そうか。お前も急がなければな・・・。」
佐藤「ええ。この移民をライゼンバッハに入れたら私も向かうわ。」
そう言って事務連絡を終えると佐藤は再びライゼンバッハの門を開けるためのやや大がかりな装置へと手をかける。
ジェラはその作業を見届けるでもなく振り返り、ライゼンバッハを背に兵士達に声をかける。
ジェラ「皆の者、任務は完了した!それぞれは兵舎に戻れ!」
その一声で兵士達は他愛もない雑談をしながら、ここから近くにある11騎士団の兵舎へ向かっていく。
それをある程度見届けるとジェラは、隣に用意させていた馬に、その巨体からは想像できないほど、ひらりと身軽に飛び乗り西の方角にある城に馬を走らせる。
佐藤「さて・・・さぁあなたたち、この門をくぐりなさい。」
ウイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
何かの駆動音んか・・・表現しがたい奇妙な音とともに、横縦10mほどの大門が開いてゆく。
その先には何も見えない。
移民1「な、・・・なぜ先が見えないんですか?」
その門の先に広がっていた真黒な面に移民団の一人が恐怖に物おじながらも、恐る恐ると言った表情で佐藤に尋ねた。
それに対し、佐藤はくすくすと憫笑や嘲笑とも取れる笑い声を残すと、その体躯に似合った―――が、普段とは明らかに違う優しい声で語りかけた。
佐藤「これはね・・・外部からは見えないように私の力が働いているのよ・・・。さぁ入りなさい・・・。」
言われるがままに数百人もの人々は門をくぐっていく。ここまで来たのだ・・・すでにそれ以外の選択肢は移民たちにとってはなかったのであろう。
しかし、選択権が既に自己の手にないとはいえ、中には暗闇に見える門ゆえか入るのをためらうものもいた。
移民2「あのぉ・・・本当にいいところなんですかね・・・。移民都市って・・・。」
佐藤「ええ。もちろんよ・・・。この先は差別もなにもない世界・・・。理想郷よ・・・。夢の世界・・・」
佐藤の甘い声が響いた―――周りは洞窟などではない・・・壁に囲まれた密室でもない・・・
しかし、確かにその声は辺りに響いたのだ。その声は移民たちの頭の中で反響し、さらに響き渡り、通常の思考力を失わせてゆく・・・
そして促された残りの移民たちは虚ろな目をしながらも、ついに足を踏み入れた・・・いや、踏み入れさせられた。
ウイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
開門する時同様、不思議な音をたてて門が閉まる。
佐藤「あはははは・・・・。これで皇帝陛下様もお喜びになる・・・。闇人形もこれで6万匹を越したわね・・・。」
佐藤「さぁて・・・私も少し狩ろうかしら・・・?」
ウイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
佐藤の姿は少しの闇につつまれ、闇が晴れた瞬間には消えていた。
これは明らかに小川の空間移動とは別質であった。
そして・・・門の中では・・・何かが起こっていた。
しかしそのころ、この先に何が待ち構えているのかも知らず、フレイスブルグの移民たちも帝国への道・・・いや、闇への道を進んでいた・・・。
支配された街で・・・
場面は変わり、再びフレンスブルグ郊外・・・
吉田「ほらあそこに見える街だ!」
森を抜け、目の前に広がる平原と海原・・・
その中で一際威厳を放っている、城壁で囲まれた都市を指さし吉田が歓喜の声を上げる。
しかし、その街の様子に朝日出は訝しげな顔で首を捻る。
朝日出「・・・様子がおかしくないか?」
町は朝だというのに静まり返り、人の気配が全く感じられないのだ。
まるで死んでいるかのように静まり返った町・・・そこには、吉田が父とともに来た頃の活気あふれた街の面影は残っていなかった。
吉田「おかしいな?こないだ父さんと来たときは、もっとにぎやかだと思ったのに・・・」
朝日出に指摘され、その異変にようやく気がついた吉田。
一度気がつけば、その街の様子は、吉田にでもはっきりとわかるほどに不自然だった。
第一、日の上り具合から考えれば午前六時まわったところ・・・普段ならば、この時間にはフレンスブルグの大聖堂から美しい鐘の音色が聞こえてくるはずである・・・
朝日出「・・・おい、門から出てくるあれは・・・」
朝日出が自らも目を凝らしながら、大門から出てくる馬にまたがった三人の将兵を指さす。
吉田「え?」
吉田が門から出ると、そこから三騎の馬が走り去っていった。
吉田の驚異的な視力は、その馬にまたがっている男の姿を完全にとらえていた。
黒い軍服を着た、隻眼の男
あいつだ、吉田の両親を討ったあの男。
こんなところで早くも会えるとは・・・
吉田の心は喜びと純粋な殺意に支配されていた。
吉田「あのヤロッ!!」
飛び出そうとする吉田、しかし、朝日出がこれを止めに入る。
朝日出「待てっ!!あの男の強さは計り知れない・・・今でてっても返り討ちに合うだけだぞ?」
朝日出は吉田の肩をつかみ、強引に引き戻す。
その反動で吉田は思わず尻もちをついてしまう・・・
吉田「だけどっ!!!」
二人の感情は大局的だった。
あくまで冷静に対処する朝日出。
怒りに身を任せ、両親の敵を取ろうとする吉田。
どちらの意見が正しいかは、言うまでもなかった。
そして、その答えは激情に身を任せている吉田にも分かることであった・・・
朝日出「落ち着くんだ!もし今出て行って、お前が殺されたら、誰がお前の父親と母親の敵を取るっていうんだ!!」
吉田「・・・」
朝日出の説得により、吉田は平常心を取り戻していった。
吉田「・・・わかった・・・犬死にはごめんだ・・・」
吉田は俯き、両親が殺された時でさえ流さなかった悔し涙を朝日出に悟られぬように流しながら、言葉を切った。
朝日出「しかし・・・どうやらあの街も帝国の支配下に置かれたようだな・・・」
静まり返り、人のいない街、鳴らない鐘、城門へと続く馬の蹄鉄の後・・・走り去った兵士たち。
そのことを推理する材料は十二分すぎるほどにあった。
吉田「とりあえずいってみようぜ?幹部みたいな三人はあっちのほうに行っちまったんだ。そこまで危険っていうわけじゃないだろう・・・」
朝日出「・・・まぁ、情報を手に入れないことには始まらないからな・・・」
楽天的な意見を述べる吉田だったが、吉田と自らの力を考えれば、何かあっても最悪逃げられないことはないだろう・・・
それに、情報を手に入れてみなければ何も始まらない・・・それは事実だった。
総合的に考え、とりあえずは行くことに利あり。判断した朝日出は、一先ず吉田の意見に賛成することにした。
数分後・・・
2人はフレンスブルグの門の位置まで来ていた。
城門の位置には一人の兵士が立っていた・・・吉田と朝日出は警戒しながらも、その人物に近づいて行く・・・
兵士1「!!」
兵士1「朝日出様!?なぜこのような土地に?」
一人の兵士が吉田たちの方角を向き、驚いたような表情で見つめ、慌てて朝日出の元に駆け寄り、深深と頭をさげ、言葉を取り繕った。
吉田「朝日出様っておま・・・むぐっつ!!」
このときとっさに吉田の口を押さえた朝日出の判断は正しかった。
もっとも、それは町を出る時に自分が帝国騎士団の幹部だったのではないか?
という疑問をかすかながらに抱いていたおかげだったのだが・・・
もし、このとき吉田に「朝日出様ってお前いったい何者なんだ?記憶がなかったんじゃ」などと言われていたら、朝日出たちの“情報を得る”と言う目的は礫壊していたであろう。
兵士「・・・?どうかなさったのですか?」
朝日出「いや・・・何でもない・・・少し特命を受けて、任務の遂行中だっただけだ・・・ああっと・・・あれだ、その特命にこのガキが関与しているんだが・・・詳しいことはな・・・」
朝日出の行動がよくわからないといった表情で、質問してきた兵士を上から抑えるようにして丸めこむ。
一種の賭けだった、何も分からない朝日出にとっては、自分の記憶喪失がばれないことを願った。
もし、自分の応対におかしなところがあれば、一大事になりかねない。
兵士「そうでしたか・・・それより、上より達せられた命令はご存知ですか?」
どうやら、この程度のやり取りでばれると心配していたのは朝日出の杞憂だったようだ。
最も、兵士は今一しっくりと来ないと言った顔で居たが、朝日出にとっては十二騎士団という、一兵士から離れ過ぎた・・・雲の上の階級が味方をしていた用だった。
朝日出「いや・・・特に新しい指令はないが。上から何か聞いているか?」
あくまで威厳をもった、凛とした態度で・・・朝日出はそう自分に言い聞かせながら兵士に接する。
吉田はまだ朝日出に小脇に抱えられたままモゴモゴ言っていたが、朝日出の腕に抑え込まれている事と、さすがに状況が読めてきたのか、先刻に比べれば、だいぶ大人しくなっていた。
兵士「そうですか・・・どうやら十二騎士団の全隊長に集合の命が下ったそうですが・・・」
心の中で朝日出は勝ち誇っていた。どうやら賭けはおれの勝ちらしいと・・・
朝日出「ああ・・・わかったすぐに帝国へ向かう。ずいぶんと遅れてしまっているようだ。このあたりの地図をくれないか?近道でもわかるとありがたいのだが・・・」
兵士「あっ・・・はい私が持っているものでよければ・・・」
兵士はそういうと、自分の荷物をあさり始めた。
吉田は既にもがこうとはしていないが、口は相変わらずふさがれたままだ。
兵士「あっありました。これをどうぞ。」
兵士はそういうと、朝日出に地図を手渡した。
朝日出「ああ、ありがとう。早速出発することにしよう。」
兵士「あっ、待ってください!!」
振り返り出発しようとする朝日出を呼び止める兵士、朝日出は不自然に思われたのかもしれないと、冷や汗をかいていた。
しかし、兵士がそのあとに続けた言葉は、その心配が取り越し苦労であったことの証明ともなった。
兵士「馬をお貸ししましょう。なにしろディパンまではかなり今日があるますから・・・」
朝日出「ああ、すまないな。」
朝日出は安心しながら礼を言い、馬を受け取ると馬を走らせた。
ディパンへと・・・
集結
ディパン正門・・・
ここに三人の男がいた。
フレンスブルグから数時間まえに出発した、十二騎士団団長2人と、その参謀がひとりである。
ちなみに、フレンスブルグよりほぼ同時期に出発した、移民たちは、行程の半分ほど馬を走らせた段階で、すでに追い越してきていた。
萩野谷「・・・予定よりも早く着いたな。」
堀越「ええ・・・門番!!十二騎士団第12師団団長堀越だ!到着した!門を開けてくれ!!萩野谷さんも一緒だ!」
堀越が、城壁に向かって叫ぶ。
この門は、内側からでないと開けられない仕組みになっており、誰が入る時もこのように内側にいる門番に開けてもらわなければならない。
ギギギギギギギギギギギギギギ・・・・
城門の向こう側からの返事の代わりに鈍い音を立てながら門が開く。
萩野谷「よし、宮殿へ向かうぞ!!」
堀越「あ、ちょっと待ってください。」
堀越が、乗馬したまま颯爽と門をくぐり、メインストリートを北上、一路皇宮へと向かおうとする萩野谷を背後から呼び止める。
萩野谷「なんだ!?」
堀越「ちょっと野暮用がありますんで、先行っててもらってもいいですかね?」
おどけた調子で言う堀越に萩野谷は仕方ないといった表情で返す。
萩野谷「何んだ?仕方ないな・・・まあもう全員そろっているというわけじゃないし、いいだろう。早めに済ませてこいよ?」
堀越「わかってますよ。じゃあちょっと行ってきます。」
堀越はそう言うと帝国の東側へと馬を走らせた。
萩野谷は12師団の参謀を連れて、宮殿へと向かう。
萩野谷が宮殿に到着するころ、十二師団が集結しつつあった。
現在、宮殿十二師団控え室には、萩野谷を含めて五人の団長が集まっていた。
第01騎士団団長、小川。
第03歩兵師団団長、中郷
第04師団団長、萩野谷
第06師団団長、シゲタ
第11師団団長、ジェラ
これに加え、現在ライゼンバッハより、佐藤が向かっている。
さらに、フレンスブルグから、馬を走らせている朝日出、吉田・・・
或いは・・・・彼らは皆が皆、帝国が持つ陰謀に引き寄せられた者たちだッたのかもしれない・・・
闇と陰謀、信と疑
サンマイト平原、ここは、ディパンの一歩手前・・・
そこにディパンへと向けて移動する一団があった。
帝国兵士「もうすぐディパンにつくぞ!」
新蔵「・・・もうすぐディパンか・・・(話がうますぎる気がするのは俺だけか?・・・いやな予感がする・・・)」
期待は裏切られるためにあり、嫌な予感は当たるためにある・・・
得てしてそのようなものらしい。
このときの新蔵の嫌な予感は見事的中することになる。
このとき、誰にも気づかれていなかったが、近くの草むらに二人の影があった。
吉田と目立つ黒い服を近くの山小屋に住んでいた木の良い老夫婦からもらった服に着替えた朝日出・・・
朝日出「・・・この行列・・・ディパンの捕虜、と考えるのがベストだな。となると、あの中に混ざれば、うまくディパンに潜り込めるかもな・・・」
吉田「ああ、しかしディパンに乗り込めるのはいいが、これからどうするつもりだ?」
吉田は、帝国兵士たちが率いている一団から、注意を反らさずに、自らの隣にいる朝日出に問うた。
朝日出「何が?」
吉田「だって、お前、あいつらの仲間だったんだろう?」
怪訝な顔つきで質問する吉田、最悪のケース・・・朝日出の記憶喪失が演技の可能性まで吉田は考えていた。
しかし、朝日出は逆に意外そうな顔を吉田に向けた。
もっとも、それも最初だけ、あとはやや自嘲気味に笑うと、帝国へと向かっている一団に注意を戻す。
朝日出「ふっ・・・ああ、そうらしいな、だが・・・今じゃそんなことはどうでもいい。お前についていくだけだ。」
この時の朝日出の言葉は半分が嘘だ。
この時の朝日出にとって重要だったのは吉田についてゆく、というよりは、真実を知ることだった。
だがしかし、真実を知るという意味では吉田も同じ目的を持っている。
つまり、吉田についてゆきたい、というのも完全な嘘ではなかった。
吉田「・・・そうか・・・」
朝日出「ああ・・・ちょうどこの横を通り抜けるタイミングで列の中に入るぞ・・・」
吉田「・・・わかった。」
朝日出の言葉に、吉田は大きく頷く。
チャンスは一度きり、移民団が小高い山の裾野に広がる森林帯ギリギリを通過するその一瞬。
そのすきに、移民団に紛れ込もうと言うのだ。
朝日出「一・・・二の・・・三!今だ!!」
移民団の一団が横を通り過ぎる次の瞬間・・・
移民団のメンバーが2人増えたことに気づくものはいなかった。
一方、ライゼンバッハ正門前・・・
堀越は、ここの手前で馬を下り、建物の陰に身を潜めていた。
堀越「(さあて・・・ここまでは、ばれないで接近できた・・・どうやら俺が感じた謎の波動の発信源はここか・・・いや・・・ここのほかにも・・・しかし、どうやってこのなかを探る?)」
ライゼンバッハの大門が見えるその、細い路地の隅に立つその建物の蔭から顔を僅かに覗かせ、様子を窺う堀越。
流石は元盗賊、その仕草は酷く手慣れた物であった。
相手が一介の兵士ならば――いや、例えベテランの兵士で有れど、この堀越の様子に気がつくものは居ないであろう。
???「何をしているのですか?」
堀越「!!!」
堀越の背後から突然声が掛けられる。
何者の気配も感じられなかった背後から突如として掛けられたその声に、堀越はゆっくりと振り返る。
人の気配を感知するのは人一倍得意だった堀越だ、その出来事に半ば、自分の“耳”の方を疑っていた。
堀越「誰だ!?」
普段の軽い様子からは想像もできない低く冷たい声。
フレンスブルグで、新蔵という男を前にして発した声と同じ口調の物だった。
ただ、今回の相手は物怖じするでもなく、暗闇の中からその姿を露にした。
???「私ですよ・・・」
堀越「お前は02魔団の参謀か・・・脅かすなよ・・・」
その男は佐藤率いる第02魔団参謀だった。
しかし、なぜいきなり暗闇の中から現れたのか・・・
参謀「・・・第12師団の団長であるあなた様が、なぜこのようなところへ?」
参謀の表情はマントの陰となりうかがい知ることは出来ないが、その口調には“すべて知られているぞ?”と言う脅しを含んでいるのは明らかだった。
その様子に堀越は頭を抱える。
―――まさか、この段階で疑いが――――いや、目的がバレるとは・・・と。
堀越「いやぁ・・・この中に何がどうなっているのか気になってね・・・」
堀越はライゼンバッハの城壁を指さしながら言う。
このとき堀越は、参謀のマントで包まれた手が、何かを掴んだのを僅かな布の動きを視界の隅でとらえ、見切っていた。
参謀「・・・そうですか。この中は差別や上下関係のない、争いも起きない、そんな、理想郷になっております。」
取り繕った笑みをマントの奥に浮かべそう語る参謀。
堀越「じゃあ、何で俺達が入れないんだ?」
参謀の取り繕われた答えに、堀越は間髪入れず、用意していた質問を重ねた。
その質問に、参謀は答えを――いや、良い嘘を思いつかないのか、どもりながらたどたどしく口を動かす。
参謀「そっ・・・・・・それは・・・この街の住民の中には、あなた方を快く思っていない輩がいるからです。襲われたら、シャレになりませんからね・・・」
堀越「そうか・・・じゃあ陛下に呼ばれてるんでな・・・」
争いのない、そう言った言葉に矛盾していたのだが、堀越はこの時、あえてそのことを見逃した、それはこの後に参謀がとるであろう行動が予測できたからだ。
堀越が振り向いたのを見はからうと、参謀は後ろ手に握りしめていたナイフを、堀越目がけて投げつける。
参謀「ここに疑問を持った時点で、いかに十二師団団長だろうが、消される以外に道はない!!」
ヒュン!!
ナイフが風を切り、一直線に堀越に向かって飛ぶ。
しかし、そのナイフが目標を捕らえることはなかった。
堀越は宙を舞い常人には見えないほどの速度で参謀の後ろに回ると、その鋭い鉄爪を参謀ののど元に押し付ける。
切れた皮膚から血が滴っていきピチャという音とともに石の上で弾けている・・・
堀越「さあて・・・教えてもらおうか?あの中が一体どうなっているのかを・・・なにがアルカディア―――理想郷だ・・・中から感じる波動が普通じゃないことに気づかれなとでも思ったか?」
参謀は震えながらも体を闇に包もうとする・・・が
次の瞬間、闇が発生しないということに気づく。
参謀「なっ!?バカな・・・」
堀越「無駄だ、貴様のそのおかしな術は封じさせてもらった。もともと、その技は黒い”気”を使うんだろう?気ならいくら種類が違えど、その倍以上の大きさの気を使えば封じられる。」
予想外の出来事が、こう連続で起こったせいか、のど元の冷たい感触から逃れる事が出来ない恐怖からか、参謀の額からは冷や汗が吹き出している。
参謀「な、なぜ貴様のような者が・・・12師団と言えば強さは最下位のはず・・・なのに・・・」
参謀は目を白黒させる、かなり驚いているようだ。
堀越「そんなことはどうでもいい。おれの質問に答える気があるのかないのか?」
鉄爪がさらに強く押し付けられる。
プチと言う小さな音と共に、鉄爪がさらに深く参謀ののど元に食い込み、血が滴る音の感覚が短くなる。
参謀「まままま・・・待ってくれ!!答える!答えるから!!」
堀越「ふっ・・・よし。で?あの中はどうなっているんだ?」
堀越が冷たい笑みを浮かべながら、参謀の拘束を僅かに緩くする。
と同時に鉄爪の食い込みが緩くなり、参謀はわずかに落ちつきを取り戻した。
そして、恐る恐ると言った様子で口を開く・・・
参謀「あの中に入ったものは闇にのまれる。そして、闇使いによって、完全に作り上げられた、優秀な兵士・・・闇人形になる。」
堀越「闇人形だと?」
思わず、さらに深く食い込んだ鉄爪に軽い悲鳴のような物を上げつつ、早口で捲くし立て、この状況から早く逃れようと必死な参謀。
参謀「ひっ・・・ああ、闇を使用でき、闇使いの命令には絶対服従の優秀な兵士だ!!もういいだろう!?はなしてくれ!!」
震えながら答える参謀には最初に会った時の、冷静さはみじんも残っていなかった。
もはや、必死の形相に、吹き出る冷や汗、別人のようだ。
堀越「ああ、答えてくれてありがとう・・・じゃ!!」
次の瞬間、人気のない路地裏に、水をぶちまけたような軽快な音が空しく響いた。
堀越の鉄爪が参謀ののど仏を切り裂いたのだ。
吹き出る鮮血・・・その血がスプレーのように建物の壁を赤く染める。
参謀「がっ・・・」
参謀は糸の切れた操り人形のようにその場に倒れこんだ。
もう息はない・・・
足元に参謀の血が水たまりさながらに広がっていき、その血が堀越の靴を汚すが、堀越は気にしている様子は無い。
堀越「(闇・・・か。まさか魔界のネクロマンサーが一枚噛んでいるのか?糞っ――最悪、魔界に出向くしか無い・・・か。)」
最終更新:2008年02月03日 23:18