【12月26日 昼】
内藤は駅に着いて、電車が来るのを待っていました。
内藤「早く電車来ないかお?」
そう思っていたら、すぐに電車はやってきました。
内藤「お・・・いっぱい人が乗ってるお・・・・」
やってきた電車には、たくさんの人が乗っていました。
内藤「でも、どうせこの後くる電車も満員だお・・・苦しいけど乗るお・・・」
内藤は通勤ラッシュほどではないが、少し窮屈な車両に体をねじ込めました。
内藤「・・・すみませんお・・・乗りますお・・・・」
プシュー・・・・パタン・・・
内藤「・・・」(たった二駅だお・・・我慢するお・・・・)
内藤を乗せた電車は、ゆっくりと走り出しました。
・・・・電車が走り去ったホームに一人・・・電車を見送る影がありました。
しぃ「・・・・」
しぃもその時内藤と同じ電車を待っていましたが、満員の電車をみて、乗るのを
見送りました。・・・サトリにとって、やはり満員電車というのは辛い空間です・・
しぃ「・・・・はぁ・・・」
しぃはため息をつくと、ホームから改札口まで戻っていきました。
しぃ「・・・たった二駅だし・・・歩いていこ・・・」
大学に行くためにしぃは電車で通っていますが、いつも人が少ない時間・・
始発に近い電車で通学していたので、休みの日まで満員電車に乗ろうとは思いませんでした。
しぃ「・・・あ・・・また雪・・・降りそう・・・」
しぃ「・・・いやだな・・・洗濯物濡れちゃうかな・・・・」
もう今日は家に帰ろうかとしぃは思いましたが、なぜか今日は・・・
春葉原に行けば、何かあると思ったので、洗濯物の心配をしつつ、しぃは
ゆっくりと歩き始めました。
ガタンゴトン・・・
ガタンゴトン・・・
赤い電車に揺られながら、内藤は春葉原に向かっていました。
内藤「・・お・・まだかお・・・・くるしいお・・・」
アナウンス【えー次は春葉原ー春葉原ー】
内藤「やっとついたお・・・」
たった二駅でも、狭い所が苦手な内藤にとって満員電車は苦痛以外の
何でもありませんでした。
内藤「あ・・おりますおー!・・・」
春葉原に着いた内藤は、まっすぐ本屋さんに向かわずに・・ゲーム屋さんに
行きました。
内藤「何かおもしろそうなのはででないかお?・・」
???「・・・あれ?内藤じゃないか!」
内藤「お!?誰だお?」
後ろから話しかけられた内藤が振り向くとそこには・・・・
荒巻「久しぶり!!なにしてんの?」
内藤「荒巻・・・荒巻じゃないかお!!!!」
荒巻「久しぶり!!げんきだったか!?」
内藤「久しぶりだお!!元気だったお!」
荒巻は内藤と男の小学生時代の友人です。丁度中学生に上がるころ、
親の都合で転校してしまいそれ以来の再会に内藤は驚きを隠せません。
内藤「元気だったかお!?いつこっちに帰ってきたんだお!?」
荒巻「ああ。ちょうど昨日帰ってきたんだ!・・変わってないなーお前!」
内藤「荒巻も全然変ってないお・・・ホントにびっくりしたお・・・」
荒巻「男は?あいつは今日いっしょじゃねーのか?」
内藤「うん・・・今日は一人で買い物にきたお・・・」
荒巻「あーそっかあ・・あ!そうだ!明日なんか予定ある?」
内藤「?いや?とくにないお?」
荒巻「じゃあさ!男も呼んで三人で久しぶりに遊ぼうぜ!!」
内藤「賛成だお!!男には僕から連絡しておくお!」
荒巻「おー!よろしく!じゃあ・・・」
荒巻はポケットに入っていた紙に、自分の電話番号を書いて内藤に渡した。
荒巻「これ俺の番号だから!また後で電話してよ!」
内藤「わかったお!」
荒巻パパ「おーい!」
荒巻「あ!やっべぇ!じゃあまた明日な!」
内藤「わかったお!」
荒巻はそう言うと親と駅に消えていきました・・・・
内藤「・・・・びっくりしたお・・・まさか荒巻に会うとはおもわなかったお・・・」
内藤は荒巻と分かれた後、少し昔のことを思い出しました。
内藤、男、荒巻の三人は幼稚園から一緒の仲のよい三人でした。
男と荒巻はいっつもちょっとしたことで喧嘩をして、それを内藤が
止めるというのが彼ら三人の日常でした。
男と荒巻は喧嘩ばっかリしていましたが、決して仲が悪いわけではなく
内藤が止めてくれるのを知っていたので、いつもそんなに殴り合いになるような
こともありませんでした。それに、内藤はこう見えてもおじいちゃんから
空手をならっていたので、結局三人の中では内藤が一番のリーダー格でもありました。
そう・・・今の内藤の弱気な態度からは想像もつかないような・・・
内藤「荒巻・・・ほんとうに変わってなかったお・・・それに比べて・・・僕は・・・・」
内藤も、表にこそ出さなかったけど、自分が以前のような性格ではないことに気がついていました。
でも・・・・それは悪いことではありません。人はそうやって成長していきます。
しかし、内藤のそれは・・・成長ではなく・・・・・
内藤「!!!うお!もうこんな時間だお!!はやくいかないと売り切れるお!」
内藤は本屋さんに向けて走り出しました。
【12月26日 昼②】
しぃは春葉原に向かって、ゆっくりと歩いていました。
しぃ「・・・この街も・・・かわったなぁ・・・」
いつもなら、電車から見ているだけの風景を歩いているうちに、しぃは
自分が生まれ育った街が少しずつですが変わっていくのにちょっとだけ
悲しい気持ちになりながらも、懐かしい思い出に浸りながらゆっくりと
歩いてゆきました。
しぃ「あ・・・ここは・・」
そこには小さなパン屋さんがありました。
しぃ「うわぁ・・・まだあったんだここ・・・」
ほかほかの温度とともに伝わってくる出来立てのパンの香りと
ともに、しぃは昔のことを思い出していました。
しぃ「ここ・・・よくお母さんときてたなぁ・・・」
懐かしい思い出とともに、しぃは少し小腹が空いているのに
気づき、そのパン屋さんのドアをくぐってみることにしました。
カラン・・・
妹「いらっしゃいませー!」
そこには、男の妹がバイトとして働いていました。
しかし、妹としぃにはなんの接点もなかったので、お客さんと店員さん
としての会話が始まりました。
しぃ「・・・・あ・・」
木造の古い小屋をそのままお店にしていたので、ここだけなんだか違う
街のような雰囲気をかもしだしていました。
お店の中にはパンだけではなく、木で作られたおもちゃや、陶芸品のようなもの
まで棚に並んでいて、その一つ一つがしぃを・・・やさしく迎えてくれました。
しぃ「うわぁ・・・ホントになんにも変わってない・・・」
妹「?」
しぃ「あ・・・ごめんね店員さん・・・」
妹「?お客さんうちのお店のことしってるんですか?」
しぃ「あ・・ううん・・昔によくお母さんと来ていたから・・・」
しぃは店員さんに昔は来ていたと言うのは失礼かと思いましたが、妹はそんなこと気にしていませんでした。
妹「そうですかぁー・・きれいなお店でしょ?」
しぃ「ええ・・・そうね・・・とっても落ち着くわね・・・」
妹「私もこのお店に始めて来た時から気に入ってて、それでためしにアルバイト
できないかなぁって思って店長に話してみたら、快く雇ってくれたんですー。」
しぃ「あらそう・・・ふふ・・・」
妹「?」
しぃは、こっちから聞いてもいないのに自分のことをしゃべりだす妹を見て
なんだかおかしくなりました。
接客業としての妹の態度はだめなのかもしれませんが、しぃも妹もなんだか
他人ではないような気がしていて・・会話に花が咲いてゆきました。
妹「うちのお店・・小さいしあんまり目立たない所にあるんでお客さんは少ないんですけど、
一度来てくれたお客さんはみんなもう一度来てくれるんですよー。」
しぃ「ええ・・・わかるわ・・・私も・・・」
妹「それにここの制服とってもかわいいでしょ?」
妹はしぃによく見えるようにカウンター越しに手を広げ、一回転して見せた。
しぃ「あらあら・・・ほんとうね・・よく似合っているわ・・・」
妹「えへへ・・・」
妹は少し恥ずかしそうに笑いました。今の妹の姿を見ると、男もびっくり
するでしょう・・・いろんな意味で・・・・
妹「さぁてお仕事お仕事・・・なにかほしいものありますか?」
しぃ「ん・・・・そうね・・・」
ショーケースに並べられたいろんな形をしたパンを見ながら、しぃは
小さな子供のように目を輝かせて、ほしいパンを探しました・・・・
しぃ「うーん・・・本当に昔からおいてあるものは変わらないのね?・・・」
妹「うちの店長はそれがこの店の売りだって言ってました!」
しぃ「くすくす・・・あいかわらずね・・・」
しぃはいつの間にか、昔の思い出を全て思い出していました。
ここの太った女店長や・・・自分が好きだったパンや・・お母さんが好きだったパンも・・・
妹「わたしのおすすめはですねーこれです!」
しぃ「あ・・・」
妹の指差したそれは、コーヒー味のクリームを小さなコッペパンで挟んだパンでした。
しぃ「・・・これ・・・」
しぃはそのパンを見ると、思わず声を失ってしまいました。
それは・・しぃのお母さんが一番好きだったパン・・・・まだ小さかった
しぃには少し苦かった菓子パンでした・・・・
妹「これはですねーちょっと苦くてあまーいクリームが挟まれているんですけど、
それがとっても癖になる味で・・・じゅる・・・・はっ!いけないいけない・・・」
しぃ「・・・私のお母さんも・・・大好きだった・・・・」
妹「うちのバカ兄貴にも一度買って帰って食わしたんですけど・・・
甘いのに苦いなんてわけわかんねーとか言って全然食べなかったんですよー
男の人にはわかんないのかなー・・・ってお客さんにこんなこといったって
わかんないですよね・・・・」
しぃ「ううん・・・」
妹「へ?」
私のお父さんも・・・苦手だったな・・・このパン・・・・
妹がそのパンをしぃにすすめたのはまったくの偶然でしたが、しぃにとっては
ほかのどのパンよりも一番思い出がつまったパンでした。
しぃ「・・じゃあこれもらえますか?店員さん?」
妹「あ!はい!ありがとうございまーす!」
しぃはそのパンとパックの牛乳を買いました。
店長「おや?お客さんかい?」
店の奥から店長が出てきました。
店長「あら!あんた!」
しぃ「!どうしました?」
店長「まあー・・こんなに大きくなって!お母さんは元気!?」
店長はなんとしぃのことを覚えていました。
店長「しばらく見ないと思ったらこんなに美人になって・・・お母さんはいっしょ
じゃないの?」
しぃ「あ・・・・その・・・・」
店長「?」
しぃ「・・・」
しぃは、お母さんがもうこの世にはいないことを言おうかどうか迷っていました。
自分の姿をみて喜んでいる人に、わざわざ悲しくなることを言っていいのか分からなかったのです・・・
しぃ「・・・あの・・・」
店長「?」
妹「てんちょー!パン焦げてるぅー!!!」
店長「あ!!しまった!!!」
店長はいそいで店の奥に消えてゆきました。
しぃ「あ・・・」
妹「ごめんなさいねー?うちの店長話始めるとほかの事忘れちゃうから・・・」
しぃ「・・・ううん・・・」
しぃはなんだか安心しながらも・・・悲しい気持ちになりました。
しぃの心の中ではまだどこかで・・・お母さんの死を信じれていないような
気がして・・・
しぃ「・・・」(・・・・なにいってんのよ・・・もう私は・・・)
妹「?お客さん?」
しぃ「!!な、なんですか?」
妹「なんだか顔色悪いみたいですけど・・・大丈夫?」
しぃ「あら・・ごめんなさい・・・・大丈夫よ・・・」
妹「?」
しぃはみせの時計に目をやると、もう2時になっているのに気づきました。
しぃ「あら・・・もうこんな時間・・・じゃあもう失礼するわね?」
妹「あ!ありがとうございましたぁー!」
しぃ「うふふ・・・こちらこそありがとうね・・・可愛い店員さん・・・」
妹「ふぇ!!そ、そんなほめたってなんにもでませんよ!?」
しぃ「くすくす・・・」
カラン・・・・
しぃ「あ・・・・雪・・・降ってきちゃった・・・」
外にでると雪が降っていました。しぃは洗濯もののことはあきらめ、また
春葉原に向かって歩き始めました。
しぃ「・・・ん・・おいしぃ・・・・」
お母さんの好きだったコーヒー味のパンを食べながら・・・・歩いてゆきました・・・・
妹「・・・・・えへへ・・可愛いって言われた・・・えへへ・・・」
妹はそう言うと、店内にあるおおきな鏡の前で、自分の姿を映しながらくるくる
回っていました。
カラン・・・・
妹「あ!いらっしゃいませー!」
今日一番の笑顔で妹は次のお客さんを迎えました。
男「・・・・・・」
妹「!!!!!!!!!!」
サトリ「あ!・・・妹さんだ!かわいいー制服だねー!」
男「・・・・・妹よ・・・」
妹「!!!!!あ!!!!が・・・」
男「・・・テラ萌」
ビシュゥゥゥ!!
男「ぎゃあああああ!!!!ミ、ミルクフランスがああああ!!!!目がああ!!」
サトリ「!!!男君!!??」
店長「!!!お客さん!!???」
妹「こ の ク ソ あ に きーーーー!!!!」
男「ぎゃあああああああああ!!!!」
お店の中には、男の悲鳴がこだましました・・・・・