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パン屋を出てから、私は予想よりもはやく目的地に着いた。
そのまま、まっすぐ本屋をめざして歩いてゆく。
きょうはなんだか人の影が多い・・・・クリスマスの後なんだし、
そんなに賑わってないと思ったら大間違いだった・・・・

通行人A「・・・」
    (ハアハア・・・早く家に帰ってフィギュア飾りてえ・・・うへへ)
通行人B「・・・ちっ・・」
    (んだよこいつ・・・気持ちわりい・・やっぱこの街おわってんな・・)
カップルA「おまえ今日何食いてーんだよ?」
     (ぜってえ・・・今日こそはヤってやる・・・)
カップルB「えー?あなたの食べたいものならなんでもいいよー?」
     (あせってんじゃねーよ・・・てめえはメシさえ食ったらポイすっから・・)

しぃ「・・・」
信号待ちをしているだけで、こんなに他人の心が入ってくる・・・
いつもなら・・・それは雑音程度にしか聞こえないのに、今日はやけに私の中に入ってくる。
やはり、今日は家にいたほうがよかったかもしれない・・・

青年「!おーい!しぃじゃねーか!」
しぃ「・・・!」

私は呼ばれた声に振り向いた。・・・・いや振り向いてしまった・・



青年「あれー?奇遇だなぁ!何してんの?」
しぃ「・・・買い物・・・」

彼は同じ大学に通う同期生だ・・私に好意的な態度をとってくれている珍しい一人・・

青年「へぇーそう?何買うの?」
  (よっしゃ・・・ここで好印象与えて・・ゲットしてやる・・げへへ・・)
しぃ「・・・・本・・・」
青年「ふーん・・どんなの?」
  (おいおい・・・相変わらずかてー女だな・・)

彼はあくまで、好意的な「態度」をとってくれるだけで、心の中では・・私に近づいてくる
他の男の人となんら変わりない・・・

青年「よかったら俺も付き合っていい?荷物持つからさ?」
  (どうだ・・・やさしいだろ?)
しぃ「・・・いい。悪いから。」
青年「いいっていいって!大丈夫だから!」
   (ちっ!つかめねー女だな・・・)
しぃ「いい。・・・迷惑です。」
青年「あ・・・そう?」
   (はい終りー・・・ったくまただよ・・・どんなに優しくしてもこれだからなこいつ・・・)

・・・別に彼が悪いのではない。私の態度がいけないのだ・・・しかし・・
人の心が読めるから・・・これ以上私が彼の思いに答えることはできない・・


青年「・・・じゃあ俺いくわ!きぃつけてな!」
  (けっ・・時間無駄につかっちまったよ・・ほかの女さがそ・・・)
しぃ「はい・・・さようなら・・・・」

しぃ「・・・・」

本当に私はいけない子だ・・・心が読めるってだけでこんなに態度を変えてしまう・・
本当に・・・・だめな女だ・・・サトリになにも言えないじゃないか・・・

前に私にも好きな人がいたこともあった。
その人には、残念ながら付き合っている女の人がいたが、別にこちらから好きになったって
悪いわけではないでしょう?あわよくば・・・その人が私のほうに振り向いてくれるかも知れないと
思っていた・・・・

でも、その人は・・・彼女とは別れず、私に接してくれた・・普通の女の人なら、
これをなんにも思わなかったのかもしれないが、私には・・・サトリである私には・・
苦痛以外の何でもなかった・・・・・

彼は頭の中で、私と体だけの関係でいたいと思っていた。思春期の男の子だし、
よくもてる人だったので、しょうがないかもしれない・・・でも・・・私はそれが
怖くって・・・それ以来、私に近づいてくる人の心には・・過剰に反応してしまう
ようになってしまった・・・

全部・・・全部私がいけないの・・・・

しぃはそう思いながら・・また本屋に向けて歩いてゆきました・・・




本屋を目指すしぃに、また話しかける男が現れました。

青年B「ねぇねぇおねーさん!なにしてんの?一人?」
青年C「よかったら俺らと遊ぼうよ?いいでしょ?」
しぃ「・・・・」

まただ・・・しかもこんどは全然しらない人・・・・こんな人達に絡まれるのが
嫌だからここの街を気に入っていたのに、最近はここもかわったものだ・・・

青年B「ねえねえおねーさーん?だまってないでなんかいってよー?」
   (へへ・・・なかなかかわいーじゃねーか・・・)
青年C「なんか飲み物奢るからさー?ちょっとだけ遊んでよー?」
   (きったねーオタクばっかかと思ったらなかなかいい女もいるじゃねーか・・)
しぃ「・・・急いでるんで・・」
そう言うとしぃは、二人の間を抜けようとした。
青年B「あ!ちょっと!」
青年はしぃの腕をつかんで引き止めた。
しぃ「さわらないで!」
青年BC「!!」
しぃは思わず声を荒げてしまった。
しぃ「あ・・・すいません・・・ホントに急いでるんで」
青年B「・・せぇな!」
ドン!
しぃ「きゃっ!」
青年はしぃの肩を押すと、無理やりしぃを路地裏に連れて行った。



しぃ「な、何するんですか!?」
青年B「うるせぇよ!いい気になってんじゃねーぞこのアマァ!」
青年は拳を握り、しぃに振りかざした。
しぃ「きゃぁっ!」
青年C「ちょっ!まずいって!」
青年B「っるせぇよ!止めんな!」
しぃ「いやぁ・・っ・・」
青年C「まずいって!お前また鑑別送られんぞ!」
青年B「っんけいねぇよ!離せゴラァ!」
ボゴ!
青年C「うぐっ!!」
青年二人はなぜか仲間割れをし、怒り狂っている青年は、しぃを押し倒しました。
しぃ「い、いやぁ!やめて!」
青年B「うるせぇんだよ!てめぇがいけねぇんだぞ!ちょっと顔の出来がいいからって
    お高くとまりやがって!」
しぃ「いやぁ!だ、だれかぁ!たすけ・・・んぐ!」
青年B「はははっ!・・・騒いだって無駄だよ!?どうせ誰か気づいたって、
    ここにいるやつなんかどいつもこいつも根性なしのインポ野朗ばっかりだ!
    それともなんだぁ!?あの電車男ってのでも助けてくれるってのかぁ?ああ!?」
しぃ「んぐっ!!ふ・・ふぁっ・・・」

しぃの目には大粒の涙が浮かんでいました。あの時自分が・・・心が読めるゆえの
苛立ちから起こしてしまった行動で、ここまで恐怖を味わうとは・・・
目からぼろぼろぼろぼろ涙が出てきます。



青年B「あははっ!こいつ泣いてやがるぜ!?まったく女ってのは襲っちまうと
    みんな同じリアクションしかできないのかぁ!?ああ!?」
青年C「う・・・ちょ・・ちょっと・・・マジでやばい・・・って・・」
しぃ「んー!ふぁ・・・!!」
青年B「さあああて!それじゃあちょっくらそのきれいな体でもみせてもらおうかなあああ!?」


内藤「なにしてるんだお!!!!」


もはやなされるがままかと思っていたしぃに思いがけない人の声が聞こえてきました。



内藤「その人は僕のともだちだお!その人から離れるお!!!」
青年B「んだぁ?お前?邪魔すんじゃねえ!!!」
ドゴン!!

青年の放った右ストレートは、正確に内藤の胸を射抜きました。

内藤「っつ!・・・やめるお!!」
青年B「!!?んだてめえ・・・なんで倒れ」
グルン!

その瞬間、青年はきれいな円を描いて地面に叩きつけられました。

青年B「ぐふっ!!!は、離しやがれ!!」
内藤「・・・・・」
内藤の力は、ますます強く青年を押さえつけました。

警官「何をやっている!やめんか!!」



とても都合よく、そこに三人の警察官が現れました。青年の片割れが
自分ではとめられないと思い、呼びに言っていたのです。

青年B「!!!ってめぇ!裏切りやがったな!!?」
青年C「っっるせぇよ!俺にもワンパン食らわしやがったくせに!」
青年B「んだとぉ!!!!??ぶっころして・・・・あだだだだだだっつ!!!」
内藤「友達にそんなこといっちゃだめだお!」
警官「話は署で聞こう!二人とも・・・いや・・・抑えられている青年だけ連行しろ!」

警官は青年を抑えている内藤の目をみると、彼は悪者ではないことに気づきました。
警官「ここはわれわれに任せて・・彼女のそばにいてあげなさい・・」
内藤「あ・・・・」



しぃ「うう・・・うああぁん・・・・」

しぃは路地の隅で小さく泣いていました。

内藤「しぃさん・・・大丈夫かお?けがはな」
がばっ!
内藤「!!!」
しぃ「うああぁぁぁん!!!!」
内藤「・・し、しぃさん・・・・」

しぃは内藤に抱きつくと、いつもの冷静なしぃからは想像もできないような
大声で泣き出しました。

しぃ「ふぁぁぁん!!こ、怖かったよぅ・・・うあぁぁん・・・・」
内藤「・・・もう大丈夫だお・・・もうあいつらはいないお・・・」
しぃ「う・・・ぐすん・・ぐすん・・・」
ぎゅ・・・
内藤「う・・・・/////」

内藤は、はじめてお母さん以外の女の人に抱きつかれ、恥ずかしいような
懐かしいような・・・不思議な感覚に襲われていました・・・

内藤「・・・おちついたかお?」
しぃ「ぐすん・・・うん・・・・はっ!」
ばっ!
しぃ「あ・・ご、ごめんなさい・・わ、私ったら・・」
内藤「大丈夫だお・・・それだけしぃさんは辛い思いをしたんだお・・・」
しぃ「・・・内藤君・・・・」



あまり外交的ではないしぃと内藤の二人は、このあとどうしたらいいのか分からず
短い沈黙が訪れました・・・・

内藤「・・・・」
しぃ「・・・・」
内藤「・・・さてと・・・それじゃあ僕は本屋さんにいくお・・・しぃさんは一人で帰れるかお?」
しぃ「あ・・・う・・うん・・・もう大丈夫です・・・」
内藤「それじゃあ・・気をつけて帰るお・・・・」

しぃ「・・・まって!!」

内藤「!!・・・どうしたお・・・」

しぃ「・・・一人にしちゃ・・・やだ・・・・」
内藤「!!!!??」
しぃ「!!!」

しぃは、何故自分がそんなセリフを口にしたのか分からないけど・・・先ほどの
恐怖のせいだろうと自分に言い聞かせ・・・内藤にこう告げました・・・

しぃ「私も・・・一緒に連れて行って・・・・」
内藤「・・・・お・・・う、うん・・・」

このとき・・・すでに二人の間には、目には見えない何かが確実に生まれていました。
二人ともそんなことには気づきもしなかったのですが・・・




【12月26日 昼③】

内藤の後ろをしぃが・・・
近いんだか遠いんだかわからない微妙な感覚をあけて
ついてゆきます。
傍から見れば、二人は他人に見えるかもしれませんが、しぃは確実に
内藤の後姿を見つめながら、内藤は後ろからのしぃの視線を感じながら
二人は本屋を目指します。

しぃ「・・・・」(本当に・・・怖かった・・・)
私はあの時・・・もうなにもかもが嫌になって、すぐにでも死にたいぐらいの
感覚に襲われていた。あそこで内藤君が来てくれなかったら、私はどうなっていたかもわからない・・・
あの時・・・無意識のうちに内藤君に抱きついて・・・とっても怖くって恥ずかしかったけど・・・
なんだか暖かかった・・・あのまま私は・・彼の胸に沈んで行きたかった・・・

内藤君が・・・私を置いて行こうとした時、なぜ自分が内藤君と別れるのが嫌だったのかわかった・・
私は・・あの温もりから離れるのが嫌だった・・・まだ彼に抱きしめていてほしかった・・・でも・・

今・・・これ以上・・・彼に近づいて・・・彼の心を見ることはできない・・・

しぃと内藤のこの微妙な距離は、しぃが心を見ることができないギリギリの間隔なのです。
少しでも近づいてしまうと、内藤の心が見えてしまう・・・
今の今まで、心による痛みを受けていたしぃにとって、この距離はなによりも遠く
何よりも信頼できる距離なのです。



内藤「・・・・」
チラッ・・・
内藤「・・・」(大丈夫お・・・ちゃんとついてきているお・・・)

内藤は少し歩いては後ろを振り向き、しぃがちゃんとついて来てくれているかを確認します。

内藤「・・・やっぱり・・・まだ怖がっているお?・・・」
内藤はしぃがサトリなんてことはもちろん知りませんから、この微妙な距離がしぃにとって
どれだけ重要な意味を持っているかがわかりません・・・
ただ、今しぃを守れるのは自分しかいないんだと、保護者にも似た責任感を持ちながら
しぃが自分を見失わないように、ゆっくりと本屋を目指します。
内藤「しぃさんに抱きつかれたとき・・・震えていたけど・・・とっても暖かかったお・・」
僕は初めて・・・女の人に抱きつかれた・・・たぶん・・いや、確実にそれが無意識の行動であることは
わかっていたけど・・・うれしかった・・僕が・・誰かに頼られているのを始めて実感した・・・

おそらくしぃさんは、さっきのこともあるから、まだ男である僕が怖いんだろう。でも、それでも
今しぃさんが頼れる人は僕しかいない・・・だから、僕はこの距離を、絶対に破ってはいけない。
僕は絶対にしぃさんから離れてはいけないんだ・・・

奇しくも、二人はお互いに同じことを考えていました。
お互いに、相手から離れてはいけないと・・・その何よりも近くて遠い距離を保ちながら、
二人は本屋に到着しました。



二人が着いた本屋は、この街で一番大きな五階建てのビルに
なっている所でした。
そこにつくと内藤は、しぃの方を振り向くと大きく手を振りながら大声で
こう言いました。

内藤「しぃさーん!僕は三階に居るから・・・何かあったらすぐに来てくれおー!」
しぃ「!!!」

内藤は自分の周りに人がいることも忘れて、とっても大きな声で言いました。

内藤「!!!!お・・・・!」
しぃ「・・・・くす・・・・ばか・・」

内藤は恥ずかしそうに三階の漫画売り場に消えてゆきました。

しぃ「・・・内藤君・・ありがとう・・・・」

もうしぃには、さっきのような恐怖は残っていませんでした。
あんなに怖い思いをしたのに・・不思議ととても心が落ち着いている・・・
内藤君が・・・居てくれたから・・・?・・・

そんなことを考えながら、しぃは二回の小説売り場に消えてゆきました。



しぃ「・・あ・・」
しぃが二階に着いたとき、其処はすでに、たくさんの人で埋め尽くされていました。

しぃ「・・・・」
 嫌だ・・・あんな人の渦の中に入りたくない・・・でも・・・ 
 私は・・内藤君にワガママを言ってまで・・一緒にここに連れてきてもらったんだし・・
 これは・・試練よね・・・大丈夫・・・もう・・・・怖くない・・・
自分の心にそう言い聞かせると、しぃは人だかりの中に消えてゆきました・・・

店員「○○の新刊本、在庫の方は十分に確保しておりまーす!こちらの列に一列にならんでくださーい!」
客A「・・・痛っ!誰よ足踏んだの!?」
  (っんとに・・・死ねよ!)
客B「・・・」
  (うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい・・・・)
客C「も・・・ちょっと!押さないでよ!」
  (なんだよどいつもこいつも・・・他の店行けよ・・・くそっ・・)
おじさん「おい店員なんとかしろよ!物売るってレベルじゃねーぞ!」



しぃ「・・・・・」
しぃの頭の中には、周りの人の心が次から次へと容赦なく飛び込んできます。
しぃは何度も列から逃げ出そうと思いましたが・・・それではせっかくここまで
連れて来てくれた内藤君に申し訳ない・・そう自分に言い聞かせながら、静かに
列に並んでいました。

10分後・・ようやくしぃもカウンターにたどり着けました。

店員「お待たせしました!どちらの御本をお求めですか?」
しぃ「・・あ・・」

しぃの欲しがっていた人の新刊は、二冊同時に売り出されていました。
とりあえずしぃは、二冊買っても読み切れそうにはなかったので内容が簡単そう
な方を選ぶ事にしました。

しぃ「じゃあ・・○

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最終更新:2006年12月23日 15:45