【 1 2 月 2 4 日 夜 ② 】
・・・もうどれだけ歩いただろう・・・
不思議と体に疲労感はないが・・ずいぶん長い間この雪野原を歩いている。
ぎゅ・・
ぎゅ・・
雪の上を歩く僕の足音が聞こえる。さっきまで星空だったはずの天井も・・朝のように明るい。
ぎゅ・・
ぎゅ・・
そして・・もう雪だって降っていないのに・・僕の足跡は二、三歩歩いただけで消えてしまう。
なんなんだここは・・・いったい・・僕らは何に巻き込まれたんだ?
しぃ「・・心配しないで?大丈夫。」
僕の腕の中で・・しぃが無邪気に笑っている。時折、僕の顔を撫でたり、キスを要求してくる・・
ほんとに・・見違えるほど・・しぃは甘えんぼになった・・
しぃ「・・だって・・」
内藤「・・・え?」
しぃ「・・二人きりだもん。いいじゃん・・甘えたって・・」
ぎゅう・・
内藤「・・うん・・そうだね・・何も・・恥ずかしがることないか・・」
しぃ「・・・それに・・」
内藤「・・ん・・」
しぃ「・・これが・・本当の私なんだ・・」
内藤「・・・本当の・・・・しぃ?」
しぃ「うん・・私・・本当は・・こうやって好きな人に思いっきり甘えたかった・・
いままでそんな人も現れなかったし・・いろいろあって・・
人に近づくことさえ拒否してたから・・・自分を見失ってた。
・・でも・・内藤君のおかげで・・やっと私を見つけれたの・・。」
内藤「・・ん・・そっか・・」
しぃ「・・だから・・せっかく二人っきりなんだし・・私の最初で最後の・・
大好きな恋人に・・甘えさして?」
内藤「・・最初で・・最後・・///////」
しぃ「あー・・照れてる・・あはは・・・」
ちゅ・・・
ああ・・本当に・・しぃと出会えてよかった・・僕も・・やっと人を愛する自身ができたよ・・
ぎゅ・・
ぎゅ・・
内藤「・・・しかし・・どれだけ歩いても・・・なんにも見えないね・・」
しぃ「・・・うん・・」
ぎゅ・・
ぎゅ・・
内藤「・・はは・・・もしかしたら・・本当に帰れないかもね?」
しぃ「・・いいよ・・・内藤君さえ・・居てくれれば・・・」
ぎゅう・・
内藤「・・うん・・・でも・・やっぱり皆がいないと・・」
しぃ「え・・・?」
内藤「・・僕としぃの・・二人っきりの時間なら・・これからいくらでも作れるんだよ?」
しぃ「////・・・うん・・」
内藤「・・それに・・僕らが居ないと悲しむ人がいっぱいいる。」
しぃ「・・・私のお父さん・・・サトリ・・・男君・・・」
内藤「僕のおじいちゃん・・先生・・荒巻・・・ね?」
しぃ「・・うん・・・そうだね・・皆寂しがりやだもんね・・」
内藤「うん・・・僕ら二人の世界は・・・これからゆっくり作っていこう・・ね。」
しぃ「・・ん・・・・大好き・・・」
ぎゅう・・・
しぃ「・・あれ?」
内藤「・・ん?」
しぃ「・・ほら・・」
しぃが指差した方向に・・・風景の中に・・「ドア」があった。
内藤「・・・なんだろう・・これ・・」
その「ドア」は、なんにもない風景の中にぽつんと立っていた。
しぃ「・・・?」
「ドア」の後ろに廻ってみる。同じだ。どっちから見ても・・・ただの「ドア」。
内藤「・・・・?」
押してみる。動かない。叩いてみる。なんの変化もない。これじゃ、ただのオブジェにしか見えない。
しぃ「・・・なんだろうね?」
内藤「・・・わからない・・・あ・・」
・・・思い出した・・・この「ドア」・・知ってる・・・
内藤「・・・ばーぼん・・・・はうす・・・」
内藤「・・・知ってる・・・覚えてる!!」
しぃ「・・?」
内藤「ばーぼんはうすだ!!この「ドア」・・・マスター!!」
ドンドン!!
ドンドン!!
しぃ「・・な・・内藤君?」
内藤「しぃ!!ココなんだ!!僕が君を・・・連れてきたかった所・・」
しぃ「・・・・え・・・・」
内藤「ココなんだよ!!僕も・・・もう見つけられないと思って・・諦めてた・・」
ドンドン!!
ドンドン!!
内藤「マスター!!僕だ!!開けてよ!!マスター!!」
ドンドン!!
ドンドン!!
しぃ「・・・内藤君?」
内藤「マスター!!居るんでしょ!!?開けて!!僕だよ!!」
しぃ「・・・」
内藤君が・・そこにあるだけの「ドア」に向かって・・精一杯叫んでいる。
開けてって言っても・・「ドア」しかないのだから・・・開くわけがない・・
内藤「・・くそっ!!なんでっ!!なんで開かないんだよ!!」
ギシ・・
ギュ・・・
しぃ「・・・内藤君・・」
内藤「何でだっ!!?ココは・・・愛し合う人なら誰だって入れるんじゃなかったのかっ!!」
ドン!!!!
しぃ「きゃっ!」
内藤「・・・・マスター・・・僕は・・・もう・・だめなのかい・・・マスター!!!」
しぃ「・・・愛し合う・・・あ・・そっか・・・」
内藤「・・・くそっ・・・ちくしょう・・・もう・・目の前にあるのに・・・」
ぎゅ・・
内藤「・・・しぃ・・・?」
しぃ「・・・ほら・・一人で・・・開けようとするから・・・」
しぃは・・ドアを何度も叩いて赤くなった内藤の手を握った。
しぃ「・・こんなになるまで・・・だめ・・・」
ぎゅ・・
内藤「・・・しぃ・・・」
しぃ「ほら・・・私も・・いっしょだから・・ね・・」
内藤「・・うん・・・」
内藤の・・・ポケットに入ってあったキーホルダーと・・
しぃの・・・右耳につけてあるピアスが・・・やさしく光った・・・
二人の手は・・・・ドアノブに重なった。
ガチャ・・・
キィ・・・
【 1 2 月 2 4 日 夜 ③ 】
ドアが開いた。
突然、私たちの目の前に・・・・暖かい部屋が現れた。
しぃ「・・・あれ・・・ここ・・・は?」
「ドア」を閉めると、そこは完全に別の空間になった・・・
どうやらここは、喫茶店のような・・・映画に出てきそうな綺麗なバーみたい・・
奥にある暖炉から暖かい空気が伝わってくる。そして・・カウンターに一人の初老の・・
内藤「マスター・・・」
マスター「・・・おかえりなさいませ・・・内藤様。」
内藤「・・マスター!!」
ダッ!
マスター「おっと!ほっほっほ・・どうしました?そんなに涙を流して・・」
内藤「マスター・・うっ・・・逢いたかった・・マスター・・」
マスター「・・ほっほ・・ほらほら・・・・・奥様が困ってますよ?」
マスターと言われているこの人は・・私を指差してそう言った。
どうやら・・・内藤君とは面識があるようだ。
内藤君ったら・・・子供みたいにマスターに泣きついてる・・むぅ・・・なんか嫉妬・・・
内藤「あ・・・ごめん・・」
マスター「ほっほっほ・・さあ・・・いつもの席へ・・・」
内藤「・・あ・・・うん・・」
しぃ「・・・?」
私たちは、店の一番奥の席に案内された。
内藤「・・・ぐす・・・ごめんね?しぃ・・」
しぃ「・・ううん・・・いいよ・・・・」
内藤「・・・・ここはね・・・僕とお母さんの・・思い出の場所なんだ。」
しぃ「内藤君の・・・お母さん?」
内藤「うん・・・昔、よく親子三人でココに来てたんだ。」
しぃ「へぇ・・」
内藤「・・・うちの両親離婚しててさ・・
それからしばらくはお母さんと二人でココに来てて・・」
しぃ「・・あ・・・」
内藤「・・・お母さんも居なくなってから・・・やっと・・・戻ってこれた・・・」
ぎゅう・・
しぃ「・・・内藤君・・」
テーブルの上の私の手を・・優しく握ってくれた。
内藤「しぃ・・君と出会えたから・・・
僕はココに帰って来れたんだ。・・ありがとう・・」
しぃ「・・やだ・・なんか恥ずかしいよぉ・・////」
マスター「ほっほっほ・・お二人とも・・外は寒かったでしょう・・」
マスターは私たちにあったかい紅茶を入れてくれた。
しぃ「・・ん・・あったかぁい・・・」
内藤「・・・・本当・・・昔と変わらない・・この紅茶・・」
マスター「いつ来店されても変わらない物を・・それがこの店のモットーですから・・」
内藤「うん・・ありがとうマスター。」
マスター「そういわれると私も嬉しいです。ほっほっほ・・」
しぃ「くすくす・・二人とも嬉しそう・・」
内藤「ねえマスター!僕いっぱい話したいことがあるんだ!!」
マスター「そうですか・・私も内藤様に久しぶりに会えて・・色々とお聞きしたいことがありますな・・」
内藤「あのね・・・」
内藤君とマスターは・・互いに嬉しそうに、思い出話や自慢話・・いろいろな話に花を咲かせている。
私は・・一人で置いていかれたみたい。・・・ちょっと寂しい気もするけど・・内藤君があんなに喜んでいるのを邪魔したくない。・・・・内藤君の嬉しそうな顔は・・私にもそれを分けてくれるから・・
・・ちょっとお手洗いいってこよっと・・
内藤「それでさ・・・」
マスター「・・ほっほっほ・・・」
僕とマスターは、なんでもない会話を楽しんでいた。時間なんか気にしないで・・ずっと。
内藤「でさ・・・あれ?・・しぃ?」
マスター「おや・・どうやらお手洗いに行かれたようですな・・」
内藤「あ・・・あー・・気付かなかった・・
マスターとずっと話してたらしぃのコト忘れちゃってた・・」
マスター「そんなことを言っては・・・奥様が悲しみますよ?」
内藤「!!お・・奥・・・うん///」
マスター「ホントに・・いい人を・・見つけた・・これも・・」
内藤「?」
マスター「・・いや・・・なんでもありません・・」
内藤「・・・?あ・・それより・・」
マスター「・・ご友人ですかな?」
内藤「うん!・・・ごめんね・・勝手にココを男達に教えたりして・・」
マスター「ほっほっほ・・・なにを言いますやら・・彼らは内藤様の立派な家族ではないですか・・」
内藤「あ・・うん・・」
マスター「それに・・「彼」はまだしも・・「彼女」は・・
初めから・・ココに来ることができますし・・」
内藤「?彼女?」
マスター「ああ・・いえ・・こちらの話ですよ・・」
内藤「???」
久しぶりに会ったのに・・マスターはなにも変わっていない。
マスターだけじゃない。ココは・・全てがあの頃のままだ・・・
全てが・・・お母さんと一緒に来た・・思いでのまま・・
マスター「・・・本当に・・綺麗な方でした。」
内藤「・・え・・?」
マスター「・・奥様が・・お亡くなりになられたのを聞いた時・・
私も本当に悲しかったんです。」
内藤「あ・・・」
マスター「・・人の命というのは・・・とても簡単に崩れ去る・・
「始まり」があるから「終わり」がある・・・それを・・
痛いほど実感しました。」
内藤「・・マスター・・」
マスター「・・しかし・・こんなに立派になった内藤様を見て・・私も・・
嬉しゅうございます・・」
内藤「・・うん・・・ありがとう・・・」
マスターも・・お母さんのコトを・・悲しんでくれたんだ・・
僕も・・本当に辛かった。一緒に死んでしまえばよかったとも思った。
学校も行きたくなくて、がんばって行っても・・そこには辛いコトしかなかった。
でも・・僕は男のおかげでそれを乗り越えた。
おじぃちゃんのおかげで・・体も強くなった。
荒巻や・・斉藤先生のおかげで・・・やっと自分を正面から見つめれた。
それに・・・しぃ・・
マスター「・・・「彼女」も・・・また・・」
内藤「マスター。」
マスター「・・・なんでしょう?」
内藤「僕・・・ずっと寂しくて・・ココに来れば・・お母さんが居るような気がして・・
ココの店を探していたんだ。一人・・・で。」
マスター「・・・・・」
内藤「・・・・でも・・・ココは・・一人では見つけれなかった。しぃが居てくれて・・
初めてココに来れたんだ。僕・・・もう寂しくないんだ・・
しぃが・・・居てくれるから・・」
マスター「・・・うん・・・そうですね・・・」
内藤「だから・・・あれ?なんでこんなことマスターに言うんだろ?」
マスター「・・?」
内藤「・・・だから・・・お母さんに逢ったら・・言ってほしい・・僕は・・もう大丈夫だって・・」
マスター「・・・お断りします。」
内藤「・・え?」
内藤「・・・あ・・うん・・そうだよね・・何を言っているんだろうね・・僕・・」
マスター「・・・それは・・・あなたが・・・自分で言わなければいけません。」
内藤「うん・・・って・・・え?」
マスター「・・あいにく・・・今日はクリスマスだ・・」
内藤「?・・今日は28日・・」
マスター「・・・さて・・私からの・・あなた方への・・
最初で最後のクリスマスプレゼント・・
「彼女」には伝える度胸を、「彼」には受け止める想いを・・」
内藤「マスター?なにを・・・」
マスター「・・「君達」には・・最後の思い出を。」
内藤「え・・・・・・・?」