大会に臨む心構え



緊張対策

まず、大会で緊張するのは当たり前だ。GSLプレイヤーですらInNoVationのようにKRGM1位を取り続けながらも緊張しやすいから本番に弱いと明言している選手もいるし、選手が映されるのをよく観察してみるとベテランでも何度も胸に手を当てて深呼吸をしている人がいたりする。プロでもそうなのだから緊張するのはごく自然なことであって、緊張しないようにしようと考えたり、緊張する自分はダメなやつだと考えたりする必要はない。せいぜい深呼吸や体操を繰り返して少しでも緊張がやわらげばそれで御の字だ。
大事なのは緊張しないことではなく緊張しても大丈夫なようにしておくことである。緊張しても問題がないとわかっているからこそ逆に緊張しなくなる。緊張していても最低限これくらいのプレイはできるとか、いきなり最高速で操作しようとするとミスをするけどまず序盤を丁寧にゆっくり操作すればだんだん入り込めてきて大丈夫だとか、自分なりのセーフティーラインを理解しておくのも良い。
緊張しやすいとか緊張しにくいというような、自分自身の属性を気にしすぎるのはよくない。準備万端で自信を持って望めばただでさえ強いうえに緊張しづらいし、準備不足で不安があればただでさえ弱いうえに緊張しやすい、そんなものだ。
医者に不安障害だとでも診断されたならわかるが、失敗経験を重ねた結果の自己イメージや素人から貼られたレッテルには爪の先ほどの意味もない。


準備の方法


1つ言えるのは、その場で頭を使わず事前に頭を使えということ。本番中の人間などおよそ冷静ではない。いかに冷静であっても、普段の練習ほどに冷静なことはまずない。
だから本番で思いついたアドリブなんかやらなくていい。上手くプレイするのは普段の自分の仕事であって、本番での自分の仕事は普段のプレイをしっかりと思い出すことなのだ。
理想的なのは普段色々なことを考えぬいておくことで、本番で何が起きても何をすればいいかわかっている状態にすることである。つまりこのゲームの達人になっておくということである。しかしこれは準備が難しすぎるのでトッププレイヤーにしか出来ないだろう。より簡単な方法として「何をされたら何をするかを一応決めておく」ことが推奨される。
「この状況になったら、自分の対応が本当に正しいのかはわからないけど、自分はそれしか知らないので自分の知っている方法を完璧できるようにしておく」という割り切りだ。
あるいはもっとひどくて、「こういう状況への正しい対応はまったくわからないので、この状況になったら諦めます」という割り切りでもかまわない。
投げやりにも見えるが、それでもこういう状況になったらどうしようと悩んで普段のプレイができないよりはよほど良い。何も完璧である必要はなく、10%の相手を切り捨てたとしても90%の相手にベストを尽くせるようになるのなら勝率は上がるのである。
それにそもそも、何も知らないことがないような完璧なプレイヤーであったとしても、割り切りは絶対に必要になる。どれほどの安定オーダーを取ろうが、どんなオーダーにも必ず不利になるオーダーやカウンターオーダーは存在するので1ゲーム中に何もかもを考慮にいれたプレイは出来ないからだ。

覚えこませよう

そして肝心な自分のプレイをいかに仕上げるかということだが、まず大事なのは体に覚え込ませることである。
次に何をいつ建てるかが自然と頭に浮かんでこないような完全に覚えこんでいないオーダーは実戦投入するには頭への負荷がかかりすぎる。
中盤以降のサプライブロックも発生するたびにオーダー全体が15秒20秒と遅れサプライが10、20と削られてしまうのでオーダー練度は非常に重要である。
相手が何をやってくるかもわからないのに、自分のオーダーまでアウェイでは話にならない。
ところで体に覚え込ませるとはいったが、頭を使うなという意味ではない。
なぜこうプレイするのか、なぜこうマイクロするのか、という理路はあらかじめ考えに考え抜いておく必要がある。
完全に手の感覚だけでプレイしていると、操作の意味がゲシュタルト崩壊を起こしたかのように訳がわからなくなって噛み合わないプレイをし始める危険があるからだ。
相手との間合いがどのような時にこのマイクロを行う、相手のどのユニットと自分のどのユニットの間合いがこうなった時にこのマイクロを行う、というマイクロ操作の分岐条件にはことさら敏感になっておいて良い。
相手のどのユニットを意識しながらマイクロを行うかなど、普段感覚でやっていることを言語化、理論化しておく。これは本番での保険にもなるし、普段の練習で自分のプレイの検討にも役立つ。
オーダーに関しても建物追加タイミングは時間タイマーだけではなくサプライ数・資源がいくつ溜まったタイミング・特定のユニットを何体作ったタイミングなど複数のトリガーを覚えておけば忘れにくくなる。


連想せよ

もう1つは、次に何をすればいいか思い出せるようにいろんな方向からゲームを捉えて知識同士を有機的に結び合わせておくことである。
「何分に偵察する」というだけであればちょっと緊張していれば忘れるかもしれないが、どういう時にその偵察をしなければいけないか、その偵察をしないと何に対して即死したり不利になってしまうのか、
その偵察タイミングやハラスはどういうオーダーと組み合わせると効果を発揮するのか。どういうオーダーであれば不要なのか。それはなぜ。思い出すためのトリガーが多ければ多いほどど忘れは減る。
普段何となくやっていることを言語化しておくことが有効である。


大事なことは勝つことではない

勝つことよりもベストを尽くせることのほうが大切である。いや、ベストという言葉は大げさかもしれない。大会でベストを尽くすとはいつもどおりのプレイをすることにほかならないからだ。
大切なのは勝つことよりもいつもどおりのプレイをすることである。
君に実力があるなら勝ち負けに関係なくいつものプレイさえ出来れば人の印象に残り、名前を覚えてもらえる。
そしていつもどおりのプレイをして負けたということは相手のほうが上手かったということなので、上達するための今後の課題がはっきりとわかる。
自分のプレイをするだけで、結果的に勝とうが負けようが、名声・実力・本番対策あらゆる意味で確実に次に繋がるのだ。もし実力がないのに勝ちたいというならそれはただの無茶だし我侭だ。実力がないなら肩肘張らず気楽にやればよい。
そもそも勝ちを目的にするのは実はナンセンスなことでもある。自分のプレイは自分がコントロール出来るが、大会に出てくる相手の強さや調子は自分とは関係無いところで決まる不確定要素だからだ。
つまり大会に自分より強い奴が出てくるかどうか、そしてそういう相手と何度対戦するかというのは運なので、大会の結果にも運が絡む。
そんなものに振り回されるのは上達への遠回りである。一番大事なのは自分が上手くなったかどうか、準備と本番でどこまでうまくやれたかだ。
自分を把握する上で一番最初に見るべきは戦利品や評判ではなく自分のプレイだということを忘れてはいけない。


大会はゴールではなく通過点

大会で優勝しても初戦敗退してもそれがゴールではない。競技キャリアを埋める1つの出来事に過ぎない。どこをゴールにするかはプレイヤー各人が決めることだ。
だから負けても何も手遅れになることなどないし、勝ってもその後のなにもかもが上手くいくわけでもない。
大会を大会の練習だと思って、競技者として得られる限りのものを得ようとした人は大会を通過するたびに強くなっていくし、賞金や賞品以外にも多くのものを得るだろう。


普段やってないことはやらない

自分が十分な練習を積んでいて身についているようなプレイ、次に何をやればいいかすぐに思いつくオーダーだけを選択するようにしよう。
これは緊張対策にもなるし、大会という場で積極的に仕掛けてくる相手に対応しながらでもオーダーを崩さないためにも重要である。
また、普段やってないことというのは慣れないオーダーを付け焼刃で使うことだけではない。
ハラスをしながらの内政やマルチタスクなど普段疲れるからと練習していないような難しいプレイを大会だからといって急にやろうとしても上手くはいかない。
確実にできるように日頃から練習して手で覚えないといけないし、失敗がなくなるまで毎回分析して頭でも覚えておかないといけない。
勘違いしてほしくないのだが、これは大会でアドリブを一切するなという意味ではない。普段やっているアドリブならしてかまわない。


120%の実力を出そうとしない

当たり前なのだが普段できないことはできない。誰も普段通り以上のプレイを求めている人はいないし、できる人もいない。
もし君に十分な実力が備わっているのであれば普段通りのプレイをするだけでも十分な結果が出せる、あるいは結果が出なかったとしても最低限視聴者を魅せることは出来るはずである。
実力というのは最高でも100%しか出ないし安定して出せるのは80%~90%くらいと考えたほうがいい。それを出せれば十分だ。
実力を120%も出せるのは、実戦中に急に成長するという主人公補正を保有しているフィクションの登場人物だけである。


練習も準備も常に足りない

大会中は後悔することばかりだ。
もっとオーダーを煮詰めるべきだった、もっと色んな戦い方を用意しておくんだった、もっと立ち回りを研究するべきだった、もっと対戦相手を調べておくべきだった。
とくにオフライン大会では直前の練習が不足しがちになることも少なくない。大会が近づくにつれ連絡を受けたり話しかけられることが増えるし、会場近くの地理を調べたり、持っていくものをまとめたりしているだけでも少しずつ時間が削られていく。
大会前の緊張で練習の効率が下がることもありうるし、あるいは地方から東京へ、日本から海外へと遠征することになると移動時間も荷物を作る時間も大きく増えていく。
こういう時大事なのは自分のオーダーやプレイスタイルを信じることである。たとえいつもより下手なプレイしか出来ないとしても、その下手なプレイを信頼してやることだ。
大会が始まったあとにいまさら付け焼刃でできることなんて何もないと言っていい。大会前日・当日の練習だって自分のいつものプレイの復習にすぎない。そんな短時間で新しく何かを覚えることなんてまずできない。
当日大会会場にいる自分はひどく無力で、ただいつもの自分を信じて送り出すことしかできない。そんな中で自分を信じるのは難しいことじゃない。ほかに頼るもののない無力な子供が欠陥だらけの親だろうと神のように信頼するのとまったく同じことだ。


お前にできることはなにもない

いま会場にいる自分に大会の結果を変えられると思うのはうぬぼれである。
対戦ゲームとは要するに自分の育成ゲームであって大会は自動戦闘であるという真理をわかれ。
育成フェーズの出来によって各行動の成功確率はあらかじめ決められているし、何も緊張することはない。私はこのクソゲーの内部システムには詳しくないが、試合が終わっていなくても大会画面に移った段階ですでに勝敗判定が終了している可能性すらある。
愚かな君はその場で自分が戦況をいちいち判断しているつもりなのかもしれないが、それは育成フェーズのときに決定された判断力に関わるステータスから導き出された成功確率に基いて勝手に送り出されている信号にすぎないのだ。
実は育成フェーズが終わって大会画面になった時点で君に出来ることはなにもない。クリック連打してさっさとテキストを送れ。Ctrl長押しでもいいが間違ってグルーピングを上書きするなよ。あとこんなクソゲーは早く引退するべきである。


大会は常に5日後

しばらく大会がないからといって気楽にラダーで色々なことを試しているうちに、勝つためのプレイや自分の一番完成度の高いスタイルを忘れてしまうことがある。
なまじ練習はしているだけに自分が質の悪い練習をしていることや持ちオーダーの復習をサボっていることに気が付きにくいわけだ。
勝つ必要に迫られていないから貪欲に勝ちに行かない。それでも色んな知識が増えたり技術が向上してトータルとして上手くなってはいくだろう。
しかし勝負の行方を決めるのは細かい技術だけではない。ほんの一瞬の勝機を逃さない鋭い判断が試合を左右する。それは非常に繊細で、使っていないと失われやすいものだ。
自分が何を目的としてプレイしているのか忘れてはいけない。数日後に大会が迫っている追い込み練習として通用するような練習をしているのかどうか自分自身に問わなければならない。
今公式戦をしたら負けるかもしれないと背筋に寒気が走るような練習をしてはいけない。
格上に挑むための勝負オーダーを常に持て。格下に負けないための安定オーダーを常に持て。同格を出し抜くための立ち回りを常に持て。勝ちにこだわる貪欲さを常に持て。5日後に大会があるという緊張感を常に持て。
毎日そういった身の引き締まるような練習をしたうえでなら、新しいことを試すような気楽な練習をすることはむしろ良い効果を生むだろう。
緊張感を保つためには毎週行われるような海外の賞金付きオンライン大会に出るのも良い。もちろん強いプレイヤーを倒す勝負オーダーを練った上でだ。


大会で負けたあとは

自分が何をしくじったかという問題点と、その具体的な改善策を検討する。
  • 練習方法の反省・改善案 (自分のオーダーの種類が足りなかった・1つ1つのオーダーの煮詰め方が足りなかった(偵察タイミング・ユニットカットのタイミング・偵察情報に応じた変化)・だらだらとした練習をしてしまっていた・対策できていないオーダーがあった・オーダー相性の把握が甘かった・慣れない環境を想定した練習をするべきだった・ゲーム音が聞こえない環境を想定した練習をするべきだった)
  • プレイそのものの反省・改善案(どういうミスをしたか・そのミスはどうすれば防げたか・連続生産が甘かった・ユニットカットのタイミングが正しくなかった・偵察タイミングが正しくなかった・マイクロが甘かった(APM的な問題? 正確さの問題? テンポ・リズムの問題?)・当たり方の想定パターンが少なかった・判断が悪かった(待てばいいのに攻めてしまった・攻めないといけないのに待ってしまった・そういう時に冷静にプレイするにはどうすればいいか→特定の状況になったときにまず状況確認をするトリガーを作るetc))
  • 本番でのセットアップ・環境づくりの反省・改善案(設定項目を網羅したメモなどの準備ができていたか・マウスコードのくせ、コードホルダー位置など普段の環境の把握・椅子と机と自分の位置関係の違いを把握して調整できたか・いつもに近いプレイをするために好ましい精神的態度を持てたか)

人間の能力は限られているのであまり抽象的すぎることは考えない。
選手に対して一般に期待されることのある落ち込むなどの感情表現は義務ではないので好みにより選択してあとは自由にしていてかまわない。
最終更新:2013年01月28日 23:16
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。