シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪

第4話「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃあああああああん!! 」(前半)


1.アスクマンとのデート


 あの料理対決から一夜明けた、よく晴れた清々しい日曜日の朝9時。
 テオドールとリィズの自宅から電車で3駅程の繁華街・・・そこの待ち合わせスポットとして有名な噴水において、多くのカップルや親子連れたちが幸せそうな表情で集まっている。
 そんな中で私服姿のテオドールもまた、幸せそうな周囲のカップルたちとは完全に浮いてしまった落ち着かない表情で、腕組みをしながらずっとその場で待機していたのだが。

 「・・・ごめ~ん、待った~?」

 とっても幸せそうな爽やかな笑顔で、アスクマンがテオドールに手を振りながら駆け寄ってきたのだった・・・。
 とっても引きつった笑顔で、テオドールもアスクマンに手を振り返す。

 「い、いや、今来た所ですよ・・・。」
 「昨日は君とのデートが待ち遠しくて、興奮して眠れなかったよ。だけど今日は存分に君を楽しませると約束させて貰うよ。」
 「は、はぁ・・・。」
 「今日のデートのプランは私に任せておいてくれたまえ。以前から君と一緒に観てみたかった映画があるんだ。さあ、私と一緒に行こうか。」

 アスクマンはテオドールと手を繋いだ。
 恋人繋ぎだった。

 (ねえねえお母さ~ん、何であの人たち、男同士で手を繋いでるの~?)
 (しーっ、近付いたらいけません!!)
 (何あの人たち恋人繋ぎなんかして、もしかしてホモ?ホモなの?)
 (気持ち悪いよね~。)

 周囲の自分たちを嘲笑うかのような鋭い視線が、テオドールには痛い。物凄く痛い。
 なんかもう、完全に周囲のカップルや親子連れたちから浮いてしまっていた・・・。

 「ルルル~ンルンル~ン~ラララ~ンランラ~ン♪むふふふふふふ・・・。」

 そんな屈辱的な羞恥プレイに晒されているテオドールとは対照的に、なんかアスクマンが物凄く幸せそうな表情で、テオドールを映画館へと連れて行ったのだが・・・。

 「おのれアスクマンめ!!私のお兄ちゃんをあんな晒し者しやがって!!」

 リィズが全身から漆黒のオーラを放ちながら、料理対決でアスクマンに敗北したアイリスディーナ、カティア、アネット、ファム、キルケ、ベアトリクスと一緒にやたらと目立つ変装で、物陰からテオドールとアスクマンを監視していたのだった。
 と言うか、その異様な光景が周囲からあまりにも浮いてしまってるもんだから、彼女たちもまた周囲のカップルや親子連れたちから白い目で見られてしまっていたのだが・・・。

 「ちょっとアイリス、もっと前に行きなさいよ!!全然あの2人が見えないじゃないのよ!!」
 「駄目だ、これ以上前に行けばテオドールに見つかってしまう・・・と言うかベアトリクス、何故お前までもがここにいるのだ!?」
 「私はテオドールが欲しいのよ!!どうしても欲しくなってしまったのよ!!」
 「この浮気者が!!お前には兄上がいるだろうが!!」
 「テオドール君ったら、何で私よりもあんな変態野郎を選んだのよ!?私がどんな想いで貴方が働くファミレスに毎日通っていると思ってるの!?」
 「いやキルケさん、前々から疑問に思ってたんですけど・・・テオドールさんに毎日会いたいなら、うちのファミレスで働いた方が早くないですか?」
 「私の学校はバイトが一切禁止なのよ!!本当にお嬢様学校ってのは堅苦しいんだから!!」
 「皆ちょっと待って!!テオドールたちが今から観る映画って・・・これって・・・まさか・・・!!」
 「テオドール君ったら、そんな趣味があったの!?私の事は全然お姉ちゃんって呼んでくれないくせに!!」

 テオドールとアスクマンが手を繋ぎながら訪れた映画館・・・そこで上映される映画のタイトルを見て、アイリスディーナたちは絶句してしまったのだった。
 どうやらアニメ映画のようなのだが、映画館に貼られているポスターには、顔を赤らめながら抱き合う3人の少年の姿が。
 よく見ると映画館に訪れる客層も、なんか腐った女子たちが大半を占めていたのだった・・・。

 「何だあの訳が分からない映画のタイトルは!?」
 「最近話題になってるホモアニメよ!!アスクマンの野郎、お兄ちゃんに何て物を見せようとしてるのよ!?」

 そんな中で男同士で手を繋ぐテオドールとアスクマンの姿を目撃した周囲の腐った女子たちが、顔を赤らめながら一斉にキャーキャー騒ぎ始めている。
 なんかもう耐えられないといったテオドールとは対照的に、アスクマンの姿は実に威風堂々とした物だった。

 「代金は是非私に奢らせてくれたまえ・・・高校生2人でお願いします。」
 「・・・はい、丁度頂きますね。上映は9時30分からとなっております。本日はご来場頂き、誠にありがとうございました~。」
 「さあ行こうかテオドール君。はぁーーーーーっはっはっはっはっは!!」

 アスクマンに引きずられながら、泣きそうな表情で館内へと連行されるテオドール。
 そんな2人の光景を見た周囲の腐った女子たちが、なんかもう物凄く興奮した表情で慌てて後を追いかけていく。

 「・・・ふむ。我らと同じく、性別を超越した愛を育む若者たちがいるとは、実に嬉しい限りだな兄者よ。」
 「そうだな。我ら統一ドイツの将来も実に明るいな弟者よ。」
 「そういう意味では今日の映画の新作も、実に楽しみだな兄者よ。」
 「うむ。果たして今回は、どんな少年たちの愛憎劇を見られるのか、実に楽しみだな弟者よ。」

 それに続くように屈強な肉体を誇る2人の男が恋人繋ぎをしながら、チケットを購入して威風堂々と館内へと入っていく。
 やばい、やばいやばいやばい。
 何だかこのままだとテオドールとアスクマンが、あの2人のようになってしまいそうな気がする。
 それを危惧したアイリスディーナたちも慌ててチケットを購入して、テオドールとアスクマンを追って館内へと入場したのだった・・・。

2.映画


 『ペガサス流星拳ーーーーーーーーっ!!』
 『ぐあああああああああああああああああ!!』

 光牙の無数の光速拳をまともに受けた魔王サタンが、口から血を吐きながら壁に叩き付けられたのだった。
 驚愕の表情で、魔王サタンは自分を倒した光牙を睨み付けている。

 『馬鹿な・・・この私が、魔王であるこの私が、たかが青銅(ブロンズ)如きに・・・っ・・・!!』
 『やったぞ!!魔王サタンを倒したぞ!!』
 『やったね光牙!!これで世界に平和が訪れるよ!!』
 『ああ、俺とお前の愛が生んだ勝利だ!!』

 そして光牙は、駆け寄ってきた龍峰を押し倒す。
 顔を赤らめながら、龍峰は自分を押し倒した光牙の顔を見つめていたのだった。

 『こ、光牙・・・』
 『龍峰・・・もういいだろ・・・俺はもう我慢出来ないんだ・・・』
 『だ、駄目だよ光牙・・・僕は・・・』
 『龍峰・・・もう何も言うな・・・』

 光牙と龍峰の唇が触れ合おうとした、まさにその瞬間。

 『そこまでだ光牙!!そんな事はさせないぞ!!』
 『お前は・・・エデン!!』
 『お前に龍峰をやらせはしない!!』
 『くっ、またしても俺と龍峰の愛を邪魔しようってのか!!エデン!!』

 魔王サタンとの戦いで満身創痍になりながらも、それでも力強く立ち上がった光牙が、自らの小宇宙(コスモ)を爆発させたのだった。
 その光牙の極限まで高められた小宇宙によって、光牙のペガサス座の青銅聖衣(ブロンズクロス)が、まさに究極へと進化を遂げていく。

 『龍峰は俺の物だ!!誰にも渡さん!!うおおおおおおおおおおおおお!!』
 『ああっ、これは・・・光牙の聖衣(クロス)がまさしく神々しい輝きを・・・まさかこれは・・・!!』
 『くっ、光牙め・・・お前も遂に神聖衣(ゴッドクロス)を纏うまでになったか!!』 
 『そうだ!!これこそが俺と龍峰の愛の結晶だ!!』
 『誤解を招くような言い方は止めてよぉ、光牙ぁ(泣)!!』

 神々の力を宿した究極の神聖衣を纏った光牙の、その美しくも神々しい姿を見せつけられたエデンが、圧倒的なプレッシャーの前に思わず後ずさってしまう。
 だがエデンもまた、ここで引く訳にはいかないのだ。

 『・・・光牙よ・・・神聖衣を纏えるのが、お前1人だけだと思ったら大間違いだぞ・・・!!』
 『な、何ぃっ!?』
 『極限まで高まれ!!僕の小宇宙よ!!はああああああああああああああああっ!!』
 『ああっ、そんな!!エデンのオリオン座の青銅聖衣もまた、光牙と同じように神聖衣に!!』
 『馬鹿な!!エデン、お前も神聖衣を!?』
 『お前に龍峰をやらせはしないと言ったはずだ!!光牙ぁっ!!』

 2人の光速拳がぶつかり合い、周囲に無数の閃光が走る。
 その凄まじい戦いを龍峰は、ただ黙って見ている事しか出来なかった・・・。

 『くっ、エデン!!お前もそこまで龍峰の事が好きなのかよ!?』
 『・・・光牙・・・!!』
 『だがな、龍峰は俺の物だ!!俺は将来龍峰と結婚するんだ!!』
 『そんな事はさせないと言ったはずだぞ、光牙!!』
 『お前なんかに俺と龍峰の愛は邪魔させないぞ!!うおおおおおおおおお!!』
 『はあああああああああああああああああああっ!!』

 2人の小宇宙がさらに高まり、まさにセブンセンシズを超えた究極の小宇宙・・・オメガを発動させたのだった。
 究極にまで高められた2人の必殺の拳が、互いに向けて放たれる。

 『ペガサス彗星拳ーーーーーーーーー!!』
 『オリオンズ・エクスターミネーション!!』
 『ああっ・・・光牙ぁ!!エデンーーーーーーーー!!』

 凄まじい技の激突・・・だが勝利したのはエデンだった。
 壁に叩き付けられた光牙を、エデンが押し倒すような形になる。

 『ぐっ・・・馬鹿な・・・っ!!』
 『光牙・・・!!』
 『お、俺は・・・龍峰を・・・龍峰を・・・!!』
 『・・・何故だ光牙・・・何故僕の気持ちに気付いてくれないんだ、光牙・・・!!』
 『な、何ぃっ!?』

 大粒の涙を流しながら、エデンは光牙に自らの気持ちを告白したのだった。

 『僕は・・・僕は・・・お前の事が好きなんだ!!光牙ぁっ!!』
 『な・・・何だってえっ!?』
 『僕はずっと前から、お前の事が好きだった・・・なのにお前が考えるのは、いつもいつも龍峰の事ばかり・・・!!』

 何と言う事だ。エデンは光牙から龍峰を奪おうとしていたのではなく、逆に龍峰から光牙の事を奪おうとしていたというのだ。
 そのエデンの想いを知った光牙と龍峰は、予想もしなかった事態に唖然とした表情になる。

 『光牙・・・お前を龍峰などには渡さん!!お前がどうしても龍峰と結婚するというのであれば、僕は力尽くでもお前を僕の物にする!!』
 『くっ・・・エデン、お前・・・!!』
 『光牙ぁっ!!』

 そのまま光牙と唇を重ねようとしたエデンだったのだが。

 『や、やめてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
 『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』

 慌てて龍峰がエデンを突き飛ばし、光牙を守る盾となったのだった。
 うるうるさせた瞳で、龍峰は顔を赤らめながらエデンを見つめている。

 『やめてよエデン・・・エデンが光牙を汚すなんて、僕には耐えられないよぉ!!』
 『おのれ龍峰め!!僕と光牙の愛を邪魔するというのか!?』
 『・・・そうだよ・・・僕は君と光牙の愛の邪魔をする・・・君が光牙を汚すなんて耐えられない・・・だって・・・だって・・・!!』

 精一杯の勇気を込めて、龍峰はエデンに自らの想いをはっきりと告げた。

 『・・・僕が好きなのはエデン!!君なんだぁっ!!』
 『な・・・何いいいいいいいいいっ!?』
 『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 龍峰の凄まじい小宇宙が、龍座の青銅聖衣を神聖衣へと進化させたのだった。
 予想もしなかった事態に、光牙もエデンも唖然とした表情になる。

 『馬鹿な・・・龍峰が好きなのは俺じゃなくてエデンだって・・・!?』
 『そうだよ光牙・・・僕はずっとエデンの事が好きだったんだぁっ!!』
 『なんてこった・・・それじゃあ・・・それじゃあ・・・!!』

 光牙は龍峰が好き。
 龍峰はエデンが好き。
 エデンは光牙が好き。
 光牙は龍峰が好き。
 龍峰はエデンが好き。
 エデンは光牙が好き。
 光牙は・・・

 『こ・・・これは・・・千日戦争(ワン・サウザンド・ウォーズ)の状態になってしまっている!!』

 物陰からその様子を見ていた栄斗(はると)が、驚愕の表情で蒼摩(そうま)に告げたのだった。

 『千日戦争だってぇっ!?何じゃそりゃあっ!?』
 『実力が拮抗する黄金聖闘士(ゴールドセイント)同士が、全力で戦うと起こるとされている現象だ・・・あまりにも実力が拮抗し、かつ強大な力を有するが故に、永遠に決着が付かなくなってしまう状態・・・それが千日戦争だ。』

 だがいかに神聖衣を纏っているとはいえ、、まさか青銅聖闘士(ブロンズセイント)同士の戦いで千日戦争に陥ってしまうとは。栄斗は驚きを隠せなかった。

 光牙は龍峰が好き。
 龍峰はエデンが好き。
 エデンは光牙が好き。
 光牙は龍峰が好き。
 龍峰はエデンが好き。
 エデンは光牙が好き。
 光牙は・・・

 確かにこれは見事に、いつまで経っても決着が付かない、まさに千日戦争の状態に陥ってしまっているのだが・・・。

 『・・・いや、これ千日戦争とか全然関係無くね(汗)?』
 『このままでは永遠に決着が付かないぞ・・・どうするつもりなんだ、光牙、龍峰、エデン!!』

 互いに向かい合ったまま、全く身動きが取れないでいる光牙、龍峰、エデン。
 一体これからどうなるのか・・・栄斗も蒼摩も固唾を呑んでその様子を見守っていたのだが。
 だが、その状態からおよそ2分が経過した時だった。

 『『『・・・ひしぃっ(泣)!!』』』 

 目から大粒の涙を流しながら、3人が互いの身体を抱き締め合ったのだった。

 『な、何ぃっ!?』
 『へへっ、そう来たかよ!!全くあいつらも世話が焼ける連中だぜ!!なあ栄斗!?』
 『ああ、まさか3人で恋人同士になる道を選ぶとはな・・・!!』
 『何だかんだ言っても、あいつらは誇り高きアテナの聖闘士(セイント)って訳だ!!』
 『ああ、今夜は祝杯だな!!・・・俺たちはまだ未成年だからジュースでな。』
 『今日はとことんまで付き合うぜ、栄斗!!』

 感動の表情で栄斗と蒼摩は、愛を確かめ合う3人の姿を見つめていたのだった・・・。

3.昼食


 「・・・な・・・何だこのアニメ・・・(汗)。」

 訳が分からないといった表情で、テオドールは目の前で流れるスタッフロールを見つめていたのだった。
 周囲の腐った女子たちは一斉に盛大な拍手を送り、中には感動のあまり大粒の涙を流す者たちさえもいる始末だ。
 テオドールの隣に座っているアスクマンもまた、感動の表情でブラボーとか叫びながら、盛大な拍手を送っている。

 「何と言う事だ・・・まさかこういう結末になるとは思ってもみなかったな。兄者よ。」
 「ああ、まさか3人で恋人同士になるとはな。弟者よ。」
 「これも3人の愛の強さの証という訳だな、兄者よ。」
 「我らもあの3人と同様の、いや、それ以上の愛を深めていこうではないか、弟者よ。」

 先程の屈強な男2人も、感動のあまり目から溢れて止まらない涙を、ひたすらハンカチで拭い続けている。
 その2人の様子をリィズたちが、何とも気持ち悪そうな表情で見つめていたのだった。
 やばい、やばいやばいやばい。
 このままだとテオドールが、この2人のようになってしまいかねない。

 「ア・・・アスクマンの野郎、お兄ちゃんに何とんでもない映画を見せてんのよ!?」
 「おのれアスクマンめ、私の未来の夫を、このまま変な趣味に目覚めさせる訳にはいかん!!」
 「あ、皆ちょっと待って!!テオドール君たちが外に出るわよ!!」

 キルケに促され、リィズたちは慌ててテオドールとアスクマンの後を追いかける。
 アスクマンに恋人繋ぎされながら、テオドールが連れて行かれた先・・・そこはテオドールがバイトしてるファミレスと同じ系列の支店だった。
 現在時刻は12時を回っている。どうやら映画を観ている内に丁度昼食の時間帯になってしまったようだ。
 休日の昼間という事もあり店内は大変混み合っていたのだが、それでも丁度席が空いたようで、テオドールとアスクマンは意外とすんなりと席に着く事が出来たのだが・・・。

 「いらっしゃいませ・・・何だテオドール君か。」

 注文を聞きに来たのは、この支店の様子を見に来ていたユルゲンだった。
 事務所で店長と打ち合わせをしていた最中、今日のシフトに入っていたバイトが突然交通事故に遭って来られなくなったという連絡が入り、急遽ユルゲンが接客を手伝う事になったのだが。

 「お、お久しぶりです、ユルゲンさん。」
 「アイリスとはその後も仲良くしてくれているようで何よりだ。」
 「いや、て言うか彼女、毎朝のように俺の家に押しかけてきて、何故か俺のベットに潜り込んで添い寝してくるんですけど(泣)!?」
 「はっはっはっはっは。仲睦ましいようで何よりじゃないか。」
 「いやいやいやいやいや、恥ずかしいったらないですよ!!それでリィズとは毎日のように喧嘩になるし(泣)!!」
 「別に恥ずかしがる事は無いじゃないか。君は将来私の弟になるかもしれないんだからね。」
 「だから話が突拍子過ぎるんですよユルゲンさん(泣)!!」

 だが2人の会話を聞いていたアスクマンが突然不愉快そうな表情になり、テオドールとユルゲンに食ってかかったのだった。

 「酷いじゃないかテオドール君!!この私という存在がありながら、私の目の前で他の女の話に夢中になるなんて!!」
 「はあ!?何言ってるんすかアスクマン先輩!?」
 「君は今は私とデートしているのだよ!?それなのにアイリスディーナの話題を振るなんて失礼にも程があるじゃないか!!」

 ユルゲンは一瞬、アスクマンが何を言っているのか理解出来なかったのだが。
 数秒の間を置いた後、アスクマンの言葉の意味を理解し・・・とっても引きつった笑顔をアスクマンに見せたのだった。

 「・・・あの・・・テオドール君のバイト先の上司として一応確認しておきますが・・・お客様はテオドール君とはどういう関係で・・・」
 「私の最高のパートナーですよ。店員さん。」
 「・・・一応念の為に聞いておきますが、それはあくまでも学校生活における、先輩後輩という間柄でよろしいのですよね?」
 「いやいやいやいやいや、私とテオドール君の関係は、そんな生ぬるい代物ではありませんよ、店員さん。」
 「・・・あの、ですからそれはテオドール君にとって、ただの頼りになる先輩という意味でよろしいのですよね?」
 「はっはっはっはっは。私とテオドール君の絆の深さを理解して下さらないとは残念極まりない。私は将来テオドール君と結婚したいと本気で思っているのですよ!!」

 アスクマンが威風堂々と立ち上がり、高々と宣言した直後・・・店内が静寂に包まれた。
 そして次の瞬間、店内が物凄い喧騒に包まれてしまったのだった・・・。
 客の中には先程のホモ映画を見ていた腐った女子たちも混ざっていたようで、顔を赤らめてキャーキャー言いながらテオドールとアスクマンを見つめている。
 中には感動のあまり、目から大粒の涙を流して号泣する者までも。

 「まさか公衆の面前で堂々と結婚宣言とはな。あの青年も中々やるじゃないか兄者よ。」
 「そうだな。さすがに今の我々では、あそこまでの大胆な真似は出来ないな。弟者よ。」
 「我ら統一ドイツの将来は明るいよな、兄者よ。」
 「彼ら2人が、我々のような者たちの希望の星になってくれればいいよな、弟者よ。」

 先程の屈強な男2人も、目を輝かせながらテオドールたちを見つめている。
 だがアスクマンの結婚宣言を聞いたユルゲンは、物凄い表情でテオドールに食ってかかったのだった・・・。

 「・・・テオドール君。僕は別に君が妹を選んでくれなくても、それは君自身の選択なのだから仕方が無い事だと常々思っているのだがね。」
 「は、はぁ・・・。」
 「だからと言って変な趣味に走ってはいかんぞ!?」
 「いやいやいやいやいや、変な勘違いしないで下さいよ!?アスクマン先輩が勝手に盛り上がってるだけですってば(泣)!!」
 「僕は君に期待しているんだよ!?妹の事だけではない、将来の会社の未来を背負って立つ男としてもね!?」
 「ええそれはもう重々承知してますよ本当に(泣)!!」

 なんかユルゲンに、とんでもない勘違いをされてしまったようだ・・・。

 「と、取り敢えずユルゲンさん、店が混雑してますから、そろそろ注文を聞いた方がいいんじゃないですか(泣)!?」 
 「・・・っと、そうだった。僕とした事がうっかりしていたよ。」

 例え店に知り合いが客として来ていても、仕事中は必要以上にお喋りに興じるな、私情に走るな・・・テオドールやリィズを含めて、常々店員たちにそう教育しているユルゲンだったのだが。
 役員である自分がこの醜態では、他の店員たちに示しがつかない。
 気を取り直してユルゲンは、テオドールたちに改めて注文を確認したのだが・・・。

 「えーと、お客様、ご注文は・・・」
 「俺はチーズインハンバーグのAセットで。」
 「・・・そうだね、私もテオドール君と同じ物を頼もうかな。それと・・・。」

 メニューを興味深そうに眺めていたアスクマンが、とんでもない商品を注文したのだった。

 「・・・店員さん。この『カップルドリンクバー』をお願いします。」

 それは大きなコップにストローが2つ付いた、カップル限定の良くある代物だった・・・。
 1つのコップに入ったジュースを、2人で一緒にチュウチュウしながら飲むとかいうアレである。

 「・・・あの、お客様、こちらの商品はカップル限定となっておりまして・・・。」
 「カップルドリンクバーをお願いします。」
 「ですから、こちらの商品は・・・。」
 「カップルドリンクバーをお願いします。」
 「そもそもAセットにはドリンクバーが付いておりますので、そちらを注文なさると別料金に・・・。」
 「カップルドリンクバーをお願いします。」
 「・・・か、かしこまりました・・・。」

 タブレットにピッ、ピッ、ピッと注文を入力するユルゲンの表情が、物凄く引きつっていた。
 そして去り際にテオドールの耳元に、そっ・・・と耳打ちする。

 「・・・テオドール君。明日バイトが終わったら、ちょ~~~~~~っと2人で腰を据えて、今後の事についてゆ~~~~~~っくりと話し合おうじゃあないか。ん~~~~~~~~~?」
 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!!」

 物凄い表情で調理室に消えていくユルゲン。
 そして1分後、物凄い表情でコップとストローを持ってきた。
 2人がかりで飲む代物という事もあってか、コップはかなり大きなサイズとなっており、普通のドリンクバーのコップと比べてもその大きさが際立っている。

 「・・・お待たせ致しました。」
 「テオドール君、飲み物はコーラでいいかな?」
 「いやいやいやいやいや、俺は普通にドリンクバーで飲みますから!!」
 「遠慮なんて君らしくないなテオドール君。今回の食事代なら全て私が払うから気にするな。」

 テオドールの言葉も聞かず、アスクマンはさっさとコーラを注ぎに行ったのだった・・・。

 「ちょっと何よアレ、何でカップルドリンクバーなんか頼んでるのよ!?まさかお兄ちゃんと2人で飲む気!?」

 その様子をリィズたちが別の席から、物凄い表情で睨み付けている。
 尾行がバレないようにと派手な変装をしているのだが、テオドールにはバレていないようだが、アスクマンには完全にバレバレのようだった。
 ふん、負け犬共が・・・!!そう言いたげな勝ち誇ったドヤ顔で、アスクマンはリィズたちを完全に見下してしまっている。

 「待たせてしまって悪かったねテオドール君。さあ私と一緒にコーラを飲もうではないか。」
 「いやいやいやいやいや、だから俺は普通にドリンクバーで飲みますってばあ(泣)!!」

 周りからの視線が痛い。物凄く痛い。
 そんな視線を全く気にする事無く、大きなコップに刺された2本のストローの片方にアスクマンが恥ずかしそうに口を付けながら、注がれたコーラをちゅうちゅう吸っていたのだが・・・肝心のテオドールは全くコーラに手を付ける事が出来なかった。
 と言うかこのコーラを飲んでしまうと、人として大切な何かを失ってしまいそうな気がしてきた・・・。

 「お待たせ致しました、チーズインハンバーグのAセットでございま・・・」
 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(泣)!!」

 女性店員が持ってきたドリンクバーのコップを慌ててかっさらい、泣きそうな表情でコーラを注ぎに行くテオドール。
 なんかこのドリンクバーのコップが、まるで神からの助けのように思えてきた。

 「もう、テオドール君ったらぁ、恥ずかしがり屋さんなんだからぁ。」

 そんなテオドールの気持ちなど知りもせずに、アスクマンはとても残念そうに、カップルドリンクバーに注がれたコーラを1人ぼっちで飲んでいたのだった・・・。

最終更新:2016年06月26日 06:40