遠くで赤く、城が燃えている。
鼻血を拭き顔をぬぐうと、少しはまともな顔に戻った。
荷物はほとんど残っていなかったが、体は無事のようだ。
手を引かれ共に逃げのびたはずのアーナの姿はなかった。
すすまみれの人々は、呆然とたたずんだり咳をしたりするだけで、
暴徒に変わるような気力もないようだった。
脚絆をまさぐると、そのブローチはまだそこにあった。
空は暗い。黄昏時の紫苑の空に灰色の雲がたなびいている。
空を見ながら、咆哮した。
おおお、おおお、と狂人のような叫びに人々は驚いた眼を向けるだけだったが、
馬が一頭、向かって来た。
男の子は迷わずそれに飛び乗り、森の中へ。
そして二度と帰って来なかった。
最終更新:2011年02月27日 18:40