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『松永君と社長』

A:男性。松永。整備課の平社員。辞表を提出したい。何かと残念な人。
B:男性。社長。建設業か何かだと思う。Aを引き止めたい。何かと熱い人。


(※注:『』はモノローグ)
A01『辞表を出そうと思う。まあ色々あって今の仕事をやめようと思う。辞表の書き方はネット
  で調べた。辞表なんて初めて書いたが、我ながらよく書けていると思う』
(※SE:トントン、とAが社長室の分厚い木製のドアをノックする音)
A02「社長。整備課の松永です」
A03『うあー、緊張するー。一週間くらい自分の家でイメージトレーニングはばっちりだけど、
  やっぱりこういうのは練習と実践とじゃ全然違うのが当たり前だし、もう心臓がバクバク
  いってきた―!でもこういうのって印象が何より大切だし、揉めてすんなりやめられなく
  なったらアレだし、あくまで平常心で明るくはきはき和やかに平常心平常心平常心……』
A04「……あれ、社長?」
(※SE:ギィ、とドアを開ける音)
A05『留守かー!いきなり想定外だ、どうしよう……って、待てよ、考えようによってはこれは
  逆に都合がいいかもしれない。逆に考えるんだ。社長、いない。辞表、置く。社長、後で気
  がつく。驚愕(きょうがく)』
(※SE:ドカーン、など社長の驚きを表す抽象イメージ)

(※以下、Aの妄想)
B01『こ、これは……!ま、松永君!こ、これはいったい、ど、どういうことだね』
A06『ああ、社長、ご覧になりましたか。つまりは、そういう事です。お世話になりました』
B02『な、な、な、君は』
A07『社長、どうか落ち着いてください』
B03『はっ!?そ、そうだな。残念だがそういう事なら』
A08『そういう事です。今までありがとうございました』
B04『最後に、せめて握手を交わしてはもらえないだろうか』
A09『喜んで』
A&B1『はっはっはっはっは。はっはっはっはっはっはっは』
(※妄想終わり)

A10「いける!それでは失礼して……社長、机の上に辞表を置かせていただきます!」
B05「な、なんだって!」
(※SE:ガチャーン、とBが手に持っていたコーヒーカップを床に落として割る音)
A11「しゃ、社長!?」
B06「ま、松永君、その手に持っているものは、ま、まさか!」
A12「こ、これは、その、違うんです。いわゆる、つまりは、そう、そういう事なのです!」
B07「いったいどういう事だ。松永君、君には入社当時から特別に目をかけていたというのに」
A13「しゃ、社長、だから、これは、その」
B08「いったい何が悪かったのか。私はこれまで社員ひとりひとりを第一にして頑張ってきた。
  我が社はまだまだ小さい。吹けば飛ぶような小さな事務所で、大企業の影にひっそりと隠れ、
  林立するライバル企業の影に怯え、しかしいつかは追いつき追い越そうと、社員一同一丸と
  なって邁進(まいしん)せねばと!我ら生まれは違えども、ここに集ったひとつの家族である
  と!病める時も、苦しい時も、互いに肩を預け合って来たではないか!」
A14「社長……」
B09「松永君。私には君が必要だ。どうか私の元から居なくならないでほしい。この通りだ」
A15「社長……しかし」
B10「君がいなくなれば、私は私ではいられなくなってしまう」
A16「そんな、大げさです」
B11「事実だ。私は、君あってこその私だ。他の社員だってそうさ。皆が君を必要としている。
  皆、君に支えられているのだ」
A17「いいえ、むしろ俺の方こそ」
B12「ああ。我々はいつだって互いに支えあっている。だから1人欠けるだけで脆く崩れてしまう
  し、だからこそ全員揃った我々は強いのだ。何故か。何故ならそれが、家族というものだろ
  う?」
A18「社長!」
B13「松永君。今一度、私の、いや、我々家族のために君の力を奮ってもらえないだろうか」
A19「はい!……はい!是非とも、改めて俺を家族としてお迎えください!」
B14「松永君!我々はいつだって家族だ!たとえ死がふたりを分かつとも!」
A20「社長!社長ォォッ!」

A21『翌年、その年の新入社員が入ったとき、俺はこのやりとりが例年行事であることを知っ
  た』