『未来に行ってきたけど質問ある?』


 ある日、僕は未来にタイムスリップした。

 銀色に揃えられた美しいビル群、そこに色とりどりのロゴマークが配(はい)されて、鮮やかな
コントラストを成(な)していた。
 ビルの根元には木造家屋やトタン屋根、鉄筋モルタルなどの古めかしい建築物が散在。洗練さ
れた都市景観の中で、それらは酷く不釣合い(ふつりあい)に見えた。

「あれは重要文化財さ。我が国の成り立ちを知るために必要だとかで、役人たちが保護している
んだ」

 いつの間にそこに立っていたのか、隣で若い男がそう言った。ちなみに彼は僕の遠い子孫でも
あるようだ。目を見ればわかる。
 彼は僕に小さな包み紙をくれた。中身に入っていたのは串が刺さったロールケーキのような見
た目のお菓子。だが見た目とは裏腹にそれは乾パンのように硬く締まっていた。

「一口齧(かじ)ってみなよ。きっと驚くから」

 正しくその通りだった。僕が慎重に小指の先ほどの大きさを囓り取った瞬間、口の中に柔らか
なクリームケーキが現れた。
 いったいどこに隠れていたのか、ほろほろと崩れる口溶けの良いスポンジと、まろやかであり
ながら後に引かない芳潤(ほうじゅん)なクリームの味わい。そして最後にふわりと残るバニラの
香り。それらが渾然一体(こんぜんいったい)となって奏でる絶妙なハーモニー。僕は夢中になっ
て貪(むさぼ)った。ソウルミュージックのように刺激的でありながら、ソプラノアリアの上品さ
も兼ね備え、ほんの一口、時間にして一分にも満たないはずが、まるで数十年に及ぶ怒涛(どと
う)の体験のようにすら感じられた。要するに、美味しかった。すっかり食べ終わり、残った串
をしゃぶり尽くしたところで僕はようやく我に返った。

「我が社の新製品さ。そのままでは形を保てないほど柔らかなクリームケーキを形態保存ス
ティックで固めてあるんだ。今までは専門店でも実現できなかった新食感に加え、保存性と携行
性も兼ね備えた、画期的な未来のお菓子だよ。ちなみに形態保存スティックは食後、空気中に溶
けてなくなるから環境にも優しい」

 なるほど、言っていることはまるで理解出来ないが、この未来の時代に於(お)いてもなお「未
来のお菓子」と称するこれは、きっと素晴らしい技術の賜物(たまもの)なのだろう。
 そんなことを思いながら、僕はもといた時代に帰った。