鈴木美枝子  高校3年生、サバサバしている
本田佳子   高校3年生、落ち着いている
小林     高校2年生、生徒会、元気で人懐っこい後輩

全員演劇部に所属している。
今は国語の課題として出されたラブレターづくりに頭を悩ませている。 

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鈴木   「だから、もういいだろー・・・」

本田   「うーん。」

鈴木   「はあ・・・。」




小林   「あ、おはよう・・・ハックション、ございます!」

本田   「大丈夫?」

鈴木   「挨拶かクシャミかどっちかにしろよ。」

本田   「風邪? 最近寒くなってきたもんね」

小林   「はい・・・。勉強ですか?」

鈴木   「宿題。」

小林   「宿題? 入試近いのに?」

鈴木   「うん・・・。入試も近づいているし、試験も近い。」

小林   「先輩、推薦ですか?」

鈴木   「うん、そうした。一般だけじゃ危ないっしょ。推薦ダメなら、一般で受けるわ」

小林   「そうですか・・・。本田先輩も?」

本田   「うん」

鈴木   「だから入試の勉強もしなきゃならないし、内申点もさげられない。こうやって二人で一生懸命宿題もやっているのよ。」

本田   「図書館空いてなくて、こっち来ちゃった。引退したのにごめんね」

小林   「いいですよ。どんどん来てください。3年生が引退すると皆さん来なくなるから、急に寂しくなるんですよ。来てもらって嬉しいです。ありがとうございます^^」 

本田   「なんか引退してまで部室にっていうのもなんかね。」

小林   「そんなもんですか?」

本田   「うん。」

小林   「ふーん。わたしなら引退しても毎日来そう。ここ落ち着くんですよ。・・・?鈴木先輩どうしました?元気ないですよ!ねー本田先輩。で、どんな宿題やっているんですか?手伝いましょうか?」

本田   「ラブレター考えてるの」

小林   「ラブレター?!」

本田   「うん。」

小林   「・・・本田先輩の好きな人って知らない・・・。誰に出そうとしてるんですか?!」

鈴木   「うるさいよ。何勘違いしてるんだよ。国語の宿題で出たの。ラブレター書いてこいって。」

小林   「なーんだ。宿題ですか。」

鈴木   「そ。」

小林   「・・・ラブレターを宿題?」

鈴木   「うん。」

小林   「きもー」

鈴木   「だろ!しかも発表するんだよ。」

小林   「え、みんなの前で?」

鈴木   「そう。」

小林   「うえ・・・、キモさこの上ない。あまりのキモさに鳥肌がたってきました。」

本田   「あ、ホントだ。大丈夫?」

鈴木   「お前もやるんだよ。来年。」

小林   「・・・え!・・・」

鈴木   「逃げられないぞ」

本田   「この宿題、毎年だよ」

鈴木   「あの先生がいる限り、お前も必ずやらされる。」

小林   「・・・転校するか、先生殺すか・・・」

鈴木   「・・・どっちもできないって。」

小林   「ラブレター書いて、みんなに聞かれて、どういう国語力が上がるんですか!筆者の意図が分かるようになるんですか!そんな問題大学入試にでないですよ!」

鈴木   「そりゃ、そうだけど・・・」

本田   「筆者、自分だもんね。」

小林   「でしょ!」

本田   「でも・・・最近はみんなメールでしょ。ちょっと前まで手紙だったのに。国語の先生としては一字一字書く手紙の良さを教えたかったんじゃない。」

小林   「じゃ、お友達に手紙書きましょうでいいじゃないですか!!んで、できたんですか。ラブレター?」

鈴木   「私はできたよ」

小林   「え!鈴木先輩がラブレター書いたんですか?」

鈴木   「なんだよ、書いちゃ悪いのかよ」

小林   「宿題でも書いたんだ。・・・あ、また鳥肌が・・・。」

鈴木   「そんなにキモいのかよ!」

小林   「だって、いつ聞いても『好きな男はいない。何が彼氏だ!』って言ってるじゃないですか!」

鈴木   「言った?」

小林   「それに、2月14日は微妙に2,3人、殺したくなる・・・って言ってたのに。」

鈴木   「おい、言ってないよ。そんなこと」

小林   「うそだ!言ってますよね。」

本田   「うん。」

鈴木   「え、言ってた?」

本田   「しかも言うだけじゃないけどね。いろいろしてるよ。そういう時期は。」

小林   「え、そうなんですか?」

本田   「うん。」

小林   「あ、わかった。クリスマスもだ!」

本田   「正解!」

小林   「いちゃいちゃしているカップルに雪玉投げたとか?」

鈴木   「クリスマスツリー切っただけだよ。」



小林   「切った?」

本田   「2本だけね」

小林   「二本も切ったんですか!?」

鈴木   「昔だよ。小さかったし・・・うち貧乏で、クリスマスツリーなんてなかったし、暖かい家の中では楽しい会話・・・。うらやましかった・・・。初めてのこぎりで切った物がツリーだった・・・。」

小林   「幼稚園の頃ですか?」

本田   「中三の冬かな」

小林   「最近だろ!」

鈴木   「そうだった? 受験のストレスって、人間を変えるのよ・・・。」

小林   「小さい子いる家じゃないでしょうね?」

鈴木   「それは大丈夫。バカップルのツリーだから。図書館でいちゃいちゃしてるカップルみつけてあとつけたから。しかもバカップルのくせに家の前にツリーがあるの。公害なんだからあのくらいいいでしょ。」

本田   「いやよくないよくない。それに・・・」

小林   「まだあるんですか?」

本田   「うん、カバンの中のチョコとかクッキー割ってまわったり、花火大会の前日に雨乞いしたこともあった・・・」

小林   「はははは・・・わかった、本当はうらやましいんでしょ!」

鈴木   「全然。男なんて、単純だし、バカだし、そんなのと一緒にいて喜んでいるやつの気持ちがわからん。」

本田   「一部の男子を一般化しすぎだって。」

小林   「でも、レズじゃないんですよねー」

鈴木   「当たり前だろ。子孫が繁栄せん。私はノーマルだ。」

小林   「男を好きになるんですか?」

鈴木   「当たり前だろ! 好きな男が現れたらつき合うから。」

小林   「ホントにいないんですか?好きな人」

鈴木   「・・・いないよ。」

小林   「ほんとに?」

鈴木   「いない!」

小林   「ほんとにほんと?」

鈴木   「しつこいな!いないって言ってるだろ!」

小林   「・・・いいんですか・・・そんなこと言って・・・。」

鈴木   「なんだよ・・・。」

小林   「知ってますよ・・・、あの日、あの時、あの人を見ている先輩の目は・・・。」

鈴木   「は?!」

本田   「だめだよ!小林。美枝ちゃんいじめちゃ。」

小林   「え?」

本田   「困っているでしょー。」

小林   「あ、すいません・・・。」

鈴木   「・・・」

本田   「あの人ってだれ?」

小林   「さー、誰なんでしょ・・・。冗談ですから・・・。」

本田   「なーんだ、冗談か^^」

     間


小林   「何の話してたんでしたっけ・・・。あ、そうだ!先輩ツリー切ってたんだ!」

本田   「そうそう、むかつくからってクリスマスツリー切ったり、バレンタインデーのチョコ割っちゃだめだよ。」

鈴木   「まずい?・・・」

本田   「ちょっとね・・・」

小林   「いや、かなり・・・。」

鈴木   「そうか・・・結構スッキリするんだけどなー。・・・別のことにするか・・・。」

小林   「少しは反省しろよ!」




小林   「で、どんなラブレターになったんですか?」

鈴木   「私の?」

小林   「はい。鈴木先輩が書いたやつですよ。ある意味楽しみ。」

鈴木   「いやー」

本田   「期待しない方がいいよ。」

小林   「期待はしていません!」

鈴木   「おい!」

小林   「先輩、あ、これですね。」

鈴木   「あ、勝手に・・・。」

小林   「『たけし君へ 私はあなたが好きです。つき合ってください。』・・・これだけ?」

鈴木   「そう。」

小林   「そうって・・・。」

鈴木   「いいだろ・・・。」

小林   「・・・期待はずれ。」

鈴木   「別にお前を喜ばせるために書いたんじゃないんだからそれでいいんだよ。それにお前期待してないって言っただろ!国語のめんどくさい宿題なんだから、どうでもいいんだよ。」

小林   「もう少しなんか面白くしないとー。」

鈴木   「その短い言葉に深い思いを込めた。」

小林   「だって、先輩の手紙ですよー。もっと攻撃的に行きましょうよ。」

鈴木   「攻撃的ってなんだよ。じゃあ、お前も考えてみなよ。」

小林   「え、私もですか?」

鈴木   「そうだよ。私のラブレターにあれだけ偉そうに文句言ってたんだから。」

小林   「文句なんて言ってないですよ・・・」

鈴木   「佳子も書くの手伝ってもらいたいよね」

本田   「うん、ちょっと小林ちゃんの書くラブレターも興味あるかな。」

小林   「任せてください。頑張ります!」

鈴木   「・・・おまえ、佳子の言うことだけは素直に聞くよな。」

小林   「はい、『本田先輩の言うことは聞く』が座右の銘ですから」

鈴木   「分け分からんよ。」

小林   「よし、そうとなったらやりますよ。うーん」

鈴木   「できた?」

小林   「そんな簡単にできるわけないでしょ!」

鈴木   「いや、まー天才なら何とかなるかなーって。」

小林   「それもそうか」

鈴木   「否定しないのかよ!」


小林   「あ!」

本田   「もう思いついたの?」

小林   「ま、鈴木先輩じゃ絶対書けないような物を書いて見せます」

鈴木   「おうおう、頑張れ天才」

鈴木   「あ、小林、次の公演はいつ?冬なの?」

小林   「ハイ、去年と一緒です。あ、でもなんか先生忙しいから、ちょっと時期遅らせようかって言ってました。」

鈴木   「あ、そうなんだ。試験終わったあとになれば、見に来れるかもしんない。」


小林   「え、来るんですか?」

鈴木   「私に来るなっていってんの?」

小林   「まさか・・・そんな恐れ多い・・・。受験勉強忙しいじゃないですか」

鈴木   「1時間くらい良いでしょ。気分転換くらいしなきゃ。」

小林   「しっかり勉強してください。・・・もし手伝ってもらって、落ちたときの方が恐いですから・・・。」



小林   「・・・時計が!」

鈴木   「あ、時計がね。^ ^」

小林   「はい、時計が。」

鈴木   「手伝っているときにね、頭に落ちたら恐いもんねー^ ^」

小林   「はい。命に関わりますから・・・時計がね!」

鈴木   「時計がねー^ ^」

小林   「運悪く当たって、ウォッチ!なんて言ったりして・・・」



鈴木   「早く書け!」

小林   「はい!・・・。」



鈴木   「台本は?」

小林   「私が書きました。」

鈴木   「タイトルは?」

小林   「『夏の日差しとおじいちゃんと女の子そしてピエール』」


鈴木   「どんなはなし?」

小林   「それは内緒ですよ。」

鈴木   「そっか。(本田に)何してんの?」

本田   「ノートの清書。」

鈴木   「また頼まれたの?」

本田   「うん。」

鈴木   「別に佳子のノート十分キレイなんだから、そのまま貸せばいいじゃん。」

本田   「いや貸すから書き直しているわけじゃないよ。ノート結構めちゃくちゃだから。」

鈴木   「それに受験勉強忙しいのにあいつもなんで頼むかね。」

本田   「ま、毎回の事だし・・・」





鈴木   「ふーん、、」

本田   「なに?」

鈴木   「いや、ずいぶん丁寧に書いてるなーって思って。」

本田   「あ、そうだ、今度勉強教えてあげてよ。」

鈴木   「なんであいつになんか。自分で勉強しろっていっといて。」

本田   「美枝ちゃん、ホントに佐々木君に厳しいよね。」

小林   「佐々木?」

鈴木   「あ、いいのいいの。こっちの話。で、できた?」

小林   「あ、あとすこし、えーっと・・・。」


小林   「できました!」

鈴木   「どれ・・・」

小林   「ま、感動しちゃってください。」

鈴木   「お前の文章に感動するかなー・・・こんなに書いたの?」

小林   「はい。」

鈴木   「どれ・・・
『はじめまして。突然のお手紙に驚いているでしょうね。ぜひあなたにお伝えしたいことがあって、我慢できずに出してしまいました。忙しかったら読まなくてもいいですからね。あなたは私のことを知らないかもしれませんが、初めて交差点で見かけたあの日、私は一目惚れしてしまいました。あなたが知りたい。どんな事をしているのか、どこに住んでいるのか。迷惑だと思ったのですが、あとをつけちゃった。ホントごめんなさい。ストーカーとかじゃないんです。ホントにこんなの初めてなんです。
ビルの間を抜け、細い路地を抜け、あなたは小さなビルに入っていきましたね。私は靴を脱いで後を追いましたよ。気づかなかったでしょ^^。あなたは屋上で、黒い敷物を引き、ギターのケースから・・・ライフルを取り出しましたね。銃を組み立ててー、スコープをつけてー、息をとめ、動きを読む。そして!あなたが打った瞬間私も打たれてしまいました。その後、8丁目のビルにいきました。自宅ですか? とてもおしゃれなビルですね^^。5階の10号室があなたの部屋でした。大好きです!つき合ってください。』」

小林   「題して『あなたは“スナイパー”』」

鈴木   「はあ・・・。」

小林   「感動して言葉も出ませんか^^」

鈴木   「いいわけないだろ!な?」

本田   「うん・・・殺し屋なのに高校生にあとつけられて、自分の家までばれちゃうのはだめだよねー。」

小林   「あ!、そうか!」

鈴木   「そういうことじゃねーよ。」

小林   「で、どうですか?」

鈴木   「いやさ、演劇部としては面白いんだよ。でも、これ教室で読まれるんだよ。二人ともクラスではそういうキャラじゃないからさ・・・。」

本田   「・・・」

小林   「先輩、クラスじゃ、ガーってところだしていないんですか?」

鈴木   「ガーってなんだよ、ガーって」

本田   「でも、いつもの練習しているところは見せられないかも・・・」

小林   「フンガーって顔してますもんね。」

本田   「うん。」

鈴木   「うんってなんだ?!うんって!いつ私がそんな顔した?え?」

小林   「その顔です。ほら(鏡をみせる)」

鈴木   「・・・。」

小林   「いままでその顔に気づいてなかったんですね・・・」

本田   「大丈夫だよ。その顔を知っているのはうちらだけだから。そんなに気を落とさないで。」

鈴木   「・・・」

鈴木   「ま、クラスの発表で笑いはとれないよな・・・、いつもクールなポジションだか
ら。」

小林   「その顔はクラスの皆様に見せられないですもんね。」

本田   「事実だからしかたないよ。」

鈴木   「・・・」

小林   「・・・クラスで読んでもらえて、先輩らしいラブレターかー・・・。うーん。難しいですね」

鈴木   「・・・別にそこまで本気にならなくてもいいぞ。ちょっと書いてみれって言っただけなんだから」

小林   「分かってますよ。私だってテスト前ですから、アイデアでなかったら・・・あ。」

本田   「なに?」

小林   「先輩のラブレターってそれで完成ですか?」

鈴木   「?、いや、別にまだいいのができればそっちを出すよ。佳子のにいたっては一行もできていないし。」

小林   「じゃ、いいの書けば私のをだしてもらえる可能性もあるんですね。」

鈴木   「いいの書けばね」

小林   「いいのって、授業で読まれるんですよね?」

鈴木   「うん。たしか・・・ね?」

本田   「なに、そんないいアイデアうかんだの?」

小林   「自分の才能が恐い・・・。」

鈴木   「いいから、早く書け!待っててやるから。」

小林   「はい。」



本田   「あ、美枝ちゃん、前回ってテストどうだったの?」

鈴木   「?」

本田   「頑張っていたじゃない」

鈴木   「ああ。ま、順位は上がったけど・・・」

本田   「4番?」

鈴木   「いや、3番。」

本田   「すごーい。過去最高じゃない?」

鈴木   「ま、そうだけど。この時期みんな勉強しなくなるからね。いつも通りやっとけば自然に上がるよ。」

本田   「いつも通りできるのがすごいよ。」

鈴木   「だって私受験組だし。最後までやらんと。でも1番2番は別格だわ。いくらやっても勝てん。」

本田   「あーあの二人はね。落とした点数が10点だとか15点だとかって次元で争ってるもん。でも、受験勉強しながら3番でしょ。やっぱりすごいよ。」

小林   「受験勉強順調なんですか?」

鈴木   「そりゃね。人生かかってるから。」

小林   「本田先輩も?」

本田   「うん。」

小林   「でも焦ってる感じはないですね。」

本田   「そう?私的には結構焦ってるよ。」

鈴木   「でも、本格的には雪が降り始めたらじゃない。」

小林   「そんなもんですか?」

鈴木   「うん。よく先生も『雪が降るまでにはこの問題集終わらせなさい』っていうもん」

小林   「へー。雪ですか・・・雪が降ると嬉しいのに、受験生には嬉しくないんですね。」

本田   「そうだね」





小林   「あの・・・」

鈴木   「うん?」

小林   「ノート、さっき佐々木って人に貸すって言ってましたが・・・」

本田   「うん。」

小林   「もしかして、佐々木先輩ですか?」

本田   「そうだけど・・・」

小林   「えー、いいなー。どういう関係なんですか?」

鈴木   「どういう関係ってか」

小林   「仲いいんですか?」

本田   「仲はどうかな・・・」


鈴木   「・・・、仲はいいよ。」

小林   「ホントですか?!いいなー」

本田   「幼なじみだから。」

小林   「幼なじみ?」

鈴木   「なんだ知らなかったのかよ。」

小林   「さすがにそこまでは」

本田   「美枝ちゃんと3人。幼稚園・・・お母さんどうし友達だから、その前からの幼なじみ。」

小林   「へー、どんな3人だったんですか?」

本田   「三人で遊ぶと・・・いつも美枝ちゃんのあと付いてばっかり。」

小林   「佐々木先輩じゃなくて?」

本田   「美枝ちゃんの方が強かったから。」

鈴木   「そうだっけ?」

本田   「だって佐々木君がいつも泣かされてたもん。」

鈴木   「泣かしてないって!」

本田   「泣かしたよ。幼稚園の学芸会で・・・」

鈴木   「あ!・・・泣かしたわ。だってさ、桃太郎偉そうにしているから。」

本田   「鬼が桃太郎やっつけちゃまずいよね。」

鈴木   「変なこと覚えてるなー・・・」

本田   「うちにビデオあるから。この前見たんだ^^」

小林   「昔から変わってないんですね。先輩って。」

鈴木   「変わってないってどういう意味だ?え?こら」

小林   「あ、鈴木先輩、佐々木先輩のこと好きだったりして!」

鈴木   「なにいってんだよ!」

小林   「だって、いじめっ子って好きな子いじめるじゃないですか!」

鈴木   「そんな分けないだろ!どうして私が、自分より弱いやつなんか・・・。」



本田   「あ、また怒らせた」

小林   「・・・あ、すいません!」

鈴木   「・・・別に怒ってないよ。で、できたの?」

小林   「あ、できました!」

本田   「できた?」

小林   「え、まあ。」

本田   「やっぱり書くの早いね。」

小林   「はい。」

鈴木   「どれ」


鈴木   「『こんにちは。突然こんな手紙をもらって、キレてませんか。あなたを見たとき、時間が止まり、私の心に何かが刺さってしまいました。天気がどんなに荒れていても、私は山田君のことを毎晩考えていています。私の心は壊れそうです。たとえ来年この町から離れて山田君と別れても、あなたは私の心から消え去ることはないでしょう。死にたくなるほどあなたが好きです。』」

本田   「へー、なかなかいいじゃない。ねえ。」  

鈴木   「・・・」

小林   「そうですか? やっぱり。褒めていただいて恐縮です。鈴木先輩出して下さいね。で、頑張って授業中に読んでもらえるようにアピールしてくださいね。本田先輩のやつはすぐに書きますから。」

鈴木   「おーい。。。小林・・・。」

小林   「・・・先輩・・・眉間にしわが・・・」

鈴木  「お前、私が気づかないとでも思っているのか!」

小林   「気づきました?!」

鈴木   「当たり前だろ!」

本田   「どういうこと」

鈴木   「佳子、ダメだって、やつの仕掛けた罠に気づかなきゃ」

本田   「え、罠って?」

鈴木   「縁起でもない言葉、満載なんだよ!」

本田   「縁起でもない言葉?」

小林   「(呪う感じで)切れる、止まる、刺さる、荒れる、壊れる、離れる、別れる、消える、去る、死ぬ。」

本田   「ホントだちゃんと入ってる!よくこれだけつなげたね。すごい!」

小林   「題して『呪いのラブレター』。でも未完成なんです。」

本田   「未完成?」

小林   「はい! 『割れる』入れ忘れたんですよ!」

本田   「あら・・・。」

小林   「で、『呪いのラブレター』に先生が気づくわけですよ。「あれ?ずいぶん縁起の悪い恋文ですねー。これを書いたのはだれですか?、あら鈴木さん・・・。こんなラブレター書くから彼氏ができないんですねー、くっくっく」って言われるんですよ。」

小林   「面白さ無しの本気ラブレターとなると難しいですね。」

本田   「うん。」

小林   「書きながら思ったんですけど、面白くしようとか、笑わせようとか、鈴木先輩をおとしいれようとしてたから書けたんですけど・・なんかありきたりになりますよね。多分。」

本田   「そう、そうなの。それでさっきから悩んでいたの。何書いてもどっかで見たような文章になるから・・・。」

鈴木   「・・・私は別に良いだろって言ったんだよ。どうせ、ラブレターなんて、つき合ってくださいと好きですが入っていたらいいだろって。」

本田   「うん・・・。」

鈴木   「こんな調子でうーーん。って言うんだよ。」

本田   「いや、だって、同じじゃ、宿題にならないでしょ。」

鈴木   「それはそうだけど・・・」

本田   「それに、自分が書くとしても、みんなと同じじゃやだし・・・。なんか宿題って言うより、自分のはどう書くんだろって悩んじゃった・・・。」

鈴木   「本当にラブレターなんか書かないだろ?な?」

小林   「へ?・・・あ、いや。」

鈴木   「書いたな」

小林   「いや、べつに」

鈴木   「書いたのか。どんなの書いた?」

小林   「昔ですよ。昔。」

鈴木   「同じだったのか・・・。好きです、つき合ってください。だったんだろ。」

小林   「先輩のよりは長かったですけど。」

鈴木   「結果は?」

小林   「結果?」

鈴木   「書いたなら、出したんだろ!」

小林   「いいじゃないですか!、どうでも」

鈴木   「そうか!ダメだったのかー、残念だねー。いやー、残念だ!」

小林   「私の魅力が分からないやつは良いんですよ。・・・て、なんで私の話になってるんですか?」


小林   「話は変わるんですけど、本田先輩の好きな人って、佐々木先輩?」

本田   「なに急に」 

鈴木   「正解!」

本田   「なんで分かったの?」

鈴木   「誰でも気づく!いままで気づかない小林の方がおかしい。」

小林   「う!」

鈴木   「ありきたりのラブレターしか書けないから、気づかないんだよ。」

小林   「何言ってるんですか!書けますよ。ラブレターくらい。」

鈴木   「さっき難しいって言っただろ!」

小林   「さっきはさっきです。書けますよ。すごいラブレターくらい。」

鈴木   「無理だって。」

小林   「いや、書けます。天才ですから。」

鈴木   「ほー。じゃ、書いてもらおうじゃないの。」

小林   「任せてください!」

鈴木   「書けた?」

小林   「真っ白。だって、好きな人いないのに、すごいラブレター書けっていうのが無茶なんですよ。」

鈴木   「いないの?寂しい女だなー。好きな男の一人や二人くらいいなきゃ!女子高生として恥ずかしくないのかよ!」

小林   「じゃ、鈴木先輩はどうなんですか!。・・・。」

鈴木   「私?・・・。」

本田   「いいなー、って思う人はいないの?」

鈴木   「えー・・・」

本田   「好きってわけじゃなくても、気になる人でもいいから・・・。」

鈴木   「・・・。それならいるよ。」

本田   「どんな人?」

鈴木   「・・・、えっと・・・まず勉強がわたしよりできて・・・」

鈴木   「一緒にいて楽しくて・・・運動もそこそこできるかな・・・。」

小林   「・・・え、先輩の好きな人って、ぶー先輩?!」

鈴木   「え?」

小林   「鈴木先輩オツムは悪そうに見えますが、こう見えて学年3位じゃないですか。」

鈴木   「うん。・・・あ!」

小林   「1位は女子の橋本先輩ですよね。それで鈴木先輩よりも頭がいい男子となると・・・」

本田   「あ!近藤ぶー君!!」

小林   「そうですよ!学年2位の近藤先輩!生徒会のランキングで4冠なんですよ! 怪しい体液を全身から分泌してそうな人、放送されているアニメはすべてチェックしてそうな人、ほくろから剛毛が生えてそうな人、納豆にケチャップをかけてそうな人ある意味伝説の先輩です。」

本田   「アンケートいっぱいやっているんだね。」

小林   「はい!生徒会、行事ないとき暇ですから^^・・・頑張ってください・・・。」

鈴木   「いやいや」

小林   「本田先輩はあの佐々木さん。面食いか・・・」

本田   「いや、あ、それは違うよ。私は、佐々木君とは幼なじみで、まだあんなにかっこよくなる前から、もう小さくて、丸坊主で、くりくりだった頃からだから・・・」

小林   「佐々木先輩にもそんな時期があったんですか?」

本田   「あったよね?」

小林   「鈴木先輩も知っているんですか?」

鈴木   「当然。さっき一緒っていっただろ。あいつは一年中丸坊主で。まあスポーツやっていたってのもあるんだけど。でもサッカーだから髪のばしてもいいんだけど、中学入るまでずっと坊主だったよ。」

小林   「へー、佐々木先輩の坊主か・・・。みてみたい。」

本田   「結構かわいいよ。」

小林   「写真持っていません?」

本田   「小学校の卒アルなら」

小林   「見せてくださーい。お願いします。」

本田   「えー、どうしようかなー」

小林   「チュッパチャップスでどうです?」

鈴木   「安!」

本田   「えー。」

小林   「ビスコもつけます」

本田   「いいよ。」

鈴木   「いいのかよ」

本田   「うん。ビスコ好きだし。つよい子になるんだよ。」

鈴木   「知ってるよ・・・。昔よく食べた。」

小林   「その頃から佐々木先輩のこと好きなんですよね」

本田   「えっと・・・12年だね・・・。」

小林   「12年!一度も告白しなかったんですか?」

本田   「幼なじみって事でお話しもできるし、いま佐々木君サッカーが一番だから、邪魔しても悪いでしょ。大学行ってもサッカー続けるって言ってたし・・・」

小林   「佐々木先輩、大学行くんですか?」

本田   「うん、サッカーの強いところさがしたらしい。」

小林   「じゃあ・・・」

本田   「じゃあ?」

小林   「あ、いや、なんでもないです。」

本田   「気になるなー。なに?」

小林   「いえ、いいです。」

本田   「何でも言うこと聞くんでしょ!なに?」

小林   「はい・・・あと半年だなーって・・・」

本田   「半年?」

小林   「一緒に入られるのも・・・すいません!」

本田   「あ、そっか。ずーっと一緒だったけど、半年で終わりか・・・。」

鈴木   「・・・よし、すごいラブレターは佳子の事にしよう!」

本田   「え?」

鈴木   「空想じゃ無理だし。やる気出てきた!」

本田   「いいよ、そんなの恥ずかしいし。先生に提出出来ないじゃない。なにより佐々木君に気づかれたら・・・」

鈴木   「大丈夫大丈夫。男なんて気づかないって。直接好きって言わない限り、大丈夫。な。」

小林   「・・・名前とエピソードちょちょっと変えとけばだれも分からないと思います・・・。」

鈴木   「究極のラブレター作ろう!」

本田   「いや、でも、なんか、恥ずかしいし、ね、相手が分からないって言っても・・・、」

鈴木   「あー、もう、大丈夫だって。すぐ最悪のことばっかり考えるんだから。だから・・・、あれ佳子が選ばれたって言ってたのって何だっけ?」

小林   「あ、本田先輩は 眼鏡と読書がチャームポイントで、存在感が薄い人ランキングと欠点もないが武器もない、女子が合コンに連れて行きたい人ランキングの2冠です。」

本田   「そんなのに選ばれたんだ・・・」 

鈴木   「あんまり褒められてはいないぞ」

本田   「分かってるよ。」

鈴木   「な、いいだろ。佳子しかちゃんと好きな人いないんだから。究極のラブレター3人で作ってみるなんて、面白そうじゃない! やってみるぞ、な?」

小林   「・・・」

鈴木   「お前もお願いして!」

小林   「お願いします。このとおり。」

      間

本田   「・・・ハイ・・・。」

鈴木   「よし、そうとなったら始めよう。」

鈴木   「ラブレターの基本は同じだと思うんだよ。自分の気持ちを伝える。読んだ相手が手紙を書いた人を好きになる。この2つだろ。」

小林   「はい。」

鈴木   「で、伝えるときに好きだとかって入れるとありきたりになるから、別の伝え方があるのかってことと、好きにならなきゃいけないから男はどんな女が好きなんだろーってことだろー。」

小林   「いきなり話が難しくなってるんですけど・・・。」

本田   「難しいね。ありきたりな物なのにね。」

小林   「ありきたり?」

本田   「だって、ラブレターって昔から何千年も書かれてるわけでしょ?」

小林   「そうなんですか?」

鈴木   「何千年かどうかまでは知らんけど少なくとも1200年は書いてるよ。」

小林   「?」

鈴木   「古典でやっただろ!」

小林   「古典きらいでほとんど寝てるんで・・・。」

本田   「あ、和歌か。そういえば結構あったよね。ラブレターのやつ。」

小林   「へー、どんなやつですか?」

本田   「え、急に言われても・・・。あ、紫の袖がってやつ恋の歌じゃなかったっけ?」

小林   「紫の袖?」

本田   「全部は覚えてないよ。美枝ちゃん!」

鈴木   「『あかねさす 紫野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き 野守(のもり)は見ずや 君が袖振る』でしょ?」

本田   「あ、それそれ。」

鈴木   「でもこれは恋の歌って感じじゃないよ。」

小林   「そうなんですか?」

鈴木   「うん。だってこの歌、歌会で歌われた和歌なんだけど、書いた額田王(ぬかたのおおきみ)は昔、天武天皇と恋仲で、でも結婚できなかったのさ。なんだけど、2人が歌会で再会して、まだ恋心が残っています的なことをお互いで言い合うの。で、返答が、『紫の にほへる妹(いも)を 憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも』 バイ 天武天皇。」

小林   「・・・鈴木先輩って本当に頭よかったんですね。」

鈴木   「今まで信用してなかったのかよ」

小林   「ハイ、何かの間違いだと思ってました。じゃ先輩なら、いい歌知っているんじゃないですか?」

鈴木   「有名どころなら・・・。」

小林   「どんなのですか?」

鈴木   「むかついたから喋らん。」

小林   「あ、そんなこといって、ホントは分からないんだー!」

鈴木   「わかってるよ。お前と一緒にするな。」

小林   「じゃ、言ってみてくださいよ。」

鈴木   「・・・“思ひつつ ぬればや人の見えつらむ 夢と知りせば さめざらましを”」

小林   「バイ ザビエル?」

鈴木   「小野小町!」

小林   「あ、小野小町の名前だけはわかります・・・。でもどういう意味なんですか?」

本田   「夢に大好きな人が出てきてうれしかったんだけど、目を覚ましちゃったの。夢だって分かっていたら目を覚まさなかったのに、って意味。」

小林   「おー。いいじゃないですか・・・。・・・。でも“あなたが夢に出てきて、夢だって分かっていたら、目を覚まさなかったのにー”ってラブレターもらったらひきますか?」

鈴木   「書き方だと思うけどなー・・・。な?」

本田   「うん。私この歌結構好き。」

小林   「あとは!あとは!」

鈴木   「いくら何でも、そんなにホイホイでてこないよ!家に帰って調べないと。」

小林   「じゃ、あとで調べましょ。」

鈴木   「え?家でもやるのか?」

小林   「はい。先輩んちで。明日土曜だし、いいですよね。」

鈴木   「それは別にいいけど・・・。」

小林   「ついでに勉強教えてください。」

鈴木   「あ、それがねらいか!」

小林   「お願いします。古典やばいんですよ。」

鈴木   「私も勉強あるんですけど・・・。」

小林   「先輩なら何とかなりますって。」

鈴木   「受験勉強もあるんですけど・・・」

小林   「先輩なら大丈夫!合格します!合格率2%!」

鈴木   「2%?」

小林   「私に古典を教えると100%!」

鈴木   「ならねーよ。」

小林   「お願いしますよ。先輩。この通り。何でも言うことききますからー、お願いします」

鈴木   「あーわかった、わかった。」

小林   「ほんと?」

小林   「よし! これで試験はばっちり! 本田先輩も来ますよね」

本田   「あ、ごめん、今日はちょっとだめなの。」

小林   「じゃ、2人で頑張ります。先輩明日学校来ます?」

本田   「図書館で勉強しようと思っているから、来るよ。」

小林   「じゃ、部室よってください。」

本田   「試験前なのに部活やるの?」

小林   「台本の丁合(ちょうあい)だけやってしまおうって事になって。」

本田   「うん。分かった。」

鈴木   「じゃ、3人で考えるとこまで考えるか・・・。」


小林   「はい・・・。えっと・・・好きだという気持ちの伝え方はあとで考えるとして、男の人って、どんなとこを好きになるんですか?」

鈴木   「…さあ…顔?」

小林   「顔・・・載せます?」

本田   「あー、やめよ」

小林   「『性格めちゃくちゃいいです!』って書きます?」

鈴木   「うーん、なんかわざとらしくないか? やっぱりそのまま正直に、いいところ伝えるしかないだろ。」 

小林   「本田先輩、自分のいいところは?」

本田   「え? うーん…どこ?」

小林   「私が聞いているんですよ」

鈴木   「まずはこう見えて頑固なところ。一途なところでしょ。」

本田   「そうかな?」

鈴木   「そうだよ。だって幼稚園からだよ。十分頑固。」

本田   「たまたまだよ。」

鈴木   「たまたまってね。12年もあきもせず…。同じ人好きでいつづけて…」

本田   「ちょっとしつこいかな…。」

鈴木   「いいんじゃない?…。あとやさしいとことか、読書が好きなとことか!・・・ただ・・・なんとかしてそれを感じ取らせないとダメだろ・・・。」

小林   「どうやって入れましょうか・・・。先輩!佐々木先輩のどんな所、みてます?」

本田   「え?たしかに他の人より見ているかもしれないけど・・・。急に言われてもー。」

小林   「“あなたの今日のパンツは青でしたね”とか“爪短くなってましたね、昨日切ったのですか?”とかは?」

鈴木   「それじゃ、タダのストーカーだよ。」

本田   「急には思い出せないよ。」

小林   「好きな人なんですよね?」

本田   「うん、一応・・・。」



鈴木   「一番最初に好きになった人だから。、なんでも見てるんだよ。」

小林   「え?」

鈴木   「幼稚園の将来の夢でも佐々木君のお嫁さんって言ってたし・・・。それ以来ずっと。」

本田   「美枝ちゃん!」

鈴木   「何でも聞いてくれ! 長いつきあいなんでね。」

小林   「じゃ、一番好きなところは?」

鈴木   「スポーツ万能なところ。」

小林   「あってます?」

本田   「…はい」

鈴木   「信用しろよ。大丈夫だって。佐々木の話はいつも聞かされてたから。他にはさ」

鈴木   「えっと…。でもスポーツがらみが多いよね。言ってたのって。練習が終わってから、一人だけ残って黙々と練習している姿とか、本当は足が痛いのに試合で頑張っているところとか、点差が開いても最後まであきらめないで頑張るところとか。基本的に頑張っている人が好きなんでしょ? あ、つい最近だと、この前の最後の大会でしょ。結局全国いった高校に4-0で負けたやつ。チームメイトもう負けたと思っていて、どんどんプレスも弱くなって・・・そんななかでも佐々木は『これが最後の試合だぞ、俺たちの最後の試合このままでいいのかよ』ってみんな励ましてた。私も相変わらずだなーっておもったわ。中学校の時も最後の大会でおんなじこと言ってたもん。結局負けちゃったけど、負けて泣いてたけど、あいかわらず、佐々木だったね。幼稚園のころから、雪合戦やっても鬼ごっこやっても学芸会の練習でもみんなを盛り上げる変なやつだった。・・・・・・・・・。」

本田   「すごい・・・」

鈴木   「え?」

本田   「あってる。いつも昔のことは忘れるって言ってたから・・・。ちゃんと覚えているんだね。」

鈴木   「そうだっけ・・・。どうしたんだろ、今日。頭さえてるのかな・・・。」

小林   「・・・。そろそろ行きますか!続きは先輩の家で。」

鈴木   「・・・うん。」

小林   「本田先輩どうします?」

本田   「じゃ、私も帰るわ。」

小林   「じゃ、一緒に行きましょう。」

本田   「うん。」

小林   「あ、すいません、先輩ちょっと教室経由でいいですか?」

鈴木   「どうした?忘れ物?」

小林   「はい。」

鈴木   「先教室行ってきな。鍵はうちらで閉めとくから。その方が早いだろ。」

小林   「そうですけど・・・。」

鈴木   「時間がもったいない!早くいってこい!」

小林   「分かりました。お願いします!」


本田   「いい?」

鈴木   「うん。」

本田   「じゃ、行こうか・・・。」

鈴木   「佳子」

本田   「なに?」

鈴木   「佐々木、大学決めたんだ。」

本田   「うん、そうみたいだね。」

鈴木   「どこ?」

本田   「東京だって。ノート借りに来るときに言ってた。」

鈴木   「ふーん。」

本田   「でも、内緒にしておいてだって。まだ誰にも言ってないんだって。」

鈴木   「・・・そう・・・。」

本田   「3人一緒の学校もこれで最後だね。雪が降ったらもう一緒にいれないんだね。・・・さっき小林に言われて、そうなんだなーっておもっちゃった。」

鈴木   「・・・」

本田   「・・・美枝ちゃん?」

鈴木   「佳子・・・」

本田   「うん?」

鈴木   「ホントにこのままでいいの?何も言わなくて。」

本田   「・・・わかんない・・・。」

鈴木   「東京なんでしょ?もうしばらく会えないよ。」

本田   「・・・自分でも言った方がいいのかなって思うときもあるけど・・・」

鈴木   「じゃ・・・」

本田   「ダメなとき、そばで見ていられなくなる方がイヤだから・・・。」

鈴木   「そんなんじゃさ・・・私・・・」

本田   「え?」



小林   「すいません。お待たせしました。」

     間

鈴木   「おう、じゃ、いくか!」
小林   「は、ハイ・・・」

            翌日

本田   「おはようございまーす。」

小林   「しー。(小声で)あ、おはようございます・・・。」

本田   「できた?」

小林   「いえ・・・」


鈴木   「おはよう・・・。寝てたわ・・・。」

本田   「徹夜したの?」

鈴木   「あ、うん。ついムキになっちゃって。」

本田   「できなかったんだって?」

鈴木   「うーん・・・。小林の古典はひど過ぎるんだよ。外国人レベルを幼稚園児レベルに直すので明け方までかかった・・・。」

小林   「いや・・・」

鈴木   「は? お前、いとをかしの意味は?って聞かれてなんて答えた?」 

小林   「・・・“ビスコ!”」

鈴木   「と、いうわけで大したもんはできなかったのよ。ごめんな。」

本田   「いや、いいよ。私の宿題なのに。」

鈴木   「宿題って言うレベルはもう、越えてるわ。意地だねこうなると」

本田   「私のラブレターで?」

鈴木   「うん。」

本田   「でも、なんか変だね。」

鈴木   「なにが?」

本田   「私のラブレターを他人が考えるなんて・・・。しかも先生に出すのに。」

      間


鈴木   「・・・あのさ、これやっぱり出さない?」

本田   「出すよ。」

鈴木   「いや、そうじゃなくて。・・・佐々木に。」

小林   「え、なにいってるんですか?」

鈴木   「お前が何いってんだよ!佳子、佐々木に出さない?」

本田   「いいよ。そんなの・・・。前にも言ったけど・・・。」

鈴木   「それは聞いたよ。でも、勇気出して言ってみない?」

本田   「・・・。」

鈴木   「応援するから!」

小林   「鈴木先輩・・・なんで・・・。」

鈴木   「どう?」

本田   「・・・できないよ。やっぱり。」

鈴木   「でも、伝えたいんだろ。ホントは!」

本田   「どうしたの?今日の美枝ちゃん変だよ。」

鈴木   「もうさ、我慢できないんだよ。ホントは伝えたいくせに、意地はって」

本田   「意地なんかはってないよ。」

鈴木   「はってるだろ! 来年、あいついなくなるんだぞ。今言わなきゃ絶対後悔する!」

本田   「後悔するかもしれないけど・・・。」

鈴木   「ダメでもいいじゃん。がんばってみろよ!」

本田   「でも、もしダメだったら・・・。前にも言ったけど、ダメになるくらいなら・・・二度と今みたく話せなくなるくらいなら・・・。」

鈴木   「それは何度も聞いたよ!でもうちらはもうすぐ強制的にバラバラになるんだよ!何もしなくても今みたいに話せなくなる。」

本田   「・・・」

鈴木   「部活に来ても気づくだろ!今まで「自分の部活!」って言って、中心になってガンガンやってた。でもいまじゃ、部活に来たら「ありがとう」って言われる・・・。だから・・・。」

本田   「わかってるよ!・・・。分かってるけど、今みたく会えなくなるってわかっても・・・。わかっても・・・できないよ・・・。」

      間


鈴木   「・・・私、今回ラブレターずっと書いてて思ったんだ。究極のラブレターってなんなんだろって。佳子にとっての究極のラブレターってなんなんだろって・・・。

     間


鈴木   「佳子にとっての究極のラブレターはダメなとき、元の関係に戻れるラブレターなんだよね。私、どういうラブレターを書けばいいか分かったよ。・・・。絶対書く?」

本田   「え?」

鈴木   「絶対書くなら教えるよ。がんばってみない?」

本田   「元にもどれるの?」

鈴木   「うん。」

     間


本田   「教えて・・・。」

鈴木   「うん。・・・好きっていれないの。愛しているとかあなたが大切ですって入れない手紙にするの。」

本田   「どういう事?」

鈴木   「好きって言われると、嫌いなときには嫌いって言わなきゃならなくなるでしょ。」

本田   「うん。」

鈴木   「でもそういう言葉がなければ、特に返事は必要なくなるじゃない。」

本田   「たしかに。」

鈴木   「でも誰が読んでも好きだって気持ちに気づくくらいの感謝の手紙にするの。うまくいくときは相手も何かしてくるでしょ。もしダメで、相手が気を使って、つき合うことができないって言ってきても、感謝の気持ちを書いただけって笑えばいい。・・・わかる?」

本田   「そっか・・・。」

鈴木   「・・・約束だよ。必ず書くんだよ。」

本田   「・・・分かった・・・。」

鈴木   「さて、丁合(ちょうあい)はじめるか・・・。ここでやるの?。」

鈴木   「小林!」

小林   「・・・はい。なんですか?」

鈴木   「なにぼーっとしてるんだよ。丁合!どこでやるんだよ。」

小林   「あ、視聴覚室です。」

鈴木   「じゃ、視聴覚室に運ぼう。」

本田   「じゃ、私これ持っていってるね。」

鈴木   「おねがい。じゃ、わたしホチキスにしようかな。」

鈴木   「小林・・・。ホチキスどこ?。前ここに入れてたじゃない。場所変えたの?」

小林   「・・・」

鈴木   「小林!どうした、さっきからボーっとして。」

小林   「いいんですか?」

鈴木   「何がだよ。」

小林   「先輩の気持ちは伝えなくてもいいんですか?」


鈴木   「私の気持ちって?」

小林   「本当の気持ち。」

鈴木   「・・・。」

小林   「やっぱりあの手紙が先輩の本当の気持ちなんでしょ?」

鈴木   「なんだよ、本当の気持ちって」

小林   「佐々木先輩に伝えなくていいんですか?」

鈴木   「・・・。」

小林   「あれだけ、本田先輩に言ったのに・・・。鈴木先輩の気持ちだってちゃんと伝えないと・・・。絶対後悔しますよ。だから・・・」

鈴木   「いいんだよ。いいの。・・・。」

小林   「でも・・・、鈴木先輩の本当の気持ちなんでしょ!」

鈴木   「本当の気持ちって・・・。正直言うとわかんない。」

小林   「なら・・・」

鈴木   「いまでもなんでこんな気持ちが出てきちゃったのかなーって思うよ。ちゃんと隠してこれたのに・・・。だけどさっき、佳子が手紙を書くって言った。それでいいんだ・・・。」

小林   「どうしてそれでいいんですか?」

鈴木   「どうしてって・・・。私にとって佳子は一番の親友。大切な友達なの。もし誰かがあいつのことを傷つけたら絶対許さない。・・・。でもこの気持ちを伝えたら、きっと私があいつを傷つけちゃう。だから伝えないし、私の気持ちは今日でおしまい。」

小林   「そんなのって矛盾してますよ・・・。」

鈴木   「矛盾してる? そうかな・・・。でも私の中では結論が出てるの。それでいいって。」

小林   「・・・。」

鈴木   「ありがとな・・・。」

     間


鈴木   「さ、いこ。視聴覚室集合なんでしょ!」

小林   「は、はい。」

鈴木   「先輩が遅れたら話にならんでしょ。どうせ先生遅れるんだから。」

小林   「昨日飲むって言ってました・・・。」

鈴木   「飲むなら、朝起きることができる程度に飲めってね」

小林   「そうですよね・・・。」

鈴木   「おう」

           翌日

小林   「おはようございます!」

鈴木   「相変わらずうるさいな。」

小林   「先輩、今度はなにかいているんですか?」

鈴木   「また宿題」

小林   「国語ですか?」

鈴木   「そう。」

小林   「え、またラブレターですか?」

鈴木   「もう一回やらされたら、キレるよ。」

小林   「じゃ、今度は何かいているんですか。」

鈴木   「一年後の自分への手紙。」

小林   「?、なんですか?それ。」

鈴木   「そのまんまだよ。自分宛に書いてるの…。」

小林   「よく先輩そんなめんどくさい事やりますね。」

鈴木   「んで、どうしたの?」

小林   「試験前なんで教科書取りに来たんです」

鈴木   「もっと前もって勉強しろよ」

小林   「一夜漬け派なんで」

鈴木   「また赤点になるぞ」

小林   「う・・・」

鈴木   「でも、自分への手紙とか私こういうの好きかも。」

小林   「そうなんですか?」

鈴木   「小学生のときタイムカプセル埋めたんだけど、そんな感じで面白い。」

小林   「また、発表ですか?」

鈴木   「まさか。封筒に入れて提出。卒業式にわたされるんだって。」

小林   「…じゃ、まじめに書かなくても良いじゃないですか。」

鈴木   「そうなんだけどね。あとは良心の問題ってやつよ。ま、私は書くけどね」

小林   「先輩に良心?」

鈴木   「当たり前」

小林   「ツリー切ったくせに?」

鈴木   「う、、それはもうむかしのこと!」

小林   「都合良いなー!…どんなこと書いているんですか?」

鈴木   「見せるわけないだろ!」

小林   「ケチ!」

鈴木   「自分への手紙なんかみせるか。馬鹿。」

小林   「どんな内容かだけでも教えてくださいよ。ちょっとだけー。」

鈴木   「えー」

小林   「ちょっとだけ。」

鈴木   「…質問と励まし…」

小林   「鈴木先輩・・・、本田先輩ラブレター出したんですね。」

鈴木   「・・・うん。ホントにいいラブレターだったもん。絶対出せって、脅しちゃった。」

小林   「先輩が脅したんですが・・・絶対出しちゃいますね。」

鈴木   「私はどんなキャラだよ。」

小林   「どんな内容だったんですか?」

鈴木   「あいつらしい。ラブレター。」

小林   「へー、今度読ましてもらおう。」

鈴木   「・・・あるよ。」

小林   「何が・・・、え、あるんですか?」

鈴木   「うん。・・・コピーしちゃった。」

小林   「え、コピー!?」

鈴木   「バカ!声が大きいよ。自分の手紙に入れるの。」

鈴木   「そんな顔してると見せないぞ。」

小林   「あ、ごめんなさい。見せてください。」

鈴木   「内緒だぞ。」

小林   「任せてください。口は堅い方ですから。」

鈴木   「はい。」



鈴木   「いいラブレターだろ?・・・」

小林   「はい・・・。究極のラブレターですね・・・。」

鈴木   「うん。」

小林   「夢の中に佐々木先輩出てきて怒られたから謝るって、私たちのアイデアですね。」

鈴木   「うん。」

小林   「しかもいい言葉いっぱい入ってるし」

鈴木   「うん」

     間


小林   「・・・。出した結果どうなったんですか?」

鈴木   「さあ、知らない。まだ連絡ないもん。」

      間


鈴木   「よし、かけた。さて、帰るか。小林まだいる?」

小林   「あ、先輩が帰るなら、帰りますよ。今日練習オフだし。」

鈴木   「じゃ、帰るか?」

小林   「はい。」



鈴木   「あのさ、ちゃんと1年生に指導してる?引退してから、見に行ってないけど」

小林   「してますよ。ちゃんと先輩のガーって顔受け継いでます。」

鈴木   「私の顔は伝統か!、電気消すから先に出ろ」

小林   「はーい」



小林   「先輩!」

鈴木   「?」

小林   「部活に練習来てくださいね。」

鈴木   「・・・」

小林   「先輩は来年も、いつまでも私の先輩ですし・・・。本田先輩も・・・。」

鈴木   「・・・」

小林   「あとガーって顔、とても私じゃできないんです。見本見せに来てください。・・・。あ、あと期末も古典教えて下さい。やっぱり先輩じゃないと古典頭に入らないんです。 忙しくなるかもしれないし、来年とかいないかもしれないけど・・・。やっぱり先輩には来て欲しいんです・・・。」

鈴木   「うん、わかった。・・・先いってな。すぐ行くから。」


鈴木   「自分への手紙か、、えっと。『一年後の自分へ。大学は楽しいですか?しっかり女子大生していますか?私はそこで夢をかなえるために今、勉強しています。私の努力が無駄にならないように、勉強もちゃんとしろ。…。それと、手紙を2通同封します。・・・。一通は佳子の気持ち。もう一通は私の気持ち・・・。あなたは私の行動に今でも賛成してくれますか? 応援してくれますか?来年も、再来年も、大人になっても高校三年生の私がやったことは正しいと思い続けてくれますか?…でも私は・・・、』ううん、これでいい。私はこれがいい!」

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最終更新:2024年06月18日 11:19