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SE:波音

男01「あれ……なんで俺、海に来てるんだっけ……?」
女01「暑さで忘れちゃった? 遊びに来たんだよ」
男02「ああ、そうだっけ?」
女02「そうだよ! もう、失礼しちゃうなー。
   わたしみたいな可愛い子と海に来るなんて、君の人生でもう二度とないよ?」
男03「そこまでモテないわけじゃありません。
   しっかし、海は青いなー」
女03「あ、知ってる! 海が青いのは、空を反射してるからだよね?」
男04「違うな――や、それも一因ではあるけどさ」
女04「え?」
男05「海の色が青色を呈するのは青空の反射によるものと一般には言われているが、
   実際には水固有の色調によるものだ。
   もし、海の色が青空の反射のみでおこるとすれば、曇天の日には海の色は
   無色に見えなければいけない。
   実際には水は電離したイオンの関係で僅かに青緑色を呈しているから、
   これが海の色そのものという事になる。
   但し、海域により含まれるイオンや不純物により色調は異なるぞ」(超早口)
女05「ちょ、ちょっと待った、待ってお願い! いきなり何!?」
男06「正しい知識を伝えようかと」
女06「いらないよ! もぅ……雰囲気ぶち壊し」
男07「あー……そりゃ悪かった」
女07「いいよ、別に。
   ね、それよりせっかくの海なんだし泳ごうよ!」
男08「ああ、そうだな――って、ここ、泳いでもいいのか?」
女08「どうして?」
男09「だって、他に誰もいないじゃないか」
女09「そういうものだよ」
男10「それだけじゃなくて、なんて言うのか……海っぽくない。
   潮の匂いもしないし……これ、本当に海なのか?」
女10「……海だよ?」
男11「それに――君は、誰だ」
女11「…………くすっ」
男12「記憶は曖昧だ。だが、それでも分かる。
   俺は君なんか知らないし――今は、海で泳ぐような季節でもなかった」
女12「はぁ……何も知らないから、よかったのに。
   残念。踏み止まっちゃったね、君」

SE:荒い流れ

女13「ここは海なんかじゃないよ。
   ここは三途の川――君は死んだから、ここに来た」
男13「……馬鹿言うなよ。こんなデカイ川がどこにある?」
女14「そういうものだから。
   三途の川は、犯した罪が重ければ重いほど、大きくて荒い川になる」
男14「――――っ」
女15「君、人を殺したでしょ? それで追い詰められて、自殺なんかした。
   本当に馬鹿な人――自分を殺しても、それは罪になるだけなのに」
男15「俺は……どうなるんだ」
女16「好きにすれば?
   何も知らなければ、川に流されて行き着くところまで行き着いた。
   でも、君はもう知っちゃったから、この川には入らない。
   どこへも行けないなら――好きにするしかないでしょ?
   わたしは親切心で、背中を押してあげようとしたのに」
男16「っ、地獄へ落とすのが親切かよ」
女17「どこへも行けない永遠。
   決して踏み出せない足。
   それならいっそ、地獄にでも行った方が救いだったと思うけどね」

SE:足音

男17「おい、どこへ行く!」
女18「さようなら。貴方は貴方でなくなるまで、ここに立ち尽くしなさい」
男18「待て、行くな、置いて行かないでくれ!
   俺を一人にするなぁぁぁぁ!!」

無音

女19「回り廻るからこその六道輪廻。
   歩みを止めた者の末路は――語るまでもなし、と」


終わり